34話 爆発物処理班
腰砕けになったラクを追撃する。
馬乗りになってナックルマスターを握りしめる。
「うぉりゃあ!」
焦点の定まっていないラクに続けてパンチを撃ち込む。
胸ぐらをつかんで顔面を殴り続ける。
ニコとセーレに作ってもらったナックルダスターでラクの頬骨を正確に殴打していく。
「……そんなんじゃダメだろ」
「なに?」
目の下にあざを作ったラクが嫌みに微笑む。
「ああ、畜生。鼻血が出てきやがった。人間を改造するのはこっちの骨だって折れるんだ。覚えときな不良品。異世界転移したって俺たちは人間なんだ。チートだって完璧じゃない」
「何が言いたい?」
「お前にはリミッターがある。現代日本の素敵な教育が施した常識というリミッターだ。そんなんじゃ誰も殺せないし、この世界じゃ足枷にしかならない」
俺の拳には殺意がこもっていなかった。
そりゃそうだろ。
何不自由なく生きてきた俺だぞ。人を殺せと言われてはいそうですかって殺せるわけないだろ。
「ああ、それと、残念だったな。たとえ俺を殺したってFeel Good Inc. El Mananaは止まらない。せいぜいあがいてみるんだな」
そういってラクは俺の喉を掴む。
しまった、馬乗りになったってのに相手の両手を挟み込んでいなかった。
喉が弾ける。
まるでバトルロワイアルで違反したみたいに喉が破裂して、ラクは返り血を浴びた。
「……がっ、はっ、はっ。はーああああああ。窒息するかと思った。っておい、ラク!!どこ行きやがった!!」
俺の視界が暗転した数瞬の間にラクは姿を消していた。
「ミルウォーキーを利用してどっか消えやがった‥‥‥逃げられたか」
ウィーンという音が聞こえて、見るとニコが扉のロックを解除していた。
「合唱団かと思った」
「なにをいってるのかよくわかりません。ラクは倒せたんですか」
「それが、逃げられた」
「どっちのほうに?」
セーレが手に鎖を召喚して投げ縄みたいに振り回す。
久方ぶりに見る真剣な表情だった。
「ユキノ。敵の能力について何かわかった?」
「おい、セーレのやつ、いったいどうしたっていうんだ」
「……ちょっといろいろあってね。あとで話すよ」
小声でリイに尋ねるが、なんか事情があったらしい。
「ユキノ?」
「ユキノさん。とても暑いです。それにクジラの進路が明らかにおかしいです」
セーレとニコの質問に俺は答える。
「じゃああれはゲーム台ではなくて操縦席なんですね。それに‥‥‥」
「ああ、やつは能力を全開にすると言っていた。だから、もうこのクジラは機械だ」
唇をかみしめるニコ。だが、すぐに表情を元に戻す。
「わかりました。だとしたら、大きな機械だというのなら、私に解除できるはずです」
「させるわけないだろ」
操縦席に走ったニコの頭上からラクが飛び出す。
あいつ、ニコを人体の不思議展にするつもりだ。
「ニコ!そいつの手に触れるんじゃない!!」
ニコはとっさに身をかがめてラクをよける。
着地したラクはすぐさまニコを追おうとするが。
「あんたにどうしても聞かなきゃいけないことができたの」
セーレの鎖がラクを捉えた。
ぐるぐる巻きになったラクは情けなく地面に転がる。
ぜってえプライドが傷つけられてブチギレてるぞ。
「さっきミサイルの部屋で見えないビートル人を見たわ。そいつが父上と同じ魔法を使っていた。父上はいったいどこにいるの?」
恨めしそうにセーレを見上げているラクだったが、それを聞いて少し戸惑ったように見えた。
「見えないビートル人?トールのことか。さあな。ファクトリーがつぶれるのでも見物したかったんじゃねえの」
「こいつ!」
セーレが鎖を縛り上げる。
「ビートル語ではぐらかすなんて往生際の悪い!いったい父上に何をしたって言うの!!」
「セーレ!そいつほんとうに知らないっぽいぞ」
そうか、今のは日本語だったのか。【全言語理解】ってチート、しっかり活きてたみたいだな。
「だってよ。通訳がいて助かったぜ。さってとお姫様、鎖振り回すだけがお前の能力か?だったら甘っちょろすぎるだろ」
ラクが力をこめると縛っていたセーレの鎖が引きちぎれた。
まるでせんべいみたいにボロボロとセーレの魔法が崩れ落ちる。
「ビートル人舐めんなよ、先住民。持ってる魔力が違うんだよ」
「くっ‥‥‥ユ、ユキノ!」
「だったら俺が相手してやるよ」
セーレに【ミルウォーキー】を発動しようとしたラクの首根っこを後ろから掴んで後方にぶん投げる。
ニコまではいかないが、俺も力強くなったな。
「ニコ!ちょっと手貸してくれ。それとセーレ。俺とラクを閉じ込めてくれ」
「わかりました」
「え、うん、りょうかい!」
やがてラクが起き上がる。
あたりを見回したラクは自分の置かれた状況に困惑した後、俺を見て把握した。
「ボクシングでもするつもりか」
「ご名答」
セーレが張り巡らせた鎖のリングロープ。リングの規定なんて知らないからサイズは適当だしなにより。
「ほらよ」
「このグローブ、鉄か?」
「いちおうボクシングだからな」
ニコの能力じゃ綿のつまったグローブなんか作れない。
だから鉄製だ。
「一応渡しとくが、手にはめたらチートが使えねえもんな」
「浅い戦略だな」
そう言ってニコ渾身のグローブを捨てたラクの拳から牙が生える。
あれは、虎か何かか?
「【ミルウォーキー】、俺の拳にサメの歯をはやした。生憎だが、かっこよさより機能性を重視させてもらったよ」
「そうかい」
ゲーセンの壁が爆発する。
マジで時間がない。
早くしてくれよ、ニコ。
「ああもう、何ですかこのでたらめな配線。システム保持する人のことを何も考えていない」
ニコもだいぶ苦戦しているようだ。
セーレとリイが駆け寄っている。
「大丈夫?魔眼見る?」
「これが結構使えるのよ。パニックになりそうな自分を冷静に出来て」
「え、ほんとですか。なんだか怖いですねえ……すぅ。まるで昼下がりのティータイムのようなリラックス‥‥‥あ!セーレさん。そうだ!セーレさんの鎖を貸してください。あなたの鎖を使って配線をつなぎなおします」
リイの青の魔眼で冷静になったニコがいい感じのアイデアを閃いたようだ。
「へっへー。いいでしょ、私の魔眼」
「ああ、人間の感情を操れるってのは恐ろしいな」
「ユキノには悪いけど、赤の魔眼でラクは頭に血が上ってユキノしか見えてない。この場合、そうした方が好都合だったから」
「道理でボクシングに乗り気だと思った」
さすがに一般ピーポーほどではないとはいえ、多少は魔眼の効果が効いているようだ。
ラクは激高して俺にしか目がいってない。
俺を殺すことしか見えてないせいで、ニコとセーレなんか頭にない。
それがむしろ好都合だ。
「じゃ、頑張ってね。私はロープ外から見てるから。普通の瞳で見てるから」
「現地住民との交流は済んだかよ?裏切り者」
「はいはいお待たせ。じゃあ始めようか、第二ラウンド」
いかがでしたでしょうか。
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