42話 スパーリング
「お父さんが?」
久しぶりに登場したフェフェルの名前にセーレが驚く。
「そのツガミが来たのっていつだ?」
「いつ、ですか。人間の時間感覚がよくわからないもので、少し前としか」
「少し前ねえ」
ドラゴンのいう少し前って下手したら50年前とかもしれねえけど。
「だがセーレパパがカクラをボコろうとした時期ってことだから」
「7年位前ね。リイと遊べなくなったのがだいたいそれくらい」
「でもカクラを滅ぼしたのはアシハラじゃんか」
「No.0。ビートル人のボスです」
「…だってさ」
3人の意見をドラゴン語に翻訳してヒータンとワディに伝える。
7年前という時期についてはふんふんって感じに鼻息で肯定したが、アシハラという名前には首を傾げた。
「アシハラ‥‥‥が異人たちのボス?それは信じられませんね」
「ビートル人はみんなアシハラ様って崇めてるぞ」
「ねえ、パパ。アシハラってあの丘の上に眠ってる人?」
「アシハラの、墓?」
「うそ‥‥‥って私たちじゃ読めないんだけど」
無機質で四角四面な黒い石にアシハラの名前が刻まれていた。
そのアシハラが眠っているという丘の上までヒータンに連れてきてもらった。背の低い草原が広がるのどかな丘の上からはドラゴンの里とハートランドの景色が一望できる。
そして振り返ると遠くの方に人間の暮らす土地も見える。
そんな世界島全てを見渡せるところに墓石が2つ。
そう2つ。
そっちの方が重要だ。
「マ‥‥‥コ‥‥‥。マコ。マコという名前ですね。それにしてもこのお墓、どういう様式でしょうか」
「……現代日本式だ。間違いない、こんな墓を建てるのは日本人だ」
凝った装飾もなくただグレーの石を積み上げただけのシンプルな、墓カタログの一番安いやつみたいな墓だ。
「居士も大姉もついてねえから形だけだが」
「重要なのは気持ちだよ」
「しばらく墓参りにきてねえみたいだがな」
墓石に積もった葉っぱや砂を払って、墓碑銘を見つめる。
「……今いるアシハラが、ツガミってことか?」
「それか、ここに眠るアシハラがツガミか」
「リイ、それにセーレも。謎を解く一番の鍵はお前らの記憶なんだ。何か思い出せ」
「無茶言わないでよ。うーん、私9歳だったし、大人の話難しくて覚えてない」
小学生の頃に会ったことのある親の友人を思い出せと言われたら俺だって参る。こめかみを押さえて苦悶するセーレの隣で、リイは早くもお手上げのポーズをしている。
「ところでさー、4人の中だと誰が一番強いの?」
帰りの道中、丘の上から持ち帰った謎に頭を悩ませて沈黙しっぱなしの俺たちを背中に乗せたヒータンがそんなことを尋ねた。
唐突だな。
でも、雑談にはちょうどいい。
「リイだろ」
「へっへっへ。でもユキノは倒せない」
「誰も倒せないと思う」
「じゃあ、ユキノじゃん」
「いや、でも俺実戦経験ゼロだぞ」
何この歪なじゃんけん。
いや、じゃんけんでもないのか。
「……いや、でもしかし」
夕方。
俺たちはヒータン家に間借りさせてもらった。
トムとジェリーのジェリーの家みたいにヒータンの部屋の土壁をくりぬいて、中に1人ずつの部屋を作った。
くりぬいたのはもちろんニコだ。ちゃんと、俺たちも手伝ったけどな。
今は、各自自分の部屋を好みにカスタマイズ中だ。
っていうか、まさにジェリーの部屋だな。
ベッドと‥‥‥うん、ベッドぐらいしか置くものないし。
ファクトリーの頃から薄々気づいてはいたが、中世ヨーロッパ風なだけあって、娯楽が貧弱だ。
壁に貼るスターやアイドルなんていねえし、マンガも出版されてねえし。
こりゃ娯楽チートも必要だなと思いつつ、
「弱いんだよな、俺」
アシハラとマコとツガミの謎にも頭を使わなきゃならないが、昼間のヒータンの何気ない雑談が俺の頭に張り付いていた。
ヒャクイチの時もラクの時も。
異世界に転移してきた現代日本人らしくもっと圧倒的に一撃で倒したいんだが、世知辛い。
「いや、ゆうて、普通の高校生が転移してきたらこんなもんでしょ」
まっ茶色の退屈な壁に向かってそう開き直ってみるが、結構緊急の課題なんだよな。
俺も強くならないとあいつらの足手まといになるし、ミノやファクトリーの工員みたいなやつらを解放してやれない。
とりあえず、腕立て伏せでもしましょうかね。
誰に宣言してるのか自分でも分からんが、俺はベッドから起き上がって床に手をつく。
「やっほーユキノ。って何してんの?」
「リイか」
何となく始めた腕立てだったが、やってみると意外と熱中する。
「へー、見た目の割に筋トレ好きなんだ。何回?」
「200回超えてから数えてない」
「すごくない?」
「チートのおかげだよ」
俺の【ヒーリングファクター】は、筋肉のダメージも修復してくれるらしい。
だからいくら筋トレしても疲れない。
それを聞いたリイはなんだか嬉しそうな、驚いたような表情をして、
「ナイスタイミングだよユキノ」
意気揚々とサムズアップした。
「知ってる?この指は、納得のできる行動をした人に向けるんだよ」
「知ってる知ってる。俺の腕立てがそんなに尊かったなんて知らなかった。で、何のためのタイミングだ」
「私とスパーリングしよ」
は?
―――ドラゴンの里 川沿い―――
「目つぶし、欠損、その他セーレの回復魔法で治せない傷は反則」
「髪の毛掴んで引きちぎるのは?」
「セーレなら生やせるけどヤダから反則」
「普通じゃ生やせないのか。ビートル人のハゲが泣くな」
ハゲたビートル人がいるのかどうかは知らんが。もしいたとしたら年くってるはずだし、10代しかいないビートルバムじゃ浮いてるだろうな。
「あと、武器の使用もダメ。ラクをボコる時に使った指輪もなしね」
メリケンサックのことか。
「じゃ、構えて全身に魔力障壁を展開して」
向き合って構えた俺とリイは距離を取る。
前に出た方の拳が当たるくらいの距離。
つまりお互いの射程距離圏内。
そこからスパーリングを始めるのがカクラ流なんだそうだ。
「拳でタッチしたら、試合開始」
試合スタート。
リイの拳にタッチした瞬間、俺は防御を捨ててリイの懐に飛び込む。
勝利条件は頭か胴体の魔力障壁を突破されること。それか相手の制圧。つまりマウントポジションを取るか後ろから羽交い絞めにするか。
あるいは首から下を地面に埋めるか。
「ふんっ」
タックルする俺の顎をリイの膝蹴りが正確に撃ち抜く。
景色がブレて一瞬天地の区別がつかなくなった。
自分が今どこに立っているのかもわからないまま、俺は両足に力を込めてジャンプする。
「げ」
後ろのほうでリイの声が聞こえて、俺は前宙に失敗したみたいに地面に激突した。
すぐに体勢を立て直してリイを発見する。
「魔力障壁展開したんだが痛ってえ」
「いやはや。怪我を無視できると人はそんなハチャメチャな動きができるんだね」
多分、魔力障壁がなかったら今頃上下の歯が合体してただろうな。
さて。
俺は目の前のリイに集中する。
うん、隙が全く見つからん。
いかかでしたか。面白かった、続きが気になるという方はいいね・ブックマーク等お願いします。特にネットフリックスで働いているという方の連絡をお待ちしております。あと石油王も。




