33話 墜落
いかがでしたでしょうか。
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もう2020年も終わりでございますね。
相手の土俵ってあるよな。絶対に踏み入れちゃいけない物の1つだ。
相手の有利な場で闘うことになるから、こっちは不利な闘いを強いられる。
例えば魔王の城な。
相手の土俵で戦うから最後、崩壊する城から脱出せないかんくなるんだよ。
まず魔王を外に出せば城から逃げる心配はないだろ。玄関で中華鍋ガンガン叩くとかして。
ってか魔王が死んだら崩壊する城ってあれどういう仕組みだ?
Bluetooth接続か?
「さてと、お前に死んでもらっちゃ困るんだよな。もしチートが解除されたら俺たちが宙に投げ出されるかもしれねえしな」
「よくわかってんじゃねえか。ファンタジーのお決まりだもんな」
「自分を魔王呼ばわりされてるってのはいいのか、お前」
「最近は勇者こそ悪役だろうが」
回復魔法は自分を治せない。
だからラクの鼻血は止まっていない。
「しっかし、痛ってえな。殴られるのなんて久しぶりだ」
ポケットから取り出したティッシュで鼻血をふき取りながら、どこかしみじみとした様子で呟く。
「だってここは異世界だぜ?剣と魔法でエレガントに戦うのが筋ってもんだろうが」
「んなこと言われても魔法の訓練なんかしちゃいねえし」
「はっ、転移してすぐ捨てられてるんだから当然だろ」
俺とラクが走りだす。
ミジンコを巨大化させて闘うのがお前のエレガントなのかと聞いてみたかったが、なんか焦ってやがるのか。
そう思いながらパンチを振るったからか、あっさり止められてしまって。
「やべっ!」
「ご名答」
右腕を人体の不思議展にされてしまった。
「いってえぇぇぇぇなあ!」
へー血管ってこう通ってんだと感心する余裕が少しある自分が怖い。確かに筆舌に尽くしがたい激痛だが、やはり痛覚がマヒし始めているのかもしれない。
だから股間に蹴り入れてやった。
「……いや、俺も男だから罪悪感がないことはない。だがこれは喧嘩だ。MMAじゃない」
レフェリーもリングもないゲームセンターでラクは七転八倒していた。俺の腕を破壊して得意気だったけど、今や俺の血溜まりの中で声にならない悲鳴を上げて溺れている。
前から蹴るより下から蹴り上げるほうがダメージは大きいんだよな、経験上。
「だから、お前の回復も待たない」
俺の右手はすでに回復している。
完全に元通りになっていて、何となくだが次は破壊されそうもない。
「……させるかよ‥‥‥俺の‥‥‥【ミルウォーキー】をなめんじゃねえ!」
「脚か!」
地面をのたうち回っていたラクが渾身の力を込めて俺の脚首を掴んだ。
突然現れた49番の不良品に自分が負けそうなのがよほど悔しいらしく、その顔は歪んでいた。
「俺に負けるのがそんなに嫌か」
「俺は、俺はサーティーンズだ!なめんじゃねえ!」
ああ、くそ。足がバラみたいになっちまった。
立てねえ。
「はっ!これで逆転したな!お前を見下ろしてるのは俺だ!!」
「そんなに見下されるのが嫌か。前ならえで腰に手を当てるのに飽きたか?」
俺の言葉に間髪入れず、ラクは俺の脚を踏み砕いた。
右の膝から下が完全に千切れた。
膝を中心に血溜まりが広がる。
「て、おい!ツッコミにしてもキツすぎんだろ!」
「黙れ!黙れ黙れ!俺を馬鹿にするやつは全員オブジェに変えてやる!!」
煽った俺が言うのもなんだがこの逆上の仕方は異常だろ。
「そんなに馬鹿にされて怒るって……いったいなんなんだよ。お前はサーティーンズの一員でカクラとロンドを攻め落とした一人なんだろ。ちょっとくらい強者らしくしろよ」
「偉そうに説教垂れてんじゃねえ!!テメェら好き勝手言って都合悪くなったら沈黙るんだろうが!!だったら最初から……」
ラクの目が濁っていく。
俺を見ているようで見ていない。これは俺に言ってるんじゃない。俺みたいなことを言った誰かへの強烈な怒りが俺に水平展開している。
俺の言葉のどれかが、こいつの変なスイッチを押しちまった。
「口をきくんじゃねええええええ!!!!」
天井から火柱が降ってきた。
さっきまできらびやかだったゲーセンが燃えている。
Feel Good Inc.が炎上していた。
「てめえクジラに何しやがった!」
「【ミルウォーキー】を全開!この小魚を丸ごと爆弾に変えた!このままファクトリーに突っ込む!!」
「正気か、バカ!」
どう見ても正気じゃねえ、あの目はプッツンきてるやつの目だ。
「俺は!自由だ!!何人にも犯されざる存在!力を手に入れたんだ!俺の思い通りにいかないやつらなんて全部ぶっ壊してやる!!」
がくんという衝撃とともにクジラの高度が下がる。
シロナガスクジラの大きさの爆弾がファクトリーに向かって墜落しているのがアーケードのディスプレイからわかった。
「いよいよてめえをぶっ倒さなきゃいけなくなった。いっとくが殺しに来たやつを許すほど俺は清廉潔白な主人公じゃないからな」
とは言ったものの、人殺しなんてできるか俺に。
「はっ、やってみろ!!それより先に殺してやる!!」
嗚呼……自分のチートに溺れたラク先輩はやる気満々だ。
ああはなりたくねえな。
「せめて、再起不能ぐらいにはしないとな」
「準備は済んだかよ!?」
傾いた床を利用してラクが襲い掛かって来る。
‥‥‥ちょっと遅いな。
「なに!?」
「なんでだろうな」
異世界転移者らしい超人的なスピードで跳びかかってきたラクを俺は受け止める。
猫の爪みたいに開いた手には触らず、手首を掴んで止めた。
「多分お前が何回も人体の不思議展にしてくれたからだろうな。おかげで、全身の身体能力が向上したみたいだ」
「ヒーリングファクター‥‥‥傷つけば傷つくほど強くなる……」
「あとお前の能力って手で触らないと発動しないだろ。ああ!力強えな」
腕力も超人的だなこいつ。
俺はラクとがっぷりよつになりながら思う。
リイの部屋に乗り込んであいさつしてボコられたことがあったが、あの時はリイの動きが目で追えなかった。
その後のリイとセーレの仲直りの喧嘩も。
だが、今なら追える、そんな確信がある。
「正直言う。力負けしそうだ」
「させるかよ!!」
このままだと力比べに負けそうだったので再び股間を蹴り上げようとした俺の右脚をラクはすかさず受け止める。
「油断したな!!」
勝ち誇ったような顔のラク。
だが。
「実は俺の利き足は左なんだ」
「は?」
「つまり囮ってこと」
ラクが俺の脚に【ミルウォーキー】を発動したのと、俺の右フックがラクの顎を撃ち抜いたのは同時。
爆発した自分の膝下を見ながら、ダウンしたラクを確認する。
数秒間だけだが、再起不能に出来た。
前に書いてみました。




