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40話 全言語理解

夜。

 ドラゴンも眠ったが、ちょっと物音を立てるだけで目を覚まして襲ってくる。

 デカい翼と大きな脚をコンパクトに折りたたんですやすやしてるが、油断できない。


「さてと、半地下生活も板についてきたところで今後について考えますか」

「「「はーい」」」


 横穴の壁にニコが黒板を出現させ、セーレが光魔法で灯りを出現させたことで、俺たちはこの塹壕の片隅で会議を始めることが可能になった。

 ナイス

 んー、3500ルーメン。

 横穴に埋まった石の色までわかるくらいに明るい。


「時間は30分ね。長すぎてもダレるから。私タイムキーパーするね」

「司会はユキノ、私は書記をします」

「ほいっさ」


 え、もしかしてみなさん、就活とかされてました?

 どうしてそんなに役割決めがスムーズにいくんですか、


「どうしたのユキノ。会議初めて?」

「いや、クラス会議なら何回かあるけど、お前らこそ慣れてるな」

「議論のやり方も王族の教養の1つだからさ。はい、まず一人一人の意見から聞いてったほうがいいんじゃないの」


 リイに促されるまま俺は司会を進めていく。

 

「じゃあ俺から。闘う」

「逃げるに一票」

「私も」

「3票ですね」


 ニコが黒板に「闘う1 逃げる3」と書く。


「拮抗してるな」

「どこが」


 いや異世界ファンタジーだろ、闘えよ。


「無理無理無理の絶対無理。ユキノはドラゴンの強さを知らないから」

「まあ、現代日本にはいねえけど」

「何代か前のイケイケのじいちゃんが領土欲しさにハートランドに攻め入ったけど」


 つまりカクラの何代か前の王様がハートランドに侵攻して。


「結果はもう、いまだに語り継がれる壊滅的被害。あげくに数百万の兵を失って疲弊したところをロンドに攻め入られたらしいわ」

「私んとこの何代か前のイケイケのおばあちゃんね。こっちでは英雄です」


 戦争をそんな軽いノリで話されてもどういうテンションで聞いていいのか分からんが、きっと昔のことだからもう歴史になっているのだろう。


「ま、奪われた分は私の代で取り返すけど」

「絶対あげない。もう何世代もロンド人が暮らしているんですぅ」

「現在進行形かよ。ってか、今じゃビートルバムだろ」

「マジレス、ですね」


 マジレスで興ざめさせないとこのまま姫同士で戦争始めそうな気がしたから。


「あ、ごめんごめん。話を本題に戻すね。で、えーと、そういうわけ。ビートル人でさえ攻めあぐねてるのがハートランド。ドラゴン以外にも麒麟とかダイダラボッチとかいろいろいて」

「あ~怖い名前」


 このままだと逃げる方向で話が固まりそうだ。

確かにそっちの方が安全なんだが、もしこのままネズミみたいにこそこそ逃げた場合盛り上がりに欠ける。


「よし、ニコ。君の意見も聴こう」

「はい。盛り上がりとやらより命の方が大切です」

「よし、ありがとう」

「あと10分」


 セーレが時間を告げる。

まずい。もうすぐディスカッションタイムが終わってしまう。

 

「『逃走 命は大事』っと」

「くそ、闘う派が劣勢か」

「……あ、そっか。ユキノが独りで闘うことは議論の決定とは無関係なのか」


 ん?


「どういうことだ、リイ」

「いやさ、この議論のテーマは私たち4人の戦略でしょ。だから例えば「明日逃げる」って決議されたとして、朝早くにユキノが1人ドラゴンに立ち向かっても、それは別に自由」

「ですがその場合、ユキノの戦闘が私たちの逃走を邪魔しないことが条件となります」

「うーん、よくわかんないけど、ユキノを外にほっぽりだせばいいってこと?」


 え。なにこれ。

 怖い怖い。なんか登るつもりのない山に登らされてる気分なんだけど。

 その時、セーレの時計が鳴る。


「あ、タイムアーーーップ!」

「……では、議論をまとめます。えー‥‥‥つまり」

「私たち4人はハートランドからの脱出を図る。その間、ユキノは私たちの逃走を邪魔しない範囲でドラゴンと闘うことができる。ですね」


 どうしてこうなった。


「うーん?これでいいのかな。何か間違ってるような?」

「でもセーレ。みんなの希望を、ふふふ、叶えてるよ。あーはっはっはっ」

「何笑ってんだよリイ。てめえが変なこと言うからだろうが」


 人の気も知らないで涙を流して爆笑するリイに叫ぶ。

 いったいどうしてこうなった。俺はただアクションシーンも必要かと思っただけなのに。


「民主主義って不思議ですね」

「んふふふふふふふ。お、お腹痛い‥‥‥で、でもあれだよユキノ」

「なんだよ」

「私たち3人が逃走に影響のない範囲でユキノを手助けすることも、議論の決定とは無関係だよ」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


―――ビートルバム ジブラルタ―――

「まさに一瞬だね。すごいなあ」


 AWLはそのチートで自身とアキヅキを一瞬にしてビートルバムの西端まで移動させた。

 

ジブラルタ。

かつてロンド王国最大の港湾都市として栄えた街だ。いまでも港には大きな船が何台も停泊しているし、 市場にはきれいな魚が並んでいる。

ロンドの南に位置するから温暖な気候で、風通しを計算した街並みには開放感がある。


「まるで地中海?」

「終わったら連絡しろ。ゴトウからスマホはもらったんだろ」


 自分に課せられた仕事はそれだけなのでAWLはすぐに帰ろうとする。

 この男は必要以上の仕事をするのが大嫌いなのだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ。反乱分子のリーダーの名前くらい教えてよ」

「……私の仕事ではないが、まあいい。エルネストだ。ビートルバムに反抗しこの港湾都市ジブラルタを占拠した反乱分子はおよそ12万人。そのトップがエルネスト。もとはロンド王国の宮廷魔術師。お前の力試しにはちょうどいい」

「12万人って‥‥‥」


 多いの?少ないの?

 ジブラルタの人口なんか知らないしなあっと、アキヅキは辺りを見回す。

 中世ヨーロッパ風の異世界だし、港湾都市といっても現代日本の横浜や神戸ほどの規模じゃない。

 地方の港町ってとこだ。

 え、じゃあ12万人ってひょっとして市民全員が敵ってことじゃないの。


「ああ、そうだ。1つ忠告してやろう。お前、もうすでに囲まれてるぞ」


 言われて初めてアキヅキは目を凝らす。よくみると物陰に敵意むき出しの男が鋭い眼光を飛ばしているし、カフェの女たちは雑談しながらこちらの様子をうかがっている。


「あ、ほんとだ。へえ、男も女も敵なんだ。ところでさ、結構優しいんだ、アウルさん」


 アキヅキたちが反乱軍を感知したことに、隠れていた反乱軍も気づいた。

 物陰からガタイのいい男が飛び出してきて、まずは華奢なアキヅキに刃を振り下ろす。


「おっと。物騒だなあ、この人がエルネスト?」

「違う。知らない顔だ。じゃあ、俺の勤めは果たしたぞ」


 バカでかい男が振り回した青龍刀みたいなバカでかい刀をアキヅキが片手で止めたのをみて、AWLは消えた。


「いっちゃった。君、アウルに名前覚えられてなかったけど、大したことないのかな」

「き、きさま。新しいビートル人か‥‥‥!」

「それにしても、ここはいい天気だねえ」


 活気溢れる港町に青空色のシャツを着たアキヅキはよく似合っていた。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


―――ハートランド―――

「……おはよーーーございます」

「何で小声」


 だってドラゴン寝てるし。

 会議の次の日の早朝。

 俺は塹壕から出てドラゴンと同じ目線に立っていた。

 向こうが寝てるからちょうど俺の高さにドラゴンの頭がある。


 俺以外はというと、塹壕から頭だけを出して俺を見守っている。

 何かあれば助けてくれるそうだが、絶対嘘だ。


「ドラゴンにそんな気遣い必要ないんじゃないと思うけど」

「うん、話通じないし」

「あれ?そうだったか」


 ハートランドには喋るドラゴンがいるってファクトリーの屋上で聞いたけど、と足元で雁首揃えてる3人に問いかける。


「それはエンシェントドラゴンだけなんですよ。ハートランドの奥深くにいるといわれる古龍は人間の言葉を理解し話ができると言われてます」

「あれはねー若いドラゴンだね。残念ながら雄たけびしかあげてくれないよ」

「そうか」

「てか、ユキノ戦略とかあるの?」


 戦略ね。


「とりあえず話しかけてみるわ」

「何それ!?」


 セーレが叫んでいるのを背中で聞きながら、俺はドラゴンへと近づく。

 頭だけで俺の身長くらいあるな。

 そんなドラゴンの鼻先を蹴っ飛ばして目を覚まさせた。


「あ、ほんとに何も考えず目覚めさせたよ」

「常軌を逸してますね、これからは3人で旅をすることになりそうです。短い付き合いでしたがユニークな人でしたね」


 後ろの3人が早くも撤退準備を始めている。

 なんせ目覚めて早々ドラゴンが咆哮を上げたからだ。

 あいつらにはただの獣の鳴き声にしか聞こえてないだろうが、俺は違っていた。


「やっっば!!穴掘って寝るもんだからこっちもガチ寝してたわー!人間たちは!!」

「お前、メスだったんだな」

「あ!人間!?てか、話通じてるんですけどお!?!?」







いかかでしたか。

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