31話 ミジンコ
特に罠も死角もなく。
せっかくだから俺たちと同じ人数のビートル人を出してくるかと思ったが、ラクってやつはボッチか。
「ここだな」
ここがクジラの体ん中だってことを忘れそうになるくらい無機質な通路を歩いた先にまたしても扉があった。
位置的に俺が歩いてきたのは食道ってことになるな。
てことはこの先はだいたい脳みそのある位置か。
「さて、今度の扉に罠は仕込まれているでしょうか」
開けた瞬間このクジラが大爆発。
は、ないな。ラクも無事じゃすまない。
逆にドアを開けるとラクがスーパーパワーアップ。
ドアの開閉をきっかけにする理由がない。
‥‥‥ま、たとえどんな罠があるにせよ、あいつらに危険が行くことはないだろう。
「どうやって開けた!?いや‥‥‥なんで平気な顔ができるんだ!!」
「今拾ってるからちょっと待て。おまえって、ほんっっっっっっっっと性格悪いのな」
丸いから転がるんだよ。
俺は空いたドアを背中で支えつつ、辺りに散らばった指を拾い集める。
3、4、よし5。
やったことないから分かんないけど、くっつけたら元通りになるだろ。
「捻った瞬間ドアノブから刃物が飛び出してきて開けたやつの指を全部切り落とすって、どんなケジメのつけさせ方だよ。ファクトリーはお前らのシノギかよ」
用心して利き手じゃないほうで開けてよかった。
人差し指を切断面に押し付けてみたら秒でつながった。あとの指もいけるな。
「何だその能力‥‥‥49番は何のチートも持たない不良品だって聞いてたのに‥‥‥」
「ああ、そりゃ本当だ。ありのままで情報共有しといてくれ」
「嘘だ!」
「嘘だよ。わかってんならもっと面白いツッコミ入れろ」
グー、パー、グー、パー。
よし、接着面すら消えた。
「で、そのチートは何だ、とっとと教えろ」
「あん?別にただのヒーリングファクターだけど。お前こそ、なんだよここ。ワープチートも持ってやがんのか?」
クジラの脳みそにあったのはゲーセンだった。
まるで古い温泉宿においてあるような。アーケードゲームの台がずらっと並んでいる。
それにクレーンゲームとかスロット、あとガシャポンまで。
どれも見たことあるキャラクターとかアニメの筐体だが、ラクの座っているアーケードゲームのディスプレイだけは外の景色が映されていた。
「……って、答えてくれねえのか」
俺が喋ってる間にラクが距離を詰めてきやがった。
慌てて対処しようとするものの、ラクは殴るわけでも蹴るわけでもなく、ただ俺に触れて‥‥‥。
「ユキノ?」
分かれ道を歩いていたセーレが突如後ろを振り返る。
なんとなくユキノの気配を感じたのだ。
「え、来てるの?」
「うーん‥‥‥?なんだろう‥‥‥よくわかんないけど、ユキノに何かあったような気がする」
「虫の知らせですか」
「ってことはもしかしてユキノピンチ?助けに行く?」
「ううん、進みましょ。ユキノなら大丈夫」
「いつの間にかえらく信頼してるじゃないの」
「ん?」
ラクは座っていた。
俺が入って来た時と同じようにゲーム機の椅子にお行儀悪く座って。
全身血まみれだった。
俺は一歩も動いていない。
いったいどういうことだと思って足元を見たら。
「……何だよこれ」
水風船を叩きつけたみたいに、血しぶきが飛び散っていた。
「いったい‥‥‥誰の血だ?」
「お前のだよ」
睨み付けていたラクが俺のところへ近づいてくる。目に垂れてきた俺の血を指で払いながら、俺のおでこから下を一筋になぞる。
「たった今、干物みたいにお前を掻っ捌いた。内臓も骨もここら一帯に巻き散らかされて、常人なら即死」
「なるほど。俺ってば回復したってことか」
だが記憶は飛んでいるが。
「まるで逆再生みたいだったぞ。クソ気持ちの悪い」
吐き捨てるようにそう言ったラクは、今度は口に垂れてきた血を吐き捨てる。
「どうして服も回復するのか知らねえが……それもチートのおかげか」
「ご丁寧に分析どうも。おかげで貧血もない」
こんだけ出血したんだから身体だけ治っても失血死しそうなもんだが、なぜだか知らんが平気だ。
「ま、いきなり人を解剖した無礼は許してやるとして、ここは何だ、誰か別のチートか」
「あいにくだが、違うね。ここはFeel Good Inc. El Mananaのコックピットだ」
「なっげえ名前。ようは最初のクジラのバージョンアップってことだろ。いったいクジラの身体がどうなってんのか真剣に考えたら頭おかしくなりそうだな」
「それが俺たちのチートだ」
「お前をぶっ倒さなきゃいけないのに変りはないんだろ」
「チッ、余裕ぶったことを後悔させてやるよ」
ラクが毒づくと同時に俺の前に‥‥‥。
えーっと、これは‥‥‥なんて描写すればいいかな。
ああそうだ。
「顕微鏡?」
「ふっ、ご名答。魔物とか言い出さないあたり、やっぱりお前もビートル人だ」
なるほど。
クジラを改造したのと同じ。そこらに漂う微生物を巨大化させたのか。
まるで理科の時間に顕微鏡で観た小さき命どもが俺と目線を同じくしている。
「生きとし生けるもの全てお前の支配下ってわけか。中学生らしい全能感だな」
「49番の分際で舐めた口きいてんじゃねえ!!」
その怒鳴りを合図に微生物が俺に襲い掛かって来る。
これは、ミジンコか?
だが、単に巨大化させたわけではない。ラクの改造が施されている。
ミジンコみてえな奴の両手はシザーハンズになってる。
「えー、ミジンコさん。ちょっと俺とお話ししようや。そうだな、例えば、ロンド王国の名水ベスト3とか」
読者諸兄が忘れている中俺だけは自分に2つチートがあると覚えている。【ヒーリングファクター】と【全言語理解】な。思い出してくれた?
だからミジンコ語も話せるはずなんだが。
ミジンコさんの答えは。
「キシャーーーーーー」
「あっぶねえ!」
ラクに与えられたシザーハンドを俺に振り下ろすことだった。
「ったく、さすがにミジンコ語なんてなかったか!」
振り下ろされてがら空きになったミジンコの脇に俺は蹴りを入れる。
ぐにょーんとバランスボールみたいな感触が足に伝わってミジンコが吹っ飛ばされる。
「あ、これ、効いてねえ」
その柔らかい体に威力が吸収されちまってる。その証拠にユーフォ―キャッチャーに突っ込んだミジンコはケロッと立ち上がって、再び向かってきた。
「お前、自分の意志はないのか!」
向かってくるミジンコを正面から受け止める。
シザーハンドが腹を貫いて、口に鉄の味が広がる。
「うっ、気持ち悪い‥‥‥」
水分を含んだ靴下に抱きつきながら鉄棒をかじってる状態といえば、俺の不快感がわかってくれるだろうか。
え、あんまわかんない?
「わかんないなら試してみてくれ。俺はもう限界だ」
はやくこいつをぶっ倒さないと蕁麻疹ができそうだ。
俺は全身に火魔法を展開する。
「キシャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
火が燃え移ってミジンコの身体が崩壊する。
中がスカスカだったらしいミジンコはあっという間に燃えカスとなった。
「適当な改造しやがって‥‥‥って」
その適当な改造した本人はどこ行きやがった?
いかがでしょうか。
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