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30話 ラク

「罠、じゃないかな」

「だよね」


 赤みがかった壁に張り付いているいかにも扉みたいな扉。開けたら通路があって奥に歩くと食堂だか操縦室だかにつきそうな扉。

 そんなのが目の前にあったらセーレやリイみたいにまず罠を疑って当然だ。。


「だったら俺が開けてみるか」


 たとえ罠が仕掛けてあったとして、矢でも火でも感電でもあらかたのことなら俺は耐えられる。

 もし仮に何の罠もなかったらどうしよう。

 ひょっとしていいやつなのかとか思えばいいのかな。

 果たして。


「あ、待ってください。私が触ります」


 ドアノブに手をかけかけた俺を遮ってニコがドアノブに触れる。


「なんで?毛虫とか降ってきたらどうすんだ」

「開けるわけじゃないです。触ればその物がなんなのか……。うわあ性格悪い」

 

 しばらくドアノブに触れていたニコが露骨に嫌な顔して扉から遠ざかる。


「え、どした。俺なんか意地悪した?」

「いえ、そうじゃなくて‥‥‥もし開けていたら、その瞬間ドアノブに毒が染み出して、天井から槍が降ってきます。さらにこの骨の床が外れて私たちは地上へ真っ逆さま。即全滅でした」

「……もしかしてお前、わかるのか。その能力で」

「しかも解除もできま‥‥‥した」


 そう言いながらニコは再びドアに触れていた。そのわずかな間にさっき言った性格の悪い罠をすべて解除したのだという。

 マジで言ってる?


「マジですよ。さ、行きましょうか」



「えーみなさん。私たちは今、でっけえクジラの体内にいまーす」

「「「はーい」」」


 声に出して確認しないと忘れてしまう。

 だってただの通路なんだもん。

高速道路下のトンネルみたいな通路がずっと続いている。暗い照明が点々と続く真っ直ぐな道を俺たちは進んでいる。


「……何もないね」

「油断しちゃダメだよ」

「そりゃそうだけど‥‥‥」


 セーレの集中力が切れるくらい何もない。

 ラクの野郎、油断してんのか。


「もしかして俺たちが死んだと思ってんのかな」

「そんなわけありません。いわばここはラクのチートの射程圏内です。このクジラ内で起きる出来事は見えてるはずです」

「そうだよー」


 気づいたら、目の前に少年が立っていた。

 見た目、サファイアブルーハムスターみたいなやつだな。

 グレーの髪に大きな瞳。ばっちり二重で、明るい表情。

 まるで「ちゃお」のヒロインが恋しそうな男子だ。

 「ちゃお」読んだことないけど。


「49番とバカ2人じゃなんも出来ないだろって軽く見てたけど、お前がいたらそりゃこれ位出来て当然か」

「……ずいぶんと私を買ってくれるじゃないですか」

「なるほど、こいつがラクか。ムカつくな」


 こんなやつに恋しちゃいけない。いくらサッカーが得意でスケボーを移動手段にしているからって、好きになったらDVされる。

 「ちゃお」読んだことないけど。


「ずいぶんと余裕じゃない。自分から1対4の闘いに挑戦するなんて」

「数が多いからって勝てないことくらいお前ら骨身に染みてるだろ。それとも、もう一回国潰されたいのかよ?」

「こっち見ろ」


 言い返しかけたセーレをリイが遮って俺たちの後ろに下がる。リイが黒の魔眼を発動したのを背中で感じる。

 顔が黒く照らされてもラクは茶色いカーディガンのポッケに手を突っ込んで、不敵に笑ったままだだ。


「はぁっ!!」


 そんなラクめがけて、リイが俺たちの頭上を飛び越える。

 羽が生えたみたいにリイはそのまま宙で一回転して直立不動のラクにかかと落としを食らわせた。

 まるでパンサーが獲物を狩るみたいだった。

 

「もう一回潰されたいだって?へらへら何がそんなに楽しいんだ‥‥‥!」


 軸足で地面を蹴ってバック宙。体勢の整え方まできれいだな。

 それでもラクは微動だにしない。

 防御力チートでも持ってんのか。


「……だからバカだって言ってんだよ。お前らテレビ見ても小人が箱の中で動いてるって騒ぎそうで」

「人形、か」

「49番、正解。ポイントあげる」


 ひしゃげた顔面と胴体に埋まった首が元に戻りながら、ラクがへらへら答える。

 目の前にいるラクは本物じゃない。おそらくクジラの肉を利用して作ったマネキンだ。


「本名が、えーとユキノ?だっけ。まあどうでもいいけど、とりあえずコックピットまで来なよ。うだうだクジラの中うろつき回られてあちこち引っ掻き回されるのも癪だし」

「おい、聞いたかお前ら。クジラを傷つけるのが効果的な攻撃なんだってよ」

「そしたらお前らも死ぬけどね」


 初めてラクが笑った。口の端を吊り上げる小ばかにしたような笑い方だった。


「可能な限りこのクジラさんを攻撃したくはありません。あのラクを倒しさえすればいいんです」

「こーわー。僕たちの技術に目をキラキラさせてた分際で身勝手なもんだな」


 悔しいような後悔のような、様々な感情がまだらになってニコの顔に浮かぶ。


「一旦落ち着け」

 

 ニコの背中をさすってリラックスさせる。

 あまりに食いしばってるから奥歯割れるんじゃないかと心配になった。


「おっけー。とにかく、無駄口叩くのはやめにしようや。どうやらお前は人を煽るのが得意らしいし、俺たちは平和を愛するからお互いにストレスだ。最後に1つ確認したいんだが、狙いは俺なのか?」

「もちろんファクトリーの奪還が第一だけど。でも跳ねっかえりはシメないといけないだろ」


 そう言ったのち、ラクのクジラ肉人形が消えた。

 そして目の前の一本道が二つに分かれてT字路になった。


「じゃあそういうことで49番は右。それ以外は左ね」


 館内放送みたいにどこからか声が響く。

 右に進んだ先にある操縦室的な所から声を送っているんだろうな。


「そう言われて素直に進むと思うのかしら」

「別に進まなくてもいいけど、そしたらファクトリーは消し飛ぶよ」

「……どういうことですか」

「左の通路を行った先にミサイルを隠した。この前お前らの寝床を消し飛ばしたやつより強い。最悪ファクトリーなんてまた作って人集めてくりゃいいだけだし」

「そんな‥‥‥」

「別に今能力を解除してお前らもろとも地面に落としたって僕は構わないんだ。何を勘違いしてんのか、現住民どもが対等に交渉しようとしくさって。立場わきまえて物喋んな」


 ブツッって音がして放送が終わる。

 こいつ、バカにするどころか俺たちを同じ人間として見ちゃいねえ。

 外見が同じ俺たちでさえこの扱いなら、ミノみたいな亜人はどういう扱い受けてんだ。


「……最初からあんなやつらだとわかっていれば私だって協力しなかったんですが」

「いいよ。過去は過去だ」

「そうそう。とにもかくにもあいつをぶっ倒して来てよ、ユキノ」


 3人ともはらわた煮えくり返ってるはずなのにそれを表には出さないでいる。


「あー、マジ腹立つな。ミサイル蹴り飛ばしてビートルバムに打ち込んでやろうか」


 そんなことなかった。リイは怒りの感情をあらわにしている。

 ほんとはあれくらいセーレもニコもブチギレてる。

 もちろん俺だって。



「……よーし。ありがとな、セーレ、ニコ、リイ。これであいつをぼっこぼこに出来る」

「それにユキノの位置もおおよそ把握できるね」

「しっかしほんとビートル人って人を傷つけることばっかり考えてるね」


 いわれてみればたしかに、シンプルゆえに思いつきづらい発想かもしれない。


「じゃ、そういうことで、ぶん殴って来るわ」


 俺は3人に背を向けて歩き出す。

 途中何回か振り返って見たら、ニコとセーレと何回か目が合った。

いかがでしたでしょうか。

おもしろかった、続きが気になるという方は評価・ブックマーク等よろしくお願いします。感想・評価・ビートル人のアイデア等もお待ちしております。何で50人全員考えないうちから執筆を開始してるんだ。

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