19話 きれいな花が好きだから
「どうして!?ちょっとそれ貸して」
慌てたセーレがニコから紹介状をふんだくる。読むとしっかりこれまでの経緯と俺たちがニコに会いたい理由が書いてあった。
ファクトリーの危機だったりロンドとカクラが手を取りあっていくことの重要さが書いてあったりと、気分を高揚させるエッセンスも盛り込んである。
今更気づいたがあの人字書けるんだな。
「いったいどうして?特別ボーナスも支払われるって書いてあるし」
「え、ニコ。金もらえんの?」
下の方に特別手当も支払うとの一言が挿入されてあった。
知らんかった。
俺たちただ働きなのに?
「そりゃ私たちは社員じゃないから。って」
セーレに目で合図されたので、俺は改めてニコニ向き合う。
報酬までもらえるってのに何故断るのか。その答えをはっきり聞かないといけない。
「どうしてだ?ニコ」
決して悪い条件じゃないし、何より自分の仕事場が危機にさらされてるんだから自分能力を活用して当然だろって考えあるよな。
俺の考えじゃなくて、そういう考えあるよねって話。
それに沿って考えれば、ニコの考えは理解できない。
邪推すれば、こいつがクジラをおびき寄せたんじゃないかとさえ思える。
ただ。
「やる気になりません。やる気の出ないまま仕事してもいい結果が出るとは思えないです」
やっぱりそういうタイプの人か。サイドポニーの少女な見た目に騙されてはいけない、こいつの中身は伝統日本の寿司屋の頑固おやじだ。
「現代日本じゃ珍しいくらいの職人気質だな、おい。自分の納得できる仕事はしたくないってか」
「そういうことです。だいたい、壁の建設って‥‥‥」
「壁、ねえ」
過去何回かあったクジラの進撃に対しカクラが講じた対策が壁を作ることだった。カクラの首都にでっけえ壁を建設し、クジラの攻撃を防ごうというもの。
アレクサンドリナの紹介状に書かれてたプランはそれを踏襲したものだ。ファクトリーの周囲にも同じように壁を作り、クジラの攻撃を防ぐ。
ファクトリーの生産能力とニコの能力があわされば、カクラよりも幾分かマシなのが作れるだろうが。
「2人も見た通り、あのビームはビートル人の作ったチート兵器です。それを鉄の壁で防ごうなんて建てるだけ無駄。たとえファクトリーの生産能力を利用したとしても、壁を作るという発想自体がそもそも間違ってます」
「ねえあなたいくらなんでもリイに!」
「確かに無駄だ」
ニコの辛辣な意見に思わず反論しようとしたセーレを俺が遮った。
「せめて屋根まで作らないとな。そうじゃなきゃ駆逐されるのがオチだ」
俺は席を立って、背伸びをする。
「いや、あの、別に私も怒らせるつもりはなかったので、その、あしからず」
「え、なにユキノ。帰るの?意外と短気なのね」
「帰んないよ」
ただ単に座ってんのに疲れて背筋を伸ばしたくなっただけだ。
まぎらわしかったかな。
「ちょっと腰が疲れた。まだ若いのに」
「あれ、サイズが合わなかったですか。直します」
「あっ……」
別にいいっていう前に直されちまった。
「……ありがと。ところで話変わるんだが、どっちか2人、空飛べるか?」
「何言ってんの?」
久しぶりに聴きました、セーレさんの「何言ってんの?」。お前ら覚えてるか、確か第4話で一回俺が言われてるあれだ。
挿絵がないのが残念なくらいセーレは冷たい表情をしてる。こちらを射抜くようなマゾっ気のある人なら背筋がぞくぞくするであろう瞳でなんならちょっとキレてる。
「おっけ。質問を変えよう。浮遊魔法の類はあるのか?」
「ありますけど。そんなのロンドの宮廷魔法使いくらいじゃないですか」
「もしくは、カクラ軍のトップ」
「はじめまして、何となく偉い感漂う人たち。で、そいつらだとどれくらいのもん浮かせられんの」
セーレ曰く、浮遊魔法ってのは物を浮かせる魔法らしい。だから自分を浮かばせるってことはできない。
空を飛ぶには浮かべたものに乗らねばならず、この世界ではかなりの特権らしい。
「なるほどね。わかりました。今日はありがとうございました。ぜひ前向きに検討していただければと思います」
「え、ちょっと、ユキノ」
「ほんとに帰るんですか。何しに、来たんですか」
セーレもニコも戸惑っているが、俺は構わず席を立つ。せっかく直してもらったのに申し訳ないが、だってもはやできることないし。
「俺たちの出した条件がニコのモチベーションにならなかったんだからしょうがないじゃないか」
「そりゃそうだけど、何とか説明すれば手伝ってはくれるかも」
「くれるだろうけど、確実に中途半端な仕事になるぞ。こいつはそういうタイプだ。あの超絶魔法と釣り合わないこのウサギ小屋を見りゃわかるだろ」
「私のいないところでする話ですよね、それ」
平坦な声色と変わらない表情で本気で気分を害しているかはわからない。ニコはそういう少女だった。
とりあえず、変に頑固なとこがあって納得できない仕事はしない。
それがこいつの性格だ。だったらこっちにも考えがある。
こいつの心をワクワクさせるような素敵なアイデアを提案しないといけないわけだ。
めんどくせっ。
「じゃあな、ニコ。今度来るときはピンクの花持って来るわ。切っちゃダメなんだな」
「え」
え、ってなんだよ。
そんな虚をつかれたような顔して。
「好きなんだろ。だって、入口んとこにある花が一ミリも動かず咲いてるし」
「花?」
え、セーレも虚をつかれてるじゃん。
気づかなかったのかよ。
「さっき家をサザエさんにしたときにつぶれてないんだからよっぽど大切にしてんだろ。だからどっかで拾ってくるわ。それか、いい感じの肥料」
―――ビートルバム、宮殿―――
「おーい、ヒャクイチくーん。ご飯ここ置いとくから、食べ終わったらお皿は部屋の前に出しといてね」
かたんと今日のランチを馬鹿でかい扉の前に置くヤマナミ。硬いパンと豆と肉の煮込みみたいな食事が普通のこの世界で、キーマカレーと蒸し鶏のサラダはかなり豪華な部類に入る。
「いきなり外に引きずり出されてぼっこぼこにされて一生引きこもりたくもなるのもわかるけど、ファクトリーはあなたがいないと維持できないのよー」
その時、窓の外に大きな影が見えた。
振り返ってヤマナミが見たのは大きな黒いひれ。
そして、目。
窓を覆うくらいの巨大な目だが、ヤマナミはすでに見慣れていた。
ファクトリーにビームを撃ち込んだでけえクジラ、Feel Good Inc.の目だ。
その瞳の奥に茶色い髪の溌溂とした少年が見えた。
瞳に映ったのではなかった。
本当に目の奥に人がいた。
「ただいまー」
「おかえりなさい。ラクさん」
年齢は自分より年下だがラクはサーティーンズなのでヤマナミは敬語を使う。Feel Good Inc.の目はハッチみたいに開く。
「まだ出てきてないんだ、ヒャクイチ」
「かなりのトラウマになっちゃったみたいで」
「やっぱ30番台はダメだね。クラス転移は質が悪いよ」
グレーの髪に溌溂とした表情。イナズマイレブンにいそうな見た目だが内面は真逆だとヤマナミはラクと喋るたびに思う。
「ファクトリーはどうでしたか?」
「設備は無事だったよ。だからうかつに撃てなかった」
「撃ったんですか?民間人もいるのに」
あくまでもこちらの力を示してファクトリー住民を脅すのが今回の出撃の目的だったはずでは?と続けて言いたかったが、止めた。
「ビルだけね。別に準ビートル人ならいいかと思って」
「……どっちみち死刑ではありますけど」
こちら側についたロンドやカクラの役人は準ビートル人として、現代日本の生活漬けにしてあちらに戻れないようにしてある。
そうしたほうが使い捨てに出来るからだ。
とはいえラクほど命を軽く扱うことはできないなとヤマナミは思うのだった。
その時。窓の外に浮かんでいたFeel Good Inc.がうめき声を上げた。見るとクジラの体色がまだらに変化し、皮膚の下で骨が折れているのが見える。
「な、なんですか、これ!クジラさんが苦しんで」
「いっけね、忘れてた。そっか、もう消費期限か」
「消費期限?」
「僕の【ミルウォーキー】は使役した生物に大きな負担をかけるんだ。そりゃこんなに巨大化させてレーザービーム無理やり口にねじ込んでんだもん、当たり前」
「ってことは」
「また、釣りに行かないとなー」
Feel Good Inc.は窓の外で腹を見せてのたうち回っていた。まるで〆る前の魚みたいにどたばたと跳ねて、宮殿にものすごい爆風が叩きつけられる。
窓ガラスや屋根が吹き飛び、木々が根こそぎぶっこ抜かれる。
「ははっ、こっちがケガしちゃいそう」
「あの、ガラスが顔に当たってかゆいです」
ヤマナミの文句を受けて、ラクが能力を解除。Feel Good Inc.はあっという間に見えなくなった。
超大型台風が過ぎ去った後みたいな廊下を一匹の魚が弱弱しく跳ねているのを、ラクはつまみ上げて窓の外に投げ捨てた。
その動作に何の感情が読み取れないことにヤマナミは不気味さを感じる。
「食べても美味しくないんだよね、これ」
いかがでしたか。
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ブックマークや評価、感想も欲しいけど、かくいう俺もおもろかったからって何もしないし。
なんならこの欄は流し読みするだけだし。
みなさん明日も早いだろうしいちいち感想書いてもらうのもな‥‥‥あなたが明日も読みに来てくれればそれで、ええんや‥‥‥。
いや、やっぱください。感想欲しいっす。
あなたのポイントが励みになるんです。そういえば前作も嬉しかった。俺も書きます、だからあなたも書いて。
是非お願いします…!




