43話 ドラゴニュート
―――ロンド王国 ジブラルタ―――
「待ちくたびれたよ」
「エルネストはどうだった?」
「あんまり強くなかったよ。もう疲れちゃってたのかな」
抵抗するのも体力いるしねっと呟きながらアキヅキは、エルネストの杖で遊んでいた。
「いっつも思うけど魔法の杖って何で杖なのかな。僕なら剣とか槍にするけど」
「武器を魔力の触媒にしているやつもいる」
アキヅキの呟きにしれっと答えて平然を装っているが、AWLは内心驚いていた。
ジブラルタの街が壊滅している。
呉市くらいには発展していた港湾都市が、まるで戦争でも起こったみたいだ。
人の呼吸が聞こえなかった。
ロンドの南に位置して暖かな風が吹いていたジブラルタも、いまや廃墟同然だ。カラフルな建物は破壊されて、そこら中に反乱軍の死体が転がっている。
その死体を眺めてAWLは違和感を覚えた。
・・・・・・肉体強化チートか?魔法を使った形跡がない
「ためらいがないのは評価できる」
AWLは頭に浮かんだ疑問をアキヅキに聞くことはせず、短い感想を伝えるだけにした。
チートについてあれこれ聞くのはマナー違反だ。
「ああ、それと。やりたければ戦利品として女を持ち帰ってもいい。犬耳やエルフなんかもこの街にはいたはずだ。まあ、生き残っていればだが」
「反乱軍しか倒してないからその辺にいるんじゃないかな。別に興味ないからいいけど。慣れてるし」
「見かけによらずプレイボーイだったんだな」
「ん・・・・・・まあ、そんなとこ。それよりさ」
そう言ってアキヅキはポケットから何かを取り出した。
あおぞら色のプルオーバーにグレーのワイドパンツが全く汚れていないところに不気味さを感じながらも、AWLはアキヅキの手に握られた紙に注目する。
「この世界には製紙法があってびっくりしたよ。君たちが教えたんじゃないんでしょ?」
―――ハートランド ドラゴンの里―――
「来ないならこっちから行くよ!」
そう言ってリイは地面を蹴り、こっちに砂を巻き上げる。
嘘だろ。こんなちょこざいなやり方もすんのかよ。
反射的に目をつぶって再び開けたときにはリイの姿はなかった。
「上か!」
「勘はいいんだ」
俺の頭上を小麦色の健康的な少女が飛んでいた。
赤い空を背景に重力に逆らったリイは空中で一回転してそのまま垂直に落下してきた。
魔力の推進力がついてやがる。
「あっぶねえ」
砕けた地面を見ながらそう呟く。
「反射神経もよし」
「何の検査だ、いったい」
地面に刺さった自分の足を引き抜いてリイは再度構える。
やっぱり隙が見えねえな。
よし。
「そのまま少しじっとしてくれ。パクるから」
「逆にすがすがしいね」
呆れたように笑うリイの構えを真似る。
あー、年末にテレビに出てるボクサーとか格闘家もこんな構えしてるが。
左手が邪魔だ。
いい感じに視界を防いできやがる。
「左手が邪魔って顔してるね。でも左手で顔面への攻撃を防ぐから、下げるわけにもいかないという」
「防ぐ必要なんかないさ」
俺は左手を視界に入らないところまで下げる。
「顔がよく見えるねえ。異世界人のユキノにいいことを教えてあげよう」
「なんだ?」
「この世界では防御は魔力障壁でする」
瞬間、リイが距離を詰めてきて、左のジャブを放つのが見えた。
今言われた魔力障壁防御ってのを試してみようと身体の右側に意識を集中させたその時、左わき腹に衝撃が走ってそのまま吹き飛ばされる。
何バウンドかして地面を転がってようやく止まった俺は、状況を理解する。
左ジャブと見せかけて、右のミドルキック。
「……フェイントか」
足の爪が割れるのも気にせず、俺は足に魔力を込めて跳躍する。
ゴキブリみたいな加速で俺はリイにタックルを食らわせようとしたが。
キーンという耳に痛い甲高い衝突音が響いて俺は見えない壁に阻まれた。
「あばらが全部粉砕したぜ」
「そんな報告しないでよ。ちょっと罪悪感わくじゃん。まさかこんな攻撃してくるなんて」
見えない壁をパントマイムみたいに触りながら俺はリイに尋ねる。
「こっちの魔力が強けりゃこれ壊せるんだよな」
「そそそ。結局力比べ。ぶっちゃけるとさっきの突進防いだから結構魔力を使っちゃった」
「チャーンス」
ありったけの魔力を込めてリイの魔力障壁をぶん殴る。
ビキィッとひびが入った。
「やったぜ!」
「すごいじゃん。でもね、もっと魔力に慣れないと」
その瞬間、リイの魔力障壁がこちら側に倒れるのがわかった。
見えてないが確かに分かる。
リイの魔力の壁に押しつぶされる。
「ほいっと。マウントポジション。私の勝ち」
リイの魔力障壁を押し返すことができず俺は背中から大の字に倒れ、その隙にリイに馬乗りにされてしまった。
「何が魔力使っちゃった、だ」
「実は下半身には魔力障壁を使ってない。家計も闘いも節約が大事」
「あーーーーー!!」
川岸の向こうでセーレの叫び声が聞こえる。
「いないと思ったら2人とも何してんの!!」
「「スパーリング!」」
「夕焼けの川で男女が2人密会、何のスパーリングでしょうか」
なんだそのスケベおやじみたいな言い草。
「え、てかセーレわりとガチで切れてないか?」
「なんでかなあ。ま、あの2人とも闘ってみんしゃい」
翌日
朝焼けの空に、羽の生えた人型の影があった。
影はドラゴンの里へと高度を落としてきて、どうやらここに向かってきているらしかった。
ただその軌道は不安定で、弱弱しかった。
「ドラゴニュートだよ!あんなに傷だらけでどうしちゃったんだろう」
「ドラゴニュート」
セーレたちには雄たけびにしか聞こえないヒータンの声を翻訳する。
「ドラゴニュート、亜人だね。ニコのお友達」
「あんまり絡みないですけど」
突然空からやってきたドラゴニュートは続々と集まってきたドラゴンたちに見守られながら、欠けた翼を弱弱しく羽ばたかせ、
「あ」
そのまま着地することもできず、地面に倒れこんでしまった。
宝塚にいそうな線の細い男だった。
ただ紅組と異なるのは、背中からドラゴンの翼が生えて、尾てい骨の辺りからドラゴンの尻尾生えていることだった。
「うっ、うぅ……」
見れば見る程、ドラゴニュートは痛々しかった。
身体のいたるところに、何か鋭利な刃物で切り裂かれたような傷があった。
「無理して起き上がらないで!今回復させるから」
ヒータンの背中から飛び降りて、セーレが走って行く。
「に、人間がどうして……」
「たまたまよ。なにかの縁かもしれないわ」
「1人で突っ走んなよセーレ。万が一敵だった場合狙われるぞ」
突っ走ったセーレの後を追って俺もドラゴニュートの元まで走る。
うぉ。近くで見ると結構出けえな。
近づくにつれ、ドラゴニュートも俺の存在に気づいた。
セーレの回復魔法で徐々に傷は塞がり始めていたそいつは、やがて俺へ向ける視線をどんどん厳しくしていった。
まるで、傷つけたのが俺だと言わんばかりに。
「ビートル人じゃないか‥‥‥!すでに、ここきていたのか!!」
「きゃあ!?」
回復魔法を展開しているセーレを払いのけて、ドラゴニュートが俺に向かって突進してきやがった。
「魔力障壁!」
「くっ!!ゆるさない……ゆるさない、から……な……」
突如怒りを炸裂させたドラゴニュートは俺がとっさに展開した魔力障壁に正面衝突。
昨日も聞いた耳に突き刺さる甲高い衝突音が里中に響き渡った。
確かにこれは、気分がいいもんじゃない。
目の前で人がつぶれるのを見るんだから。
ドラゴニュートはセーレの回復魔法をチャラにするくらいのダメージを負って、意識を手放した。
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