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24話 網

 シャーーーーーーーーーーーーっという自転車のチェーンが回る音だけが聞こえる。

 俺は立漕ぎでファクトリーを下に見ながらひたすら坂を上がっていく。

 後ろに女子を乗せて自転車こぐのは初めてじゃないとはいえ、さすがにこんな心臓破りの坂はキツイ。

 エリックワイナイナしか踏破できねえな。


「大丈夫ですか。スピードが落ち始めていますよ」

「大丈夫だ。心肺機能はてっきりあの時の水泳で鍛えられてたと思ったんだが」


 セーレを助けたときに鍛えられたのは主に肺だったか。

 俺はドラムンベースなみに速いビートの心臓にさらに負担をかけて、自転車のスピードを維持する。

 BPM200くらいあるな。


「今まで秘密にしてたんですが、私は普通の魔法が使えません」

「え?」

「だから、闇魔法を駆使して反重力を展開することができません。助けにならず申し訳ないです」


 このタイミングでカミングアウトしてきた。

 あいにくニコの顔は確認できないが、口調はシリアスだった。

 重い話、なのか?

 この世界の文化がわかんねえからいまいち反応に困るな。向こうでいうLGBTくらいの重みか?

 んなもんこのタイミングでしねえ、よな。

 俺シリアス苦手なんだけど。

 心臓が破裂した。


「あっ……………よぉーし回復した。ダブステップでもボカロでも何でもこいやあ」

「あの、聞いてますか」

「あん?まあ、出来ないことくらい誰にでもあんだろ。気にすんな。自分のいい面だけ見て生きていけ」

「大層ポジティブなんですね」


 だってお前の能力がなかったらこのクジラと同じ目線まで行けなかったし。


「そう、ですか。なんだか自分の悩みが小さくなった気分です」

「不愉快か?」

「そんなナルシストじゃないですよ」


 もうすぐ坂を上りきる。

 目の前にいるのは巨大マッコウクジラ。

 メルヴィルもびっくりの真っ白なマッコウクジラ。

 突如現れた坂に気づいているのかいないのか。そもそもこの機械にそんな上等なセンサーついてるのかいないのか。


「しっかり踏ん張れよ。こっからはお前が主役だ」


 そう言いながら俺は前カゴに入れられた鉄の塊を見る。

 俺がこいつに教えた現代日本の知識。

 鉄でだって紐は作れる。


「ワイヤー。あの時教えてくれればもっとマシなエレベーターが作れたのに」

「頼んだぜえ、ニコ!」


 いつの間にか紐はほどけていた。ニコが荷台から降りて、鉄の塊を片手で持つ。

 まるでモンスターボールみたいに軽く扱っているが、それ俺だと両手で持つくらいの重みあるんだが。

 さてと。

 甲子園球児みたいに立つニコ越しに俺は迫りくるマッコウクジラを見た。

 真っ白い巨大クジラはさながら入道雲のようだった。


 見てきた中で一番出けえ魚は海遊館のジンベイザメだった。特大の水槽を悠然と泳ぐ優しい顔のサメを鑑賞していた。

 それを塗り替える最大の魚。

 ビートル人の白マッコウクジラ。

 こちらに気づいているのかいないのか分からんし、その動力源も不明だ。

 とにかくクジラのくせに空飛んでこちらに向かってきている。


「今こんなこと聞くのはあれかもしれんが、お前魔力は大丈夫か」

「この坂を作るのに結構魔力を使いましたが、登る前にリイさんからこれをもらいました」


 ポケットからニコが取り出したのは超配達ランチくんの電池だった。


「自分が作っておいてあれですが、持ち運びできる魔力って結構便利ですね」


 ニコは電池から魔力を吸収し、鉄の塊を思いっきり投げた。

 ただの四角い鉄塊は空中でパーティクラッカーみたいに弾けて、ワイヤーとなってクジラに降り注ぐ。

 まるで、クジラが来たのを歓迎してるみたいだった。


――――――

「完全に破壊しちゃダメって、アシハラさんも丸くなったな」


 昔ならソッコー全部破壊して終わりって感じだったのに、今回は威嚇射撃にせよだって。確かに俺たちの生活品を作ってるけど、それでも別に爆破してまた新しいの作らせればいいじゃないかな。

 マッコウクジラの体内。目から入って脳みそのところにある操縦室で、ラクが独り言ちた。

 ビートルバムが所有する巨大生物兵器Feel Good Inc.

 その操縦室は生き物の体内とは思えないほど無機質で、まさにコックピットというレイアウトだ。

 そう思うラクの目の前にはアーケードゲームの台があった。ディスプレイにはFeel good Inc.の外の風景が映されている。もうすぐだだっ広い草原の向こうにファクトリーが見える。まるでクジラの視界をジャックしたようだ。

 ラクがボタンを押すと、クジラのスピードが上がった。どういう仕組みかはラク自身も理解していない。もともとあった脳みそはどこへ行ったとか、なんで船とか車みたいな操縦桿じゃないのかとか。

 ただ自身の能力【ミルウォーキー】の産物がこれなのだから、使い手であるラクは、どう使えばいいのかが直観的に「わかって」いる。


「異世界に転移して覚醒するチートは、自身の無意識の欲望を反映している‥‥‥か」


 アーケード台に足をのっけながら、ラクはアシハラに言われた言葉を思い出す。確かに働きたくないやつは人を働かせるようなチートに目覚めたし、ああみえて運動神経悪いやつは肉体強化チート持ちだし。

 なら俺は?


「別に虫ちぎって遊ぶなんてみんなやってると思うけど」


 ただ、ゲーセンは行ったことねえな。ゲームも買ってもらえなかったし。親は勉強しろとしか言わなかった。そうやって始まりかけた思索をラクは中断する。


「って、顔も思い出せねえやつのことなんかどうでもいいや」


 くだらねえ上下関係なんてないのが俺たちビートルバムのいいところだとラクはあらためて認識する。


「さてと。そろそろファクトリーの敷地だな‥‥‥ってあれ」


 あんな坂あったか?

 

「ひょっとして、壁のつもりか?やっぱこの世界の人間ってバカばっかだな」


 ラクは爆笑しそうになるのを押さえるのに必死だった。もしかしてあいつら、また壁作ってんじゃねえの。カクラを滅ぼした時から全く成長してねえ。


「ひひひひはははははははは。あー、やっぱこの世界最高だな」


 涙が出るほど笑ってラクは全く油断していた。だから、心臓を破裂させながら坂を上るユキノに気づかなかったし、その後ろにいる少女がかつてビートル人に味方したエンジニアだったことも。

 ラクがミサイルのボタンを押してとっとと帰ろうとしたその瞬間。

 ディスプレイにクモの巣が張った。

いかがでしたか。

面白いと思ってくれただけでもオラぁ幸せだあ。

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