27話 バイク
なんとなくリイはハーレーみたいなバイクに乗りそう。
―――ファクトリー ビルディング跡地 現クジラ対策班ベースキャンプ―――
「バイクを作ろうと思います、ユキノさん」
ニコと俺が机の上で額を突き合わせる。
これから俺はこのファクトリーでバイクを作る。
それがニコの計画だった。
さっき俺が自転車をこいで坂を駆け上がったのと、ビートル人から聞いた乗り物「バイク」の2つから思いついた。
まずはニコの能力で坂を錬成。そこをみんなしてバイクで駆け上がりクジラを強襲。あんだけの図体してるんだから小回りは利かないはずだ。そこを集団で攪乱しようというわけだ。
「バイクってビートル人から聞いたのか」
「はい。ガソリンを使うビートルバムの乗り物の1つだと。仕組みだけ教わりましたが私はガソリンを作れませんでした」
「ガソリンそのものよりガソリンが爆発するエンジンのが重要なんだよな」
ガソリンに火をつけてその爆発のエネルギーでタイヤが回転するんだから、ガソリンは必須じゃない。
「そうなんですか。『車って何で走るの?』『ガソリンっしょ』って言ってましたけど」
「そいつらアホだ。忘れろ」
ろくな教育係じゃねえな。そんなやつらに教わってよく電池とか作れたな。
「ちょっ、ちょっ、ねえリイ!持ってる!?持ってる!?」
「持ってるよー持ってる持ってる」
「その割には声が遠くなって、って!持ってないじゃな‥‥‥」
自転車の練習をしているセーレがこけた。
リイに支えられてると思ってた時は真っ直ぐ漕げたのに、持ってないと分かった途端、よろよろするんだから想いの力って偉大だよな。
「単に後ろ向いたからじゃないですかね」
「あいつ乗れるって前言ってたよな」
バイクに乗るためにセーレとリイはさっきから自転車の練習を始めた。どっちも小さいころに練習していたらしいが、あんまり乗る機会がなかったそうで、勘を取り戻すために苦労している。
「ちょっとリイあんた、どうして一輪車に乗ってんのよ!」
「なんでって、なんか置いてあったから」
「そういうことじゃなくてえ!」
訂正しよう。苦労してるのは主にセーレだ。
リイはその運動神経の良さですぐさま感覚を取り戻し、今では一輪車でセーレの周りを回っている。
お嬢様2人の呑気な午後だ。
「ユキノ!何笑ってんの!」
「そりゃ面白いんだから笑うだろ」
「ユキノさん。バイクって具体的にどんな形状をしてるんですか」
必死こいてるセーレを尻目に俺はニコに向き直る。
「それがあいにく俺も馬鹿なビートル人でな」
「何となくでしか覚えてない、ですか。形は自転車なんですよね」
目の前の紙の上にとりあえずでペンを走らせる。
自転車との一番の違いであるエンジンやタイヤが全く分からん。
現代日本のエンジニアになら「なんかいい感じでやってよ」って頼めば簡単なんだが。
いや、そんなことしちゃダメだな。
「作り手への要望は具体的にお願いします。そうしないとこっちも顧客の満たすものが作れません」
「どこでもいっしょか」
「うーん……」
出来上がった俺のスケッチを見てニコは頭を抱える。
なんとか記憶を掘り起こして描いてみたが、こりゃあダメだ。そりゃ「ガソリンっしょ」のビートル人よりはましなものが描けたが、俺もビートル人と同じく、素材や仕組みがわからない。
タイヤってゴムだよな、でも輪ゴムとは絶対に違うよな。
ほんとにゴムの木から出来てんのか?
「樹の樹液を固めたものに空気を入れてタイヤを覆う‥‥‥。意味は解りますが、どう再現すればよいのやら……」
さすがのエンジニアもメイドインジャパンのものづくりを再現するのは無理か。
こうなったら本田宗一郎を転移させる方法を考えるほうが簡単かもしれない。
「無理そうか」
「はい‥‥‥。いったいビートル人はこの乗り物でどうやって空を飛ぶというのでしょうか」
「は?」
昔見たバラエティで外国人力士が言ってたな。来日当初日本語の挨拶だよって教えられた文言が下ネタだった、とかって。
「飛ばねえよ?そんな、仮面ライダーじゃあるまいし」
「え」
そのろくでもないビートル人の教師のナンバーを教えてくれ。
適当なことばっか言いやがって。
「きゃっほー。ねえユキノ、見てみて。結構乗れるようになってきたよー」
「セーレってばスゴイじゃーん」
今回の話のあいつらすげえバカだな。
セーレが自転車に乗りながらこちらに手を振っている。
片手運転も出来るようになったのか。頑張ったんだねえ。
「いや、ちょっと。これは困りましたね。どうしましょう。だとすると、坂を錬成しながら戦うことになりますが、それではあまりに機動性に欠けます。第一私の魔力が持ちません。そんな‥‥‥彼らがあまりに当たり前のように言うから信じ切ってました」
「空飛ぶバイクの技術なんて現代日本にも存在しねえんだ。残念だが」
「すいません‥‥‥せっかくみなさんに協力してもらっているのに、これでは…」
そうだな。あの天真爛漫に自転車に乗ってるセーレにどうやって説明しようか。
ニコはうつむいてしまった。オレンジの髪がわずかに震えている。
その髪の毛の隙間から水滴が落ちるのが見えた。
「……あー、諦めるのはまだ早いぞ」
「……え?」
「ここは剣と魔法の世界なんだろ。何でもありだ。だから空飛ぶバイクだってきっと作れる」
「ビートル人から見ればそうかもしれませんが」
「いや、できるさ。根拠はねえが」
「ないんじゃないですか」
俺の空虚なポジティブは、それでもニコを微笑ませることには成功した。
「根拠なんてのは後付けで作ればええんや。ニコは電池と超配達ランチくんと自動馬車を作ったんだから、空飛ぶバイクだって作れる」
「まずは自信を持つことが大事、ですか」
改めて俺とニコはバイクの絵に目をやる。
「ってか、ガソリンもエンジンもわからないのに自動馬車は作れたんだな」
「ああ、それは、どうやらエネルギーを増幅させるのがエンジンの役目なんだろうと考え至ってどうにかして作ったんです」
「どうにかして」
「魔石から発せられる魔力を増幅させてるんです。自転車を参考にしました」
「おいマジか。お前、もう空飛ぶバイクを作ったようなもんじゃないか!」
シーシェパードとか思ってすまなかった。
「え、そんなにすごいですかね、これ」
「すごいに決まってんだろ。トマトとピーマンだけのビーガンラーメンだけ食ってこんな代物が生み出せるんだぞ、お前やっぱ天才だ」
「い、いやあ、そういわれると気分がいいですね」
口調と表情がミクロに変化して、どうやら本当に喜んでいるようだ。
―――ファクトリー ニコの家―――
翌日。
「ラーメンっていうの。これ」
「野菜しか入ってないなんてヘルシーだね。スープしょっぱいけど」
あの後。俺とニコは徹夜でバイクを作った。
2人でアイデアを出し合い、ニコがクラフトしたバイクに修正を加え続けた。
セーレとリイは昼過ぎには帰っていた。
帰ったといっても爆破された寮の片づけと、仮設住宅の建設を指揮していたのだが。
「私たちだって夜遅くまで働いてたんだから」
「いいねえこの塩っ辛さ。疲れた体に染みるぅ」
サラリーマンみたいなこと言ってリイがビーガンラーメンを飲み干す。
てか、褐色紫髪の美少女がラーメンすすってるってなんか不思議な光景だな。
「それで、ばいく、って乗り物は完成したの?ていうか、ニコちゃんどこ?」
「ニコなら裏の作業場だ」
俺はニコとセーレの背後にあるドアを指さす。今までなかった部屋だが、昨日作業を進めるにあたり、作った。
「おはようございます、セーレさんニコさん。何とか間に合いました」
「さてと、お前ら。今から魔法使いになってもらうからしっかり頼むぜ」
魔石の力を増幅させてその力で空を飛ぶ。
空を飛ぶのだからタイヤなんて絶対に要らない。無駄な部品もない方がいい。
最低限、座る場所とエンジンと支柱。
初めてバイクを見た2人の感想は。
「ねえなんか、自転車と全然違くない?」
「これが、ばいく?なんかあれだね、ホウキに椅子をくっつけたみたいな‥‥‥」
「バイクだ」
疑問を口にするセーレとリイを黙らせる。
特にリイなんてホウキとか言い出して、危ない危ない。
俺たちが乗るのはバイクだ。そんな箒に乗って空なんか飛ぶわけないだろ。章の初めで空飛ぶクジラを、お決まりのパターンで芸がねえとかディスっといてそんな。
キキやハリーポッターのホウキに背もたれが付いてたか?
どっからどう見てもバイクだ。
ただちょっとパーツが少ないだけの。
いかかでしたか。
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