29話 小魚がクジラに勝つ方法
俺だ、ユキノだ。
突然だがホウキに乗ってる魔法使いを思い浮かべてくれ。
なろう系でもラノベでもいいし、児童文学的なファンタジーでも。
漠然としたイメージでいい。
‥‥‥思い浮かべたな?
髪型が崩れてないだろ。
クディッチしててもピリカピリララしてても宅急便しててもあいつらの髪型は全く変わらない。帽子さえ微動だにしない。
おかしいだろ。
街を一望できるくらいの高度を時速100㎞出してなんで平気な顔してあんな細い棒に跨ってられるんだ。
こちとらちょっとスピード上げた瞬間、角膜がパリパリに乾燥して墜落しかけたぞ。
「ユキノさん、どうして魔力障壁を展開しないんですか」
撃ち落されたみたいに突如高度を下げた俺を心配してニコが俺のところまで来てくれた。
ニコだけがな。
いや別に、お姫様2人も無視していったわけじゃない。リイもセーレも上のほうで心配そうに見ている。
で、そう、魔法障壁の話だったな。
「爆風を防げるあれか。どうやんだよ」
ファクトリーの爆発に飲まれて俺が肺と皮膚を焦がしていたにもかかわらず、セーレたちが無事でいられた理由だ。
「簡単です。自分の魔力を外に放出するイメージです」
「って言われても俺たちビートル人って生まれつき魔力があるわけじゃないからよくわかんねえ」
「例えるなら近づくなオーラを出すみたいな感じです」
「把握」
周りを寄せ付けないよう反発するようなエネルギーを出すって感じか。
なんとなくやってみたらたしかになんかバリアみたいなもんが出たっぽい。
「お、良好です。じゃ、行きますよ」
ニコがセーレとリイに合図して再び出発する。
下に見えるファクトリーが後ろにぶっ飛んで行く。
それなのに風は顔に当たらないし、風の音も聞こえない。
これが魔力障壁の力か。
「って、なんじゃあのクジラ」
ファクトリーの端っこ。敷地のギリギリまで近づいた俺たちは驚いた。
ラクとかいうビートル人の3回目のFeel Good Inc.の全貌が明らかになってきた。
その姿は一言で言って、
「凶悪すぎる‥‥‥」
セーレが呟いて、俺たちはスピードを緩めた。
もはやクジラと言っていいのかすらわからねえ。
巨大な魚の骸骨がこちらに向かってきていた。だがその形はどうやらクジラを象っている。
骨と骨の隙間は真っ暗だが、かといって空洞ではなかった。
「もう1つ大きな違いがありますよ」
俺の情景描写にニコが付け加える。
「あのクジラさんには表情があります。怒ってるのか泣いているのかわかりませんが」
これまでの2匹には表情なんてなかった。
まるで魚のロボットみたいだった。
なのに今回のこいつは、顔面も骸骨のくせに何かを訴えるような顔をしているのだ。それが怒りなのか悲しみなのかは、確かにわからない。。
眼球があるはずの2つの穴は、ただひたすらに闇だった。
「……一応お前ら3人に聞くが、この世界には骨だけで生きる魚はいるか?」
3人が3人、首を横に振った。
「そりゃそうだな。そんな無理した生き物さすがに異世界にも存在しねえか」
それを無理やりにでも存在させるのが、ラクのチート。
「えげつねえことしやがるが、ってことはあれがやつの本気か」
「どうします、ボス」
「いつのまにか俺がボスなのか。で、小魚がクジラをぶっ倒す方法ったら内部から崩壊させるしかないわな」
正面から行ったらまず間違いなくあの固そうなヒレにぶっ叩かれて死ぬ。
うってつけなことにやつはスケルトンだ。侵入する隙は結構ある。
例えば下からとか。
「というわけで潜るぞ。そろそろラクに気づかれそうだ」
俺たちは高度を下げてクジラの腹を目指す。
肋骨の隙間から行けるんじゃねえかと思い近づいていくが。
そうくるのは向こうもお見通しだった。
「ユキノ、なんか降ってきたよ!?」
「どう見ても爆弾だな」
クジラの肋骨の隙間から絵文字みたいな爆弾が降ってきやがった。
黒くて丸くて紐の先に火がついている。
「あれが爆弾。あんな空気抵抗の大きそうな形状」
「それがビートル人だ」
「ちょっとそれにしてもとんでもない数!」
「いったん散れ!」
ニコにビートル人の非実用的こだわりについて解説している場合ではなかった。
ラクの降らせてくる爆弾の量はまさに雨。
補助輪が要るくらいの運転技術で避けきれるか。
「くっそが、完全に俺たちを殺す気でいやがる」
「わかりきってることじゃん」
「きゃあああああああ、魔力障壁全開いいい!!!」
黒い雨の間を縫うようにしてバイクが飛ぶ。リイはその反射神経で躱して、セーレは悲鳴を上げながら魔力障壁を広範囲に拡大して爆弾をはじいている。
そのはじかれた爆弾が俺のところに来てるんだが。
目下のファクトリーが破壊されていく。
一発一発がこの前のミサイルくらいとはいかないが、ビルを半壊はさせている。
あの辺は何だ。
服飾棟か。ビートル人のイカした服を作るために、麻袋に首と腕を通す穴をあけた“服”を着たこの世界の人間が汗水たらして働かされていた建物だ。
「てめえら明日から裸だぞ!!いいのか!!!」
燃え盛るファクトリーをバックに俺はクジラに怒鳴る。ほとんど爆炎にかき消されたが。
て、そんなことより。
「セーレ、どうだ、出来そうか?」
「ええ、なんとか‥‥‥って、あ!私手放し運転なんてできるかしら」
いまさらそんなこと言うな。
ファクトリーに来てからお前の性格があまりに平和になりすぎて忘れかけていたが、お前の能力は汎用性が高い。
「大丈夫ですよ。ギアを3にしてください。そうしたらホバリングになりますから」
「こっちは準備オッケー。ユキノも早く上がって来て」
ニコはセーレのサポートについて、俺とリイは文字通りの露払いだ。
セーレは余分な魔力を消費しないように、魔力障壁を解除する。
いままで弾き飛ばしまくっていた爆弾がまた直線になって降り注ぐ。
それを俺とセーレが魔力障壁を展開して防ぎ、セーレの屋根となる。
「よっし。グラグラして、立ちづらいよ。でも」
俺とリイの間を銀色の線が通り抜ける。
追いかけて振り向くと、成功。
クジラの肋骨に鎖が巻き付いている。
「あ、ちょっと待って。これ私の腕力への負担が凄い!」
セーレは今戦艦に紐でつながった小舟と同じなんだから、そりゃそうなるか。
このままだとセーレがターザンになってしまう。
「もう少し頑張ってください。みんなで支えますから」
ニコがセーレの鎖を掴む。俺たちも。
重っ。
いい感じの魔力でなんとかならん?
「つべこべ言わんと力入れる」
リイに言われて力をこめる。
まさかここに来て筋肉を使うことになるとは。
「よし、だいぶ楽になったよ。じゃあゆっくり縮めていくから」
セーレが鎖を手繰り寄せていく。
徐々に俺たちとクジラとの距離が近づいていき、そして俺とリイは先にクジラのあばらに乗ることができた。
「4人乗っても余裕。デケエ骨だな」
「ねえ結構ファクトリーヤバいよ」
リイのいう通りファクトリーは荒れ果てていた。
あーあ、ビートル人ども明日から全裸だ。
「爆弾は収まったけど、次はどんな攻撃が来るかわかんないし、だからさ、2手に別れよっか」
そういいながらリイはセーレの方に腕を乗せる。
「私らがこのクジラを止める係で、ニコっちとユキノがラクをぶっ倒す係。オッケー?」
「オッケー」
作戦が決まった。
「それはいいけど、こっからどうすんの」
「それについては心配いりません」
「やけに自信あるなニコ」
「はい。だってあそこに扉が見えますから」
あばらの奥に目を凝らすと、確かに扉が見えた。
というか、勝手口?
まさに戦艦とかの扉みたいなのが取り付けられてある。
なんであんなもんクジラに取り付けられてんだよ。
ていうかどこの部位だよあそこ。
肺?
いかがでしょうか。
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