20話 羽ばたいーたーら♪
「花咲いてねえなあ‥‥‥」
地面に寝そべって改めて見回してみたがコンクリで舗装されまくったファクトリーに植物の姿はなかった。
頭のそばで車輪が回っている。自転車の車輪だ。
さっき飛び降りた建物の屋上からニコとネッドラッドが心配そうにのぞき込んでいる。
特にニコなんかはほとんど泣きそうな顔だ。
感情が見れたのはうれしいが、あんまいい顔じゃねえな。
平気だってことを伝えるためにサムズアップした。
地上100メートルから飛び降りたことのある俺だ。地上10階建てくらいどうってことない。
寝そべって見上げる異世界の空は現代日本みたいに青かった。
―数十分前―
「おい、ユキノ。てめえはいっつも」
「説明不足なんだよ!」
階段を上り始めてからというものネッドとラッドの不満が爆発している。
無理もない。
いきなり自転車を運べと言われて階段を登らされてるんだから。
「説明したってわかんねえよ。とにかく、俺は鳥になるんだ。それだけを覚えておいてくれ」
「だからお前が鳥になるのに俺たちがこの重てえ鉄の塊を運ばなきゃいけねえ理由を言えって!」
ファクトリーでビルディングの次に大きい建物は建築棟だ。
そう、ニコが暮らしてる建物だ。
「よ、久しぶり」
「あ、ユキノさん。また来たんですか」
俺が屋上へのドアを開けて、ネッドラッドがようやく屋上まで階段を登りきった時、ニコはじょうろをもって家の周りをうろついてた。
いきなり現れた俺とその後ろの肩で息しているヤンキー2人を見て、ニコはものすごく警戒している。
「強硬策ですか」
「いや、ちがうちょっと待て。今日はお前に用はない。だからそのじょうろを殺傷力の高そうな形に変えるのはやめてくれ」
「おい、ユキノ。なんだこいつ?やる気か?」
「こんなところに家作って暮らしてるなんて変な女の子っすね」
人を外見だけで評価するんじゃない。
「頬に自と由のタトゥー入れてる馬鹿が人の見た目をあれこれ言うな」
「私に用がないんならどうして来たんですか。しかもそれ、ファクトリー移動用の自転車ですね」
「あ、もしかしてこれもニコが作ったのか?」
「いえ。あれは市販です」
この世界は自転車までは作れたらしい。自転車って俺たちの世界だと近代になってから作られたような気がするんだが、まあ、そこは異世界ってことか。
「あー、しまった。板を持って来るの忘れた」
「板?」
「もっと贅沢言うと台が欲しいんだよ。斜面をそう、あっちの縁にとりつけて‥‥‥」
何だかんだニコは俺たちに付き合って斜面を用意してくれた。
ネッドとラッドのじゃんけんに負けたほうに走って取りに行ってもらう案が出た瞬間、一瞬で虚空から木の斜面をニコは作り出した。
ネッドとラッドに微妙に位置を調整してもらって俺は自転車にまたがって反対側の縁まで下がる。
「もしかしてなんですけど、ユキノさんのスタンバイから見るに、え、本気ですか」
「危ないからもうちょい離れてろ。俺は高校前の上り坂をギア6で走りきる男だ」
「えっと、よくわかりません。こうこう、ぎあろく、もう、あなたの全てが」
ギアチェンジなんて大層なもんはついてない異世界の自転車は木のタイヤで地面の振動が直接体に伝わって、かなり股間が痛い。
「いくぞお!」
よく晴れた昼前のファクトリーの大空に俺は自転車でこぎ出して、そのまま重力に引っ張られた。
「そのニコちゃん、ドワーフだね」
「ドワーフって髭もじゃのちっせえおっさんだろ。金持ちの家の玄関においてあるやつ」
「ビートル人の世界ではドワーフを飼うのが普通なのかい?」
「いや、ドワーフは存在しないけどドワーフの置物はあるんだ」
「相変わらずさー、君たちの世界はよくわかんないよ。で話戻るけど、ドワーフにも女の子はいるよ」
あの後。
俺の【ヒーリングファクター】を知らないニコは建築棟の壁を滑り台に作り変え、俺の元へと滑り降りてきた。
滑り降りた勢いそのままにこっちに駆け寄ってきたので、身体を起こして改めて無事を伝える。
「どうして無傷なんですか」
「あん、俺は特別なんだ」
地面に胡坐をかいた俺は隣に横たわる自転車の亡骸に目を移す。
地上50メートルから放り投げたに等しいんだから、自転車はもはやバッキバキだ。
「飛距離は、だいたいあのあたりか、クジラにゃ全然届かねえな」
「そういうことですか。ようやくあなたのしたいことの意味が解りました」
「わかってくれてありがたいよ。今日からしばらくはにこの家の隣で練習するから」
「はた迷惑ですね‥‥‥」
相変わらず平坦な声色で、そういいながら自転車を持ち上げる。
あ、持ち上げたせいでハンドルが折れた。
「速度と強度ですね。まずはこれを調べます」
「調べるって、じゃあ俺が運んでくよ」
「いえ、こっから投げます」
「投げますって‥‥‥」
ニコは現代日本でいえば女子中学生くらいの体格しかない。そんな華奢な女の子が木製とはいえ大人用の自転車を抱えあげ、そしてそのまま、
「えぃっ、やっと」
投げっぱなしジャーマンみたいに自転車を投げ飛ばした。投げ飛ばされた自転車は建築棟の壁に沿いながら、重力に逆らって宙を登っていく。そのまま屋上まで投げられてしまった。
「小さい体でその力、でオレンジの髪の毛だったんだよね。だったらドワーフとみて間違いないよ」
「へえ、あんなスベスベの女がドワーフ」
「またずいぶんと誤解される言い方するね」
ファクトリーの一角、食堂。社員の意見によって急速にメニューの改善と改築が進むこの大部屋の端っこで、俺はカクラからドワーフについて聞いていた。
今日のカクラの昼飯はパラパラ五目チャーハン。俺は黒いパンと豆のスープ。
せっかく来たんだから中世らしいもんが食いたくなった今日だった。カクラに変な顔された。
「でも、ドワーフにしてもそんな高度な錬成術持ってる人いないと思う」
「あれびっくりしたな。でもドワーフみんなできるわけじゃないのか」
「うん。それと何より。ドワーフって結構頑固で偏屈な人多いけど、でも人嫌いじゃないんだよね。お酒好きで宴会好きだし。そのニコちゃんはどうしたんだろ、なんかあったっぽいかも」
「たしかに。あんなウサギ小屋に住んで人との交流を強く拒んでいるなんて何かしら理由がないと。ってこの工場引きこもり多いな」
「1人は強制的に脱出させたけど、ニコちゃんは優しくね」
いかがでしたか。
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ブックマークや評価、感想も欲しいけど、かくいう俺もおもろかったからって何もしないし。
なんならこの欄は流し読みするだけだし。
みなさん明日も早いだろうしいちいち感想書いてもらうのもな‥‥‥あなたが明日も読みに来てくれればそれで、ええんや‥‥‥。
いや、やっぱください。感想欲しいっす。
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是非お願いします…!




