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28話 前夜

「動力源はみなさんの魔法です。ある程度電池に貯めてもいますが、シートに乗ると魔力がここのエンジンに内蔵された魔石に伝達します。そして発生した浮遊魔力が同じくエンジン内で増幅されてこのホウキの掃く部分にあたるところから放出されて、空を飛べます」

「そこ、ホウキとか言わない」


 ニコまで毒されてしまった。

 エンジンって言ったんだから、ホウキじゃなくて後輪の部分とか言っとけばいいでしょうが。

 

「運転はこのハンドルを使って下さい。ほとんど自転車と同じですが、右手のグリップを手前に回すことでエンジンがかかります」


 改めて説明すると自転車(素材はニコ特製の合金)からカゴとタイヤを取り除いて代わりにエンジンをつけて、バランスを取りやすいようにフレームを延ばしたのが、俺たちとニコの作ったバイクだ。

 バイクだ。


「1、2、3、4。私たちのってことね。3つは同じにみえるけど、どれ乗ってもいいの?」

「1つのちょっと小さめのやつはニコのだ。各自自分にあうように微調整してくれ。背もたれの角度とかあるいは別になくていいとか」


 とりあえず、同じ形のバイクをニコに3つ作ってもらった。セーレやリイの体型知らねえしってことで、先んじてニコは自分用だけ微調整していた。

 ちょっとうきうきしていた。

 なんせ自分の色であるオレンジをアクセントにデザインしていたからな。


「あ、ニコちゃん。そのオレンジいいね。私のもオシャレにしてよ」

「いいですよ~。何色がいいですか」

「紫。あとね~、もっと深く座れるようにしてほしいな。あとさすがにホウキに乗るのはちょっと」

「ここではホウキNGだぞ、おい」

「わかってるよ。だからだって。もうちょいバイク味を出したいと思ってさ。このユキノが描いたバイクみたいなゴテゴテしたのつけてよ」

「魔力の消費が増えますよ、いいですか」

「いいよ、私なら余裕っしょ」


 深く座るために座席が大きくなって、本来は空気抵抗どうこうのために付けられるであろう外装パーツがオシャレのために付けられた。

 ネオ東京を疾走するのにいいんじゃねえの。


 そうやって各自の好みに合わせてバイクはそれぞれカスタマイズされた。セーレは金糸雀色のクラシック。ニコは原付風で、俺は黒のオフロードにした。

 とはいえ、タイヤも排気筒もないしエンジンの形も違ってるから、あくまでも雰囲気だけのものだが。

て、何で「セーレ」って名前書いた?スタイリッシュなフォルムに通学自転車みたいに名前が書いてあってダサいんだが。でも本人が満足そうにしてるから言わないでおこう。


「さてと。こっちは準備万端だな。あとはクジラを迎え撃つだけだ」

「はたしていつ来るでしょうか」


 その日はとても穏やかだった。

 バイクづくりは昼前に終わっていて、臨戦態勢モードに入っていた俺たちだったが次第にダレてきていた。

 今やセーレとニコはバトミントンに勤しんでいる。

 昭和昼休みOLか、お前らは。

 まあ俺が教えたんだが。


「現代日本の遊びはどうですか、お2人さん」

「結構、たのしい、ねっ!」

「このシャトルっていうのが不規則でイマイチ狙いどおりに打てなくて楽しいね。でもビートル人の世界にもこんなものがあるんだ」


 プレイしながらの喋りの饒舌さからも明らかなようにセーレがリイに翻弄されている。魔法使用オッケーにしないと、セーレに分が悪いな。


「って、ビートル人の世界を何だと思ってんだ」

「だってあいつらとは争ってばっかだもん。グラタンも五目チャーハンも電池も、自分たちだけで楽しんでるし」

「知ったらムカつくって?」

「諸々含めたらそんなレベルじゃないけど、そだね」



 徹夜したんだから今のうちに睡眠取っときなといって寝かせたニコが夕方前に起きてきた。

 だもんで夜になっても眠くならないとか言って、夜中になってバイクの整備を始めた。


「多分忘れてると思うんですけど、ユキノて国王なんですよね」

「ああ、忘れてねえよ。俺は国王兼国民だよ」


 国土はない。国土無かったら国家としての要件を満たさないと習った気がするが、向こうの世界のルールなんて知ったこっちゃない。


「国王と国民を兼務できるのかも謎ですが、だって王権は神から授かったギフトですし」

「マジかよ。じゃああいつらの父ちゃんもか?」

「そういう神話はありますよ、はい‥‥‥」


 え、何そのしりすぼみ。

 なんか用事があったんじゃないのかお前、まさかセーレとリイの先祖が天地を創造したすごい奴らの子孫だってことを俺に教えたかっただけじゃないだろ、何事もなかったかのようにバイク整備に戻ってるけど、という俺の視線にニコは気付いてはいるが、それでも言葉はない。



4時間後。


 【ヒーリングファクター】のおかげでナポレオン並みに少なくなった睡眠から目を覚ますと、夜明けの地平に巨大な魚影がみえた。


「ついに来やがったか」


 まさか第一発見者が俺になるとはな。なんだろう。ビートル人同士はひかれあうとでもいうんだろうか。

 そんな縁ごめんなんだが。

俺はニコの家の壁に取り付けられたスイッチを押した。

 おばはんの絶叫みたいなサイレンがファクトリーに響き渡る。

 第1警報、ファクトリーに重大な危機が迫った時になるサイレンだ。

 別に第2、第3があるわけではない。


「おはようございます、ラク先輩。今回はこっちからいかせていただきますんで」

「おはようユキノ。朝早いね~」

「みなさん、あのクジラに罪はありません。私たちが倒すべきはラクです」


 サイレンで目覚めたリイとニコが部屋から出てくる。

 すでに準備万端。臨戦態勢だ。


「あれ、セーレは」

「まだ着替え中」


 覗いてやろうかあいつ。

 俺がドアノブに手をかけたところでタイミングよくセーレが飛び出てきて、開く扉に顔面をぶつけ、なかった。

 さすがにそこまでの定番は、な。


「ごめんごめん寝坊しちゃった」

「目覚めただけ、よし」


 いつものふりふりしたいかにもお姫様然とした服装のセーレもバイクに乗り込む。


「じゃ。そういうことで、いきますか」

「……ユキノが先頭?」

「そういや決めてませんでしたね」


 誰を先頭にどういうフォーメーションでいくのかを決めてなかった。

 この辺が元現代日本高校生とお姫様2人とエンジニアで出来たチームの詰めの甘さだ。

 ネッドラッドなりボスがいりゃ話は違ったんだが。


「とりあえず、ゴー!」


 もたつく俺たちを尻目にセーレが飛び立つ。

 慌てて俺たちも後に続いた。

 ぶっつけ本番。原付の免許なんて誰も持ってないが、それでもバイクは空を飛んでFeel Good Inc.に突き進む。

 まるで魔法のホウキみたいだ。

いかがでしたでしょうか。

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