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168話 ブラックバス

「ケンリウ花園ってどこだ?」


 後ろで闘っている音が聞こえる。

 なんか爆発した。

 そりゃホンロン城にいる全員が一気に集合したんだ。大乱闘になっても仕方ない。

 が、俺は振り返らずに進む。


「これで振り返ったら、お前らが負けるみたいじゃないか」


 屋内を走っていた時は広く感じた城も、鳥みたいに空を飛んでみれば小さく感じる。

 2つほど屋根を飛び越すと、ようやく隠居にうってつけの小さな庵が目に入った。


「あれか」


 結界が張られているが、あれくらいなら吹き飛ばせるな。

 俺は空中で体を丸めて、後ろから魔力を放出。

 並の身体なら失神するほどの推進力を受けて一気に加速。

 あとは姿勢をライダーキックにすれば。


ギギギギギギギギギギギギギギギ!!!!!!


 高速回転する金属同士が衝突したような耳障りな金属音が大音量で城中に響く。

 魔力と魔力がぶつかり合ったときの音だ。

 カクラ花園を守っていた障壁が破壊されて、俺は勢いそのままに庵に突っ込む。

 2階の壁を貫いて室内に着地。

 畳の上に土足で乗り込む格好になってしまった。


「誰もいねえな」


 まるで京都の観光地のような、濃い緑の抹茶が似合いそうな茶室だ。俺がライダーキック入室をしたせいで、破壊されてしまっているが。

 と、蹴り砕いた壁の瓦礫の中に何か光るものを見つけた。

 どうやら壁の中に隠してあったらしい。赤色の小さな箱だ。

 その箱のふたには龍のレリーフがあしらってあり、さながら中の宝物を守っているような。

 かといってカギはかかっていなかったので、中を見てみると。


「なんだこりゃ?フロッピーディスクじゃねえか」


 入っていたのは真ん中に銀色の丸がついている黒い正方形の板だった。

 昔懐かしいフロッピーディスクだ。

 だが形はそうでも裏面に細かい魔法式らしき文言がビッチり書かれており、現代日本の代物ではないことはすぐにわかった。


「とりあえずもらっとくか。それより、リイ!!」


 気配が下の方からする。

 俺は階段を小走りで下りて1階に向かう。


 あ、やばい。


 一歩ずつ階段を下りるごとに1階の様子が徐々にわかっていくにつれて、状況のヤバさが分かった俺はとっさに蹴りで魔力を飛ばしてなんかごつい腕の男の動きを妨害した。

 見事そいつの腕に命中。

 その衝撃で、握っていたリイの首が解放される。


「こんなことなら最初から1階に蹴りいれりゃよかった」

「No.49だな。ちょうどいい」


 逆立った銀髪に左腕が義手。ブラックジャックみたいなマント。

 いかにも異世界転移みたいなやつだ。初めて見るビートル人だな。


「なにがちょうどいいんだ?」

「めんどくさいのが嫌いでね。頭を潰せば他は容易い」


 リイはまだ殺されていなかった。あと一瞬遅ければ首の骨を折られていただろう。

 あの義手野郎はそれができる自分をカッコいいと思ってるクチだ。


「言っとくが、お前以外は敗けたぞ。このホンロン城で闘えるのはビートル人はお前だけ」

「【ロック】」


 あ、なんか超久しぶりに聞いた声。

 が聞こえたのと同時に、俺の身体は痺れたように動かなくなり、受け身も取れずに畳の上にぶっ倒れた。

 ああ、あの時のあれだ。この世界に転移してきたときに初めて出会ったビートル人3人。そのうちの1人だ。

 確か、1人はタオユエンで殺されて、もう1人は昨日くらいに俺が倒した。

 ってことは、この女子で全員と再会したわけか。

 だからって俺はどうってことでもないが、向こうは違うみたいだ。


「別に親友ってわけじゃなかったけど、でも、ずっと一緒に仕事してきた仲なの」


 天井を見るしかできない俺の視界に左からそいつが入ってきた。

 寝っ転がってる俺の上から見下ろしている格好だ。フードが後頭部にかかってきている。

 ヤマナミだっけ。この短い間に、少しだけいい顔つきになったじゃねえの。


「あの後少し悪いなって思ったりもしたけど、もう迷わない。あなたは敵」


 そう呟いた後、ヤマナミは意を決した顔をして俺の額に全体重を乗せてストンピングを食らわせてきた。

 ベキイっという乾いた音がして、畳が裂けて下の板が割れた。

 のと、同時。

 俺はデコの上にある足首を掴んで、一方で反作用で浮き上がった脚に勢いをつけて、そこそこの位置にあるヤマナミの側頭部めがけて蹴りを食らわせた。

 つま先がかするくらいだったが、靴を履いていたので威力は充分。


「痛い!!」


 自分が攻撃したのとほぼ同時に自分の身体に痛みが走って、度肝を抜かれているヤマナミ。

 一方の俺はすぐ立ち上がった。


「多分、頭を潰したかったんだろうけど、無理だね。カカト使ったのはいいけど、額の骨って分厚いんだぞ。狙うなら首だろ。それも、足の側面を使って頸椎を折りに行けよ」


 ヤマナミは意識がはっきりしていないようで、俺の言葉なんか聞こえていない。

 何とか立ち上がろうとするものの、足ががくがくして立ち上がれない。


「さてと、遅くなって悪かったな」

「いや、ほんとだよ」


 首を押さえて喉の調子を確かめているリイは、目じりに涙を溜めていた。

 首を絞められて苦しかったのか、それとも俺が来て安心したのか。


「ほんっとにぎりぎりだった。あと一瞬遅かったら死んでたね」

「お、結構声が戻ってきた」

「身体は丈夫だから」

「っていうか、待っててくれんのな」


 俺はフマに顔を向ける。

 俺たちが喋っている脇をフマが通り抜けてヤマナミのそばまで行く。

 そして左手でヤマナミの背中に触れると、あっという間に足取りがしっかりした。


「時間の余裕も少しはあるからな」


 若干ムカつく言い方で振り返ったフマの手にはフロッピーディスクが握られていた。


「ユキノ!あれだよ。あれがあいつらの探していた逆転送装置の起動部品」

「ふうん」


 あれがねえ。見た目、完全にフロッピーディスクなんだよな。

 でも。


「お前、それが目当ての品物なんだろ。じゃあもう帰れよとっとと。カクラは俺がええようにやっておくからさ」

「……」


 俺の言葉を聞いて、フマは逆立った髪を撫でる。

 どう返事しようか迷っているという感じだ。


「結論だけ言おう。帰るつもりはない。俺はこの異世界が好きだ。自由とは支配のこと。この世界の人間は生かすも殺すも俺次第。最高の気分だ」

「だったらなんで、逆転送装置なんか」

「この世界と現代日本をつなげて、向こうの世界も支配するつもりだからだ」

「そりゃ壮大な夢だ」

「協力するなら、お前も現代日本に帰らせてやろう。正直言うとお前のチートは役に立つ」

「断るって言ったら?」

「お前を殺してチートだけもらう」


 交渉決裂。こいつは要するにブラックバスになりたいらしい。

 日本という池にいたときはメダカかなんかだったが、アメリカに転移したことでブラックバスに突然変異したのがフマ。

 ブラックバスになれたんだから日本に戻りたがっている。


「だいたいわかった。同じブラックバスとして止めさせてもらう」


 俺の発言にヤマナミもリイも首をかしげたが、フマだけは小さく舌打ちをした。

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