18話 エンジニア
ユキノを含むビートル人が現代日本にいた頃はまだプログラミングが必修ではありませんでした。
SEって職業があるよな。かっこいい名前にそぐわず、ブラック労働のイメージが強いあれだ。
「えんじにあ?なんだいそれ?」
「いい加減私たちがビートル語わかんないの分かってよ」
エンジニアって仕事がこの世界にないことがよくわかった。
アレクサンドリナ社長もぽかんとしている。
「えーっと、ほら、あれだよ。なんか設計図通りに作って、夜中まで机に向かって死にそうになってるやつら」
「そんな子たちなら今その辺で忙しそうにしてるじゃないか」
「いや、あれは、ファクトリーを修繕してくれてる修理スタッフだろ。まあ、彼らもいってしまえばエンジニアなのかな。だがどっちかっていうと職人っていったほうが正しいような気がするんだが」
「よくわかんないねえ。つまりどういう人を探してんだい?」
ここへきて異世界転移の苦労に直面している。【全言語理解】のチートをもってしても訳せない単語はどうしようもない。
どうしようかと玄関で頭を悩ませていたら、ちょうど大工のおっさんらが後ろを通り過ぎた。
聞きなれた音とともに。
そう、エンジン音。
「あ」
「あ?」
「そうだ、あの自動馬車を作ったやつを紹介してくれ」
「なるほどね~‥‥‥」
俺とセーレは工場の屋上にいた。この工場はたしか建築工場だったな。ビートルバムの主要な建物を造ってるというファクトリーの中でも結構重要な建物だ。
なのでさっきのクジラもここだけは無傷で残していたりする。
「何がなるほどねーなの?私にはただの掘っ立て小屋にしか見えないっていうか」
「確かにここに超配達ランチくんと自動馬車を作ったエンジニアがいるとは思えねえな」
「そのエンジニアっていう人たちはこんな、その、ボロ‥‥‥、あー、えーっと、年季の入った建物には住まないの?」
建築工場の屋上はとても広い。イオンモールの駐車場くらい広い。
その広い屋上の隅っこに、文化住宅の平屋くらいの大きさの小屋が立ててあった。
木造で、小さい窓があって、築何十年ですかって感じのたたずまいだ。
アレクサンドリナ社長曰く、重役たちが乗っていた自動馬車(車の劣化コピー版)だけでなく、超配達ランチくんもこの家の住人が作ったらしい。
しかも1人で。
つまり、天才。
「いや、むしろ、いかにもエンジニアが住みそうなところって感じだ」
「そうなの?」
「だってこんなとこに住むのって大天才か〇〇〇のどっちかだろ」
「〇〇〇!!」
王女様が口にするのはとても憚られる言葉をとっさに言ってしまったセーレをよそに 俺は扉をノックする。
あ、やっべ、扉がずれた。
「ちょっと、ユキノ、何してんのよ!変に引っかかって何も動かないじゃない!!」
「わざとじゃねえって、いいか、こういうのは一回上げて下げるんだ。斜めにして空間を作って、一回、上げて、下げる」
「あの、な、なにしてるんですか」
俺とセーレが入口の扉を抱えてダンスしているのを見かねて、家主が出てきてしまった。
「すいませんね、ニコさん。ちょっと用事があって尋ねさせてもらったんだが、うっかり用事を増やしてしまいましてね」
「人のドア壊しといて堂々としてるわね」
「はあ‥‥‥、ちょっと貸してください」
サイドポニーの少女が外れたドアを受け取って、ドアの枠に引っかける。
「まあ‥‥‥開くからって直さなかった私も悪いんですけど…」
そう少女が呟いた瞬間、掘っ立て小屋がサザエさんの家みたいにびよんびよん飛び跳ねた。
「え?」
「せっかくだから、家ごと直します。さっきの爆発でも結構揺れましたから」
のび太のママが怒鳴った時みたいに家全体が縦横に伸び縮みしている。
「どうしよっかな。って別に今のまま新しくすればいいだけか。あーでも窓はもう少しだけ右にあったほうがいいかな。あ、あと天井をもっと高くして開放感を‥‥‥」
ニコは俺たちなんていないかのように、家の形をあれこれ思案している。外れたドアはいつのまにか家と一体化し、ニコの手首から先は家のドアに吸い込まれて見えなくなっていた。
目の前で平屋の家がゴムみたいにびよんびよんしながら、徐々に形が変わっていくのを想像してほしい。
かなり衝撃的な映像だ。
「……セーレ。この世界の大工ってのはこうやって家を作るのか?」
「どんな魔法よ、これ‥‥‥なんて高度な術式‥‥‥どうしてこんな力がどの国のものにもなってなかったっていうの‥‥‥」
「はい、直りました。えっと、それで、用ってなんなんですか。私、あんまり働きたくないんですけど‥‥‥」
ニコ。
アレクサンドリナ社長が俺に教えてくれたファクトリーナンバーワンのエンジニアが彼女だった。
「お客さんなんて久しぶり過ぎて、コップが‥‥‥」
「ああいいっすよ、お構いなくお構いなく」
「もう作りました」
そう言って出てきたのは木のシックなコップだった。見ると近くの柱に丸い穴が2つ開いている。
俺とセーレはいわれるがままお茶をいただく。
柱に空いた穴が塞がっていくのを眺めながら飲むお茶は不思議な味がした。
「それで、今日は何の用事ですか」
向かいに座ったニコを改めてみる。
俺より少し年下で、あんまりオシャレに気を使ってないようではっきり言って地味な印象だった。
会話してても愛想がないし、ただ顔は可愛い。
「ああ、えっと、その前に、俺はユキノ」
「私はセーレ」
セーレの名を聞いてニコの目が少しだけ大きくなる。
「セーレってあのロンド=セーレ王女ですか?そんな方がどうしてこんな性別のよくわからない人と一緒に?」
「誰が性別のよくわからん人間だ、どっからどう見ても男だろ。なんで俺がこいつと一緒にいるかって、俺とロンド王国は同盟関係からだよ」
「えっと、よくわかりません」
「説明するのは難しいんだけど、そういうものだと思ってほしいわ」
「怪しさ満点なんですが」
思いっきりニコの怪しげな視線が俺に注がれている。
まずい、このままだとセーレが王女であることすら疑われかねない。
あ、てか。
「そうだ、これ。社長からの紹介状」
「紹介状?あるんですか。だとしたら少しは信用出来ますね。えっと、どれどれ‥‥‥」
紹介状に目を通すニコの顔は変わらない。テンションが上がっているのか下がっているのか、いっそぶちギレでもしてくれりゃわかりやすいんだが、ニコはニュートラルな表情でアレクサンドリナさんが書いた文章を読んでいる。
「なるほど。話は分かりました」
「お」
「お断りします」
断られてしまいました。
いかがでしたか。
すこしでも
・おもしろかった
・続きが気になる
と思っていただけましたら、思ったまま眠ってください。
ブックマークや評価、感想も欲しいけど、かくいう俺もおもろかったからって何もしないし。
なんならこの欄は流し読みするだけだし。
みなさん明日も早いだろうしいちいち感想書いてもらうのもな‥‥‥あなたが明日も読みに来てくれればそれで、ええんや‥‥‥。
いや、やっぱください。感想欲しいっす。
あなたのポイントが励みになるんです。そういえば前作も嬉しかった。俺も書きます、だからあなたも書いて。
是非お願いします…!




