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39話 Million Monsters Attack

ルナが勝手にしゃべりだした。化けるかもしれない。

「まるで100年前の西部戦線にタイムスリップしたみたいだ」


 トレンチコートが欲しくなる。

 4人を代表して塹壕から顔だけ出し、辺りの様子を確認する。

 はい、残念。

 俺はとっとと首を引っ込めセーレたちがいる横穴に戻る。


「あのドラゴン、まだ俺たちを探してやがる」

「はぁ……もう3日だよ」

「モグラになったら魔眼使えなくなっちゃうじゃん」


 セーレとリイがうんざりした声を出す。

 ニコはじっと座っている。

 口には出さないがその顔には疲れが浮かんでいる。


「もっと早く掘り進めたいのですが‥‥‥」

「いや、こちらこそ。トンネル堀りなんて大変な仕事任せちまって」


 3日前。

 ハートランドに落下した俺たちはさっそくドラゴンに襲われた。

 ハートランドは神獣や幻獣が暮らす土地。

 人類を拒む。

 どれくらい拒むかっていうと、ビートル人が開拓を諦めるくらい。


「ニコちゃんがいなきゃ、今頃私たちドラゴンの胃の中だろうしね」

「リイ怖いこと言う」

「だがそうだな。あの時、とっさにニコが地面に穴掘ってくれなきゃ」


 俺たちは今、ニコがその能力で作ってくれた穴の中で生活している。

 外の様子をうかがうための塹壕と、生活空間としての横穴。

 っつってもそれぞれのベッドと焚火があるだけだが。


「とはいえ、いつまでもこんなところにいるわけにはいきません。このままだとジリ貧です。地質が貧弱で、バイクの修理もろくに出来ません」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


―― ビートルバム 宮殿―――

「引き分けだっつってんだろ。あの高さから落下して不良品が生きてるわけねえし」


 人をダメにするソファに寝そべりながら、ラクさんが今回の仕事の成果を報告する。

 

「そもそも俺の任務はファクトリーの奪還だろ?一番邪魔なやつらを消したんだからいいじゃねえか」

「そ、そうですね。確かにこれでファクトリーの生産も安定しそうです」

「ヤマナミさん、あなた本当に納得してる?なまじ功績を認めてもつけあがるだけよ」

「んだよ、クソババア」

「私にエイジズムを向けるな。潰すぞ」

 

 この瞬間、ヤマナミはこの会議に出席したことを後悔した。No.5とNo.13の喧嘩なんて止めようものなら命がない。


「あ、あの‥‥‥リッカさん。どうしましょう」

「この場じゃ口喧嘩しかできないんだしー、聞き流せばいいのよー。ヤマナミはマジメだねー」


 真っ白のタートルネックに栗色の巻髪という癒しを具現化したかのようなリッカさんに頭を撫でられて、ヤマナミの不安もいくらかは消えた。

 

「落ち着いたー?じゃ、おやすみなさーい」


 ヤマナミが落ち着いたのを見て、リッカは人をダメにするソファに沈んでいった。


「……チッ、いつかその偉そうな面叩き潰してやるからな」

「女より弱いのが気に食わないのか?クソオス」


 ラクさんもルナさんもひとまずは矛を収めてくれたみたいだ。確かにリッカさんのいう通り、会議中にドンパチするほど愚かではなかった。


「はい、それでは会議を再開いたします。本日参加いただいたのは、ラク、リッカ、ルナ、AWL、アキヅキ。敬称略ということで、司会進行はヤマナミがさせていただきます」


 No.1のフマさんから司会に任命された自分を除いて5人。上々の出席率だとヤマナミは思う。全員に出席依頼を出したものの、ほとんど都合が悪いという理由で欠席となった。ビートルバムはいつもそんな感じだから気にしてないし、そもそも自由参加だ。

肝心のフマさんが出席してない理由は教えてもらってない。


「えー、今回のメインテーマは、No.49 ユキノをどうするか。その他相談したいことがあれば随時言って下さい、とのことです」


 最後に、とのことです、をつけることでアシハラから提出された議題だということをヤマナミは強調する。

 いうべきことを言い終えて、ひとまずヤマナミも人をダメにするソファに座り込む。

 このビーズの何とも言えない柔らかさは、病みつきになる。

 会議室といっても、まるで意識高いベンチャー企業のそれのようだ。カラフルな床に植物やインテリアが配置された壁。不思議な曲線の机にドリンクバーまで付いている。

 そんな小奇麗な空間にヤマナミたちは円座になっていた。


「書記は?」

「あ、はい。書記も私が務めさせていただきます。議事録は後程、皆様のスマホに送りますので」


 つい集中力が切れてしまったヤマナミを、AWLが引き戻す。普段はアウルと呼ばれているこの男だが、書くときはなぜかAWLとアルファベットでつづることを好む。


「ふむ‥‥‥まあ、私の仕事でないならいいか。しかし、このスマホ。向こうの劣化版でしかないのは不便だ」

「しょーがないじゃーん。ゴっちゃんのチートをもってしてもー、ヤマナミちゃんのスマホの完コピは不可能だったんだからー」

「っていうか、議論する必要ある?とっととぶっ殺すしかないと思うけど」

「だから、死んでるって。ロンドとカクラの姫も一緒に」

「だったら今すぐ首もってこいや、無能」

「あ?内臓掻っ捌いて死ぬか?」

「あ、あの‥‥‥お2人とも落ち着いて‥‥‥」


 口ぎたなく罵ってはいるがソファから動かないあたり、本気で闘うつもりはないのだろう。ヤマナミも2回目は冷静だった。


「論点は誰が殺すか、だろう。転移して日が浅いうちに始末した方がいい。カジマの件もあるし、成長されると厄介だ」

「だったら自分がやれば」


 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

 ‥‥‥え、今の、新人くん!?

 

 ヤマナミの驚きはその場にいた全員も同じだった。

 転移して以来、いつも柔和な笑みを浮かべて「うん」か「いいです」の返事くらいしかしなかったアキヅキくんが発言をした。


「……俺に言ったのかな」

「うん。だって他人任せはよくないし」

「だったらお前がやればいいんじゃないか?」

「それとこれとは話が別でしょ。言い出しっぺはあんたなんだから」

「……新人、海と山ならどっちが好きだ?」



「お前らが集まったのは、こんなことのためなのか」

 

瞬間移動してアキヅキに攻撃を仕掛けるAWLを突如現れた影が防いでいた。

AWLの腕はもうすこしでアキヅキの身体に触れられるというところで、別の腕に捕まれていた。

その腕はまるで水銀みたいにギラギラと銀色に光っていた。


「‥‥‥先輩に失礼な口の利き方をしたんだ。俺の行動に非はない」

「敬語を強制するなどビートル人ではない」


 ユンクァンをヤマナミは初めて見た。年は自分の少し上だからもしかして大学生かもしれない。

 かなり背の高い人だとは聞いていたけど、確かに190cmくらいある。それに全身が黒で統一されているのも噂通りだ。袖をまくったシャツから伸びる腕は羨ましいくらい白い。


「ヤマナミ」

「はっ、はい!」


 全身黒一色で髪型はオールバック、しかも威厳のある低い声。ひょっとしてこの人現代日本ではヤクザの跡取りだったのかなと他所事を考えていたヤマナミだったので、いきなりユンクァンに話しかけられて声が上ずってしまった。


「不良品は俺が始末する。それがこの議論の結論だ」

「は、はい」

「それと新人。アシハラさんより指令が下った」


 自分の背後でひと悶着あったというのに、アキヅキは笑みを崩さなかった。

 そのことに気づいてヤマナミは少し怖くなる。


「力を示せ」

「うん。さすがに寝そべってばっかもいけないもんね。どうしたらいいのかな」

「ジブラルタを破壊しろ」

いかかでしたでしょうか。

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