46話 白黒はっきり
―――ビートルバム 宮殿―――
「ユンクァンさん、独りでハートランドに向かって行ったんですか」
「ただでさえ単独行動好きなビートル人の中でもあいつは特にそう」
ユンクァンを除くセブンのメンバーの会議が終わって、部屋から出てきたルナをヤマナミは捕まえる。
セブンの会議はセブン以外参加が許されていない。
だが、ヤマナミには会議内容を記録する仕事があるので、こうして誰かを捕まえて内容を聞かねばならない。
とはいってもルナさん以外に面識がないし、なにより、みんな話しかけづらい雰囲気しかないのでいつもルナさんに話しかけている。
とはいえ、ルナさんからも話しかけづらい雰囲気も出てる
「あいつならハートランドのドラゴンも巨人も楽勝だから問題ないけど、それにしても、あんたたちが転移させた49番、ヒーリングファクター持ちだったとは」
「は、はい。ラクさんからの情報です」
「ほんっとに、あのガキ。何でそれを先に言わない!」
仕事のできるOLみたいな格好の美人が周りを気にせず激高していた。
声の衝撃で廊下の端に置いてあった花瓶が吹っ飛んで粉々になった。
「ああ、ごめんなさい。つい周りが見えなくなって」
「い、いえ。全身の水分がシェイクされたかと思いました」
単なる大声ではなかったとヤマナミは思う。
きっとそれがルナさんのチートなんだろう。
「それにしても、【ヒーリングファクター】ってそんなに貴重なチートなんですか」
「……もしかしてまだ聞かされていないの?とはいっても今は説明する時間がないから」
「そう、ですか」
「ただ、これだけは言っとくけど、【ヒーリングファクター】はビートル人が絶対に手に入れるべき能力」
そう語るルナの目は真剣だった。
きっと自分の知らない情報から難しい計算をしているのだろうとヤマナミはルナの目を見て思う。
「そして手に入れるためにはフジオウの能力が必要。わかるでしょ?」
フジオウのチートは人の能力を盗むこと。ユキノから【ヒーリングファクター】を取り出すには彼のチートが必須だ。
「でも、フジオウは脱走した。自分の欲望を満たすために。全くこれだから男は……」
「そ、そういうもんですかね」
ここで性別は関係あるのだろうかと思ったヤマナミだったが、また大声を出されると怖いので黙っておいた。
「とにかくこの問題は誰かを排除して終わりっていう簡単な話じゃなくなったってこと。はぁ、まったく。せっかく世界を制覇してようやくスローライフになるかと思ったのに」
―――ハートランド ドラゴンの里―――
「両者の意見は、どちらも正しい」
俺とソコルルの意見陳述を聞いたレッドアイズなんたらドラゴンはそう結論を出した。
「自分はいいビートル人だというユキノと、自分の里に来たビートル人に危害を加えられたからユキノを危険視するソコルル。互いの主張は対立も衝突もしていない」
裁判長みたいに一段高い台座から俺たち2人を見下ろした漆黒の老龍はそう説明する。
レッドアイズが出した結論に俺たちを取り囲むドラゴンたちにどよめきが広がる。
「そ、そうなのか……?」
「てっきりソコルルが正しいと思ってたぜ」
「あの人間を追い出せば全部解決するんじゃねえの」
どうやら周りのモブドラゴンたちにとっても予想外の判決だったらしい。
てっきり俺を追放して終わると思っていたらしい。
「なんだ、結構賢いじいさんじゃんか」
「僕は人間語もわかるんだぞ」
弁護士側にいるソコルルから忠告が飛んできた。
「だが、確かに予想外だ。この不利な状況からどうやって逆転したのか」
「お前のおかげだよ。お前の信念が揺らいでるから、説得力がなくなっちまってる。言われないと気付かない無意識レベルの小さな変化だがな」
「お前……!まさかそこまで計算して」
「皆のもの、静粛にせよ。そして2人とも、ここではドラゴンの言葉で話せ」
おっと、レッドアイズさんから注意が入っちまった。
「では続けよう。両者の主張はどちらも正義だ。ではどちらの正義が強いのか。故に衝突させて壊れなかった方がより強い正義となる」
……よくわかんねえが、とにかく勝てば官軍ってことか。
うん、世紀末みてえな大陸だなここ。
「ふっ、ドラゴンの里らしい結論だ。いいだろう、僕とユキノ、闘ってどちらが強いか。つまりどちらがより正しいのか」
「ノリノリだな。さすが原住民。で、裁判長。今からか?」
「ああ、そうだ。準備が欲しいか?」
「うーん。10秒だけ」
そういうと俺はヒータンたちのほうに歩く。ヒータンの緊張した態度から平和に終わったわけではないとセーレたちも察していた。
「ど、どうなったの?」
「結論、ソコルルと闘うことになった。今から殴り合ってくるわ」
「おぉー、さっすがハートランドですなあ」
「ハートランドを誤解しないでください。ドラゴンぐらいですよ、こんな解決のしかた」
「大丈夫なの、ユキノ?きみって細身だし、正直あんまり強そうに見えないんだけど」
「大丈夫だ。今から練習する」
練習?っと首をかしげるセーレたちを尻目に俺はジャケットを脱いで、地面に置く。
「お、シャドーボクシング?」
リイが期待するような目でこっちを見ているが、
「そんな大層なもんじゃねえよ」
俺は落ちたジャケットを拾って、ヒータンの角に引っかける。
「……別に引っかけるのはいいけど、かっこよく脱いだはいいもののやっぱり汚いって感じ?」
引っかけたジャケットを取ってまた着る。
「ジャケットを着る。ジャケットを脱ぐ。ジャケットを拾う。ジャケットをかける」
なるほどな。
初めて観たときはジャッキーチェンにしかできないファンタジーだと思ってたがなかなかどうして。
能力の上がった身体が勝手に理解してくれている。
「おっけ。あとは魔力障壁を組み合わせればおっけ。じゃ」
「ユキノ、ユキノユキノユキノ!何がオッケーなの!?いったい何の準備だったの!?」
「説明すると長くなるから、まあ今のが現代日本流のトレーニングだ」
「ど、どう見ても服脱いで着てるだけにしか見えなかったけど」
うろたえまくってるセーレと、唖然としているニコとヒータン。リイだけが俺を真剣な顔して見つめている。
「えっと、異人の少年よ。今のが準備とやらか?」
「おう。ちゃちゃっとはじめよう」
「はーーーーはっはっはっはっはっは、やっぱりお前は馬鹿だ!少し弁は立つようだが、それだけの人間だ!!」
レッドアイズさんも戸惑って俺に確認してきた。
そしてソコルルの爆笑につられて、ドラゴンの何匹かもへらへらとバカにしたように笑っている。
うっせえな。今何時だと思ってんだ。
あ、昼間か。じゃあいいか。
「出来ればもう1回したかったんだが、まあ、お前なら大丈夫だろ」
「……いくら間抜けとはいえ、少しドラゴニュートを馬鹿にしすぎじゃあないのか」
おっと、怒らせちまった。
ソコルルが自分の身長より大きな翼を広げてこちらに突進してきた。
「そればっかだなお前」
「ほざけ!この一発で終わらせてやる!!」
「ジャケットを脱ぐ」
突進してくるソコルルの顔面を狙って俺は脱いだジャケットをぶつけた。
まるで闘牛のマタドールみたいに。
「いっっっ!目が!!」
「そりゃ、さっき落とした時に砂つけたからな」
しかも魔力を込めて強化してある。
脱いだジャケットを着て俺は地面に倒れたソコルルを掴んで立たせる。
「ジャケットを拾う」
「くっそ……」
「ジャケットをかける」
ジャケットをかけるように俺は腕を上げて、掌底をソコルルの顎にぶつけた。
「あがっ……」
「コツはすべての動作を力強く、しなやかに。それがカンフーだ、知らんけど」
いかがでしたか。
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1.8。星5つあって1.8。エロか、エロが足らんのか。




