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23話 リピート

「Feel Good Inc.が来たぞおおおおおおお!!!!!!」


 見張りが怒鳴り散らして朝焼けにサイレンが響き渡る。

 ぼやけた空でクジラがひれを動かしてこちらに迫って来ていた。


「白いマッコウって、メルヴィルか」

「今度は本気ですね、ラク」


 空を泳ぐ巨大クジラを見てニコはたじろいでいた。

 ビビるニコの気持もわかるが、あまりに非常識な光景で俺は見ていて笑えてくる。

 B級ファンタジーだな。


「何笑ってるんですか」

「いや、そのラクってのも異世界ファンタジーが好きなんだなと思ってな」

「はた迷惑な人たちです、ビートル人」


 下ではファクトリーの人たちが右往左往して逃げまどっている。みんなこの前のビームで死を思い知ったのだろう。

 お、誘導してるやつもいる。

あれはきっと壁制作班のやつらだな。


「クジラから遠ざけるのはいいが、壁の建設は間に合ったのか」

「……間に合ってないです」


 確かに。

 昨日見たのと変わらず平野が見える。

 よく見れば、建設途中の壁がちらちらあるが、あれじゃとてもクジラをふさげそうにはない。


「さてと、大ピンチだな」

「こんなことで人生が終わるなんて、可哀想です」

「……てめえ、他人事だな」


 ニコの魔法を使えばこのウサギ小屋と自分だけは守れるらしいから、当然っちゃ当然だが。

 サイレンが鳴りやまない。

 俺たちは花輪以下か。



―――ファクトリー 対クジラ班―――

「落ち着いてください!落ち着いてください!」

「さっすがに、魔眼使うしかないかな」


 セーレとリイもパニックになる群衆を治めようと必死だ。まだ遠くにいるとはいえ、ファクトリーにクジラが到達するのも時間の問題。


「セーレが持ってる拡声器もお前が作ったのか」

「は、離してください。自分が作った物に縛り付けられたのは初めてです」


 自転車の荷台でニコが文句を垂れる。

 いたいけな少女を縛るのは心が痛かったが、本人がウンと言わなかったのだからしょうがない。

学生時代に培った絶対に落ちない荷物の括り付け方がこんなとこで役に立つとはな。


「あ、ユキノ!!てめえ今までどこほっつき歩てたんだ!!」

「いやラッドくん。そんなことより後ろのオレンジの女の子を心配すべきじゃないかな」


 ラッドとリイが誘導の手を止めこちらに駆け寄って来る。

 そういえばちゃんと顔を見たのはセーレだけだな。


「その子が、きみのいうエンジニアなのかな」

「おう、こいつならきっとあのクジラを止めることができる」


 ‥‥‥なんだその、こいつクジラの恐怖でいよいよおかしくなっちまったな見たいな顔は。


「リイさん。ユキノのやつ普段から何言ってっかわかんねえけど、今回ばっかりは」

「うーん、さすがにねー。ちょっと話に無理があるって言うか」

「こいつが俺の言ってた裏切り者だぞ」


 素早く紐をほどいてニコを立たせる。

 ニコは不満そうな顔をしながら渋々2人の前に歩く。

 俺たちに気づいたセーレもこちらに近づいてきた。


「……ほえ、もっと大人だと思ってたよ」

「ドワーフが幼く見えるだけで年同じくらいですよ」


 リイはいつもの呑気な顔を崩してないし、ニコは相変わらずの仏頂面。

 だけど片やビートル人に滅ぼされた国のお姫様で、片やかつてビートル人の手先だった裏切り者。

 一触即発。


「おい、ユキノ。この2人なんか因縁でもあんのかよ。なんかやべえ空気流れてっぞ」

「流れてるだけだ。気にすんな」

「ねえ、ユキノ。説得成功したの?」

「成功してねえ。気にすんな」


 今、互いの感情をぶつけ合ったところで、カクラが復活するわけでも過去が消えるわけでもないしな。

 仲良く会話するには遠い距離間で対峙する2人の直線上に躊躇なく俺は足を踏み入れて、これからの話をする。


「さてと。あんなところで超配達ランチくんがひっくり返ってるな。ごらんのとおりファクトリーは今ピンチだ。いや、こんなファクトリーはどうでもいい。あいつらのもんだしな、俺たちはちょっと無職になるくらいだ。問題は、あのバカげたクジラだ。あいつは俺たちを皆殺しに出来る。それがなによりまずい」

「ざっくりとしたおさらいですね」

「で、だ。壁はまだ出来ていない。出来たところでどうなるって意見もあるが、何にもないよりはましだ。だが、防戦一方も面白くない。攻めるのも重要だろ」

「えーと、ユキノっち。とどのつまり何が言いたいん?」

「とりあえず、あのクジラを追い払おうと思う。協力してくれ」



「ところで、お前らも自転車乗れるよな?」

「うん。だいたい子供のころに練習してるよ」

「ビートル人と一緒だな」


 この世界、ドワーフもミノタウロスもいるくせに妙なところで現代日本なところある。


「ところで私は何故また縛られてるんですか」

「さっきよりは緩いだろ。気にすんな」


 今度は自転車の荷台に座らされたニコがまた文句を垂れる。さっきは捕まったイノシシみたいな格好だったが、今度はしっかり人間らしく座っている。

 太ももと荷台が括りつけられてるだけで、上半身は自由がきくし。

 だからいいじゃんか。


「良くはないと思うけど」


 セーレが的確なツッコミをして、少しニコの縛りを緩めてあげていた。少しもがけばほどけそうだな。


「きつかったかしらん。さって、準備が出来たんだから行くぞ」

「はぁ‥‥‥」


 ニコが乗り気じゃねえな。


「一種の罪滅ぼしだ。全うしろ」


 このファクトリーのシステムの一端を作ったのはお前だし、そのシステムに乗っかって多くの人が生きてる。


「……あなたの言う通りです」

「じゃ、行くぞ。しっかり掴まってろ」


 ニコが俺の腰に手を回す。


「確かに何回か妄想したシチュエーションではあるんだが……漕ぎにくい」

「ぴゃっ!?」


 慌ててニコが俺の腰から手を離す。

手を後ろに回して荷台を掴めばいいんじゃないかな。

どんな顔してるかはあえてみないことにしよう。変な声出してたし。


「早くしてほしいなあ。もう近づいてきてるよクジラ」


 リイに急かされて俺はペダルを踏みしめる。

 坂道登下校で鍛えられた俺の脚力が伝わったタイヤが地面を切り裂くように回転する。

 ニコが修理改造してくれた自転車だ。

 ツールドフランスもびっくりのスピードでファクトリーを駆け抜ける。


「ニコ!」

「はい!」


 ニコが自転車をつたって、道路に能力を行使して地形を変化させる。

 目の前の地面が盛り上がっていく。

 この長い長い上り坂を、ニコを自転車の後ろに乗せて、爆速で上がっていく。


 その先にはクジラがいる。

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