169話 雑草を刈っていると思えば
「えーっと、私とフマさん以外は中庭にいる。相手もユキノとリイ以外は同じ。つまり、私責任重大」
俺の蹴りが当たったところを撫でながら、ヤマナミがぶつぶつ呟いている。京都みたいな和室の真ん中でスマホを触るその姿は、まさしく京都の観光スポットで次の目的地までのルートを検索している女子高生だった。
「ずいぶんとお気楽そうじゃないか」
そのヤマナミの前にリイが立ちはだかる。
その声を聴いてヤマナミがツンとリイに目を合わせる。
「お気楽、じゃないよ。私の本気はこれだから」
ヤマナミが自分の手にあるスマホをひらひらさせる。
中世ヨーロッパ風の異世界には似つかわしくないオーバーテクノロジーだ。
「今、中庭にいる君たちの仲間全員に【ロック】をかけようと思ったけど、それは消耗が激しすぎてできないや」
そうだ。こいつが命を懸ければ、この世界中の人間の動きを封じることだってできるんだ。
「弱そうだね」
「弱いよ。私、サポート役だもん」
「無理そうなら、俺が2人相手しようか?」
女子2人の会話にフマが割って入る。どちらの顔も見ず、視線は俺にあったまま。
「大丈夫。できる」
「なら、頑張れよ」
いつの間にそんなにバディになったんだろ。この2人。
「ふんっ!」
なんて疑問を感じつつも、フマの意識がヤマナミに向いた隙をついて金的めがけてつま先蹴りを打ち込んだ。
だが、向こうの反射神経がすごくて、足をすっと動かすだけで躱されてしまう。
むなしく空を切る俺の足とバランスを崩す俺の身体。
「急所狙いか。いい度胸だ」
空を切った足が着地した瞬間を狙って、フマが俺の膝にナイフを突き立てた。
膝の内側から外側にかけてバタフライナイフが貫通している。
「いって!!」
どうやって!?今あいつ、足で突き刺しやがったぞ。
器用な真似しやがって。
俺は思わず地面を転がる。ゴロゴロと畳を横に転がって距離をとる。
立ち上がったのは軒先の廊下だった。足の裏に板の感触が伝わっている。
「まったく」
バタフライナイフを引っこ抜くと、血も何も出ず穴が塞がる。
「あれが【ヒーリングファクター】。興味深い」
「ユキノ!!避けて!!」
距離を詰めるフマの向こうでリイが必死の形相で叫んでいる。
フマはただ義手を前に出してどすどす歩いてくる。
理由はわからないがあの左手はやばい。
「そう簡単に捕まるかよ」
俺は鴨居に指をひっかけてぶら下がると、前蹴りを放つ。
今度は魔力を乗せた。三日月形の魔力がフマの義手を弾いた。
「なんだその左手?なにがあるんだ?」
「……」
フマが無言で右腕を動かしたと思った瞬間、爆発音がして俺の腹を衝撃が貫いた。
そのまま後頭部を鴨居に打ち付けて殺虫剤を食らった蚊みたいに床に落下する。
「左手じゃねえな。なんだ?」
腹を触ると血が流れていた。背中に手を当てても生暖かい液体の感覚があった。
そして丸形の傷口が塞がる感覚がある。
「銃もってやがんの。卑怯くない?」
「お前の嫁は全部避けたぞ」
嫁って誰のことだよ。と思ってる近くのところでリイが足を滑らせた。
「大丈夫か?」
「だいじょうぶ。だいじょうぶ」
なぜか俺の顔を見ようともせず、ヤマナミが飛ばしてくる鉄瓶やら石を弾き飛ばしている。
「あんたこそ大丈夫?」
「余裕」
つってるそばから、こめかみを弾丸が貫通した。
まあ治るけど。
目に来そうな銃弾だけ弾きながら距離を詰める。心臓を狙ってきたやつはちょっと身体をずらして肺を貫通させる。
首を狙ってきたやつはそのまま何もしない。出血は一瞬で止まる。
バキュンバキュンと銃声が響き渡って、俺の背後の庭で草木の砕け散る音が鳴っている。
ていうか、たかが畳3枚またぐくらいの距離で撃ちすぎだろ。
フマは、人をここまでハチの巣にしているというのに顔に動揺がみじんも浮かんでいない。
生まれつきじゃない。いったいどこまでハードな経験をすればそうなれるんだ?
やつが持っているのはオートマの銃。
特にこだわりが感じられないただの黒くて硬い銃だ。
「普通と違うのは弾数無限ってことか」
俺は頬を吹き飛ばされた口でそう呟きながら銃口を蹴り飛ばす。
銃は何の抵抗もなく弾きとんで天井に当たって、部屋の隅に転がった。
「まさしく【ヒーリングファクター】だな。」
「別に言葉で聞いてくれれば、素直に答えたんだが」
左腕の射程範囲外まで俺は下がる。
「ほんとに確かめたかったわけじゃない。俺はお前に近づいてほしかったんだ」
瞬間、俺の腹にワイヤーが突き刺さった。
それは左腕の義手の手のひらのところから射出されていて……。
「血が止まらねえ。なんで!?」
反射的に叫んだ俺は、そのままワイヤーの巻取りで引っ張られ、フマの左手に胸倉をつかまれた。
金属の冷たい感触が胸に伝わる。そして筋肉とは比べ物にならないくらいの力強さも。
「ん+3い59-q!!」
「この左手に捕まれている間、お前はただの人間だ」
フマの瞳にぞっとするような光が宿っていて、その顔の脇でリイが叫んでいるが、言っている言葉が外国語みたいにわからなかった。
そんな大切そうな出来事が同時に起きて、一瞬だけ腹の痛みを感じなくなった次の瞬間、俺は畳に思い切り頭を叩きつけられた。
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