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36話 インターバル

 ボクシング中。

 俺を倒すことに夢中になっていたラクはリイが魔眼を発動したことに気づけていなかった。

 ちなみに俺も殴られるのに夢中で初めのうちは気付けていなかった。


「ありがとう。あのまま殴られ続けてたら正直ヤバかった。出来ればフェアプレーでしばきたかったんだが」

「最初に反則したのは向こうじゃん。って、私ボクシングのルール知らないんだけどさ」


 直接目線を合わせなかった分効果が出るのに時間がかかったが、だからこそラクに感づかれずに済んだ。

 緑の魔眼は相手に幻覚を見せる。

 ラクは今、何度も復活してくる俺の幻覚を相手に闘い続けている。


「でも私の魔眼って自分より強い相手には効果が弱いんだ。だから長くは続かないと思う」

「マジか」

「マジマジ。それにビートル人ともなればなおさら」


 だったらあいつが復活するのも時間の問題ってことか。


「いますぐにってわけじゃないけど、でもこのクジラを何とかするくらいの時間は」

「そっか」


 って。

 今初めて気づいたが。

 火が消えている。



「一時はバックドラフトみたいになってたのに、さすがだな」

「はい、ラクが滅茶苦茶に改造したシステムを整理して、さらにセーレさんの魔力によって再び推進力を得て墜落は回避」

「わーん、腕が疲れたー!」


 少し離れたところで一人綱引きみたいになってるセーレが泣き言を言っている。

 ってことはこのクジラ、今セーレの魔力だけで浮いてるってことか。

 恐ろしいな。


「恐ろしいです。それで今迷ってるんですが」

「なんだ?血管か?」


 ニコが持っているのは赤と青の線だった。


「まあ、元はそうだったのかもしれませんが」


 この配線のどっちかを切るとクジラ爆弾が解除されるが、どちらかを切ると大爆発を起こす。

 

「現代日本によくあるやつっちゃよくあるやつなんだが、ラクの野郎どうしてこんなめんどくせえことしやがった」

「ネットワークの出来を見るに‥‥‥戯れ、でしょうね」

「戯れ?」


 リイが眉をひそめる。


「あえてそういう風に配線を組んだ。私たちが困るように」

「あーもう。とことん性格がねじ曲がってる」

「ニコ。あいつからも魔力搾り取れないか」

「出来ました」


 顔には出ないもののよほどムカついていたのか、速攻でラクをネットワークに連結。死なない程度に搾取する。

 お、俺への罵声が小さくなった。

 メンタルが好転しそうだ。


「さてと。赤と青のコードだったな。そうだな‥‥‥だいたい現代日本だと青を切るのがセオリーなんだが」

「なんでですか」

「主人公とヒロインの運命の赤い糸を切りたくないってことで」

「ロマンチックな話だねえ」


 ロマンチックすぎて最近扱われないけどな。

 それにあんな性格の悪いやつがそんなロマンチックな仕掛けするかな


「これは同じビートル人として思いついたことなんだが、もしかするとどっちを切っても爆発する可能性がある」

「え」


 さすがにそこまで性格悪くはないでしょって顔を3人ともしているが。


「ビートル人を舐めんなよ。俺たち悪いこととなるといっくらでも頭回るからな」

「自慢にならんよ」


 これでホントにどっち切っても爆発するんだったら一周回って性格がいい気さえしてくる。


「ほんとにどっちを選んでも爆発するんでしょうか。‥‥‥それはそれとして、ファクトリーをまだ脱出できてません。というよりどっちに行けばいいのかがわかりません」

「おっけ、案内するよ。ファクトリーってアルジェだから地形は頭に入ってる」

「ロンドのことなのにわかるんだな」

「何回か攻め込んだから」

「自分の国より相手の国のがよくわかってるってあるあるだよね」


 リイの言葉にセーレも同調する。


「物騒なあるある話してんな」


 ロンドの姫様より詳しいカクラの姫様がでけえクジラの舵をきる。

 ストツーもアルカノイドもテトリスも、ムシキングさえやったことない異世界の女子は、ニコから操作方法を一度聞いただけで、巧みにジョイスティックとボタンを操って生物兵器Feel Good Inc. El Mananaを動かしていく。

 ‥‥‥器用過ぎない?


「カクラってゲーセンあんの?」

「似たようなゲームはあるけど、ぶっちゃけ勘。私こういうのすぐわかるっていうか」


 一輪車も乗りこなしてたしリイは感覚をつかむのに長けてるみたいだ。

 

「ユキノの方が慣れてるんじゃないの?」

「いや。俺ゲーセン行かねえし」


 ゲーセンにおいてある背もたれの無い椅子を3つ並べて横になる。

 治りかけが一番怠い。

 あ、ちなみに。セーレに用意した後だからな。

 リイとニコは元から座ってる。

 

 リイに操縦されたクジラはゆっくりとファクトリーを離れていく。

 建物が徐々に少なくなってきて、徐々にカナダみたいな森が広がっていく。


「結構寒そうだな」

「うん、北に向かってるよ。なぜなら操縦する前から北に向かっていたから」

「じゃあしょうがねえな」

「……ところでさ、ユキノ」


 ラクから搾取してる分負担が軽くなったセーレが俺の近くまで椅子を移動させてきた。


「どうした改まって」

「見えないビートル人って知ってる?」

「透明人間か?」


 知らん。


「そっか‥‥‥そうだよね。ユキノって他のビートル人知らないもんね」

「その透明になるチートの持ち主がどうかしたか?」


 セーレから経緯を説明される。


「ふうん、お父ちゃんと同じ能力ねえ‥‥‥。その見えないビートル人がロンド王から教わったのか、もしくはお父ちゃんが透明人間になれるようになったのか」

「フェフェル王はそんな卑怯な闘い方しないよ。それに背格好が全然違った」


 同じく透明人間を見たリイもセーレに味方する。

 セーレのパパってフェフェル王っていうんだ。

 んで、髪色がセーレと同じ金糸雀色でこの世界一とも言われる魔法使いだったそうな。


「でもそいつ、クジラに穴開けて逃げたんだろ。この高さから身一つで飛び降りて無事なわけねえよな。何がしたかったんだ?」

「うーん‥‥‥ビートルバムにいたくなかったとか?」


 あんなデカい宮殿でエルフやケモ耳とイチャイチャできる環境から逃げ出したくなる奴なんているかな。

 よっぽどの事情がないとそんなことにならないと思うが。


「とはいえ、うってつけの参考人の目を覚まさせないといけないな」

「あ、その、タイミングのいいことに、赤と青の配線の分析が終わりまして、たった今爆弾の解除が終わりました」


 お。ナイスタイミング。

 うかつに幻覚の魔眼を解除してクジラを爆発させられたらヤバいからな。


「で、どうだった?」

「……ユキノさんのいう通りどっちを切っても爆発する設計でした」

「うげ」

「性格悪いなあほんと」


 俺の予想通りラクはどっちの配線を切っても爆発する設計をしていた。

 主人公とヒロインの愛を確かめ合う舞台装置どころか、単なる2重の罠だった。


「はい、とても複雑な罠で大変でしたが、これでこのクジラさんはただの飛行船です」

「ハイジャック成功だな」


 これで安心してあいつと対等に話ができる。


いかかでしたでしょうか。

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