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167話 仲間を大事に

「ぜんりょくとうきゅう!!すとれーと!!!」


 見よう見まね。

 ぎこちない動きで魔力のボールを投げるセーレ。

アキナが投げる姿なら数千回は見てきた。本人から直接教えてもらったことも何回もあるけど、自分の身体は思うように動いてくれなかった。

今回もそうだ。アキナの能力だけが自分に回ってきたが、運動神経までは与えられなかった。

 今投げたボールも前へ飛ぶどころかなぜか真上に進もうとしている。


(こっからいったいどうするっていうの?ナツメ?)


 疑問に満ちた思いでセーレがボールの飛んだ方向に目をやると、そこにあったのはナツメの魔力障壁。

 パラボラアンテナみたいに丸くて、少し角度がついている。

 激突したボールがその角度によって方向づけられて、進む方向を変える。

 減速することはなかった。


「よっしゃ!ぴったり!」


 セーレの後ろの方でナツメがガッツポーズする。計算通りにボールが飛んでくれた。


「……まさか」


 セラセラの鎖から発射されたレーザーとセーレのボールが激突。

 あまりの光にその場にいる全員の視界から景色が白飛びした。


「まぶしいじゃねえか!生きてるか!……っておい!セラセラ!?」


 視力の回復したハヤブサが見たのは、両肘から先が消し飛んだセラセラだった。

 きれいな黒髪ストレートも半分が焼けてなくなってしまっている。


「てめえ!防ぎきれなかったのか!?」

「これが一番生存率が高かった」


 千切れたというよりは焼けて消えたというほうが正しい。セラセラの腕は出血すらしていない。

 だが想像を絶するダメージがセラセラを襲っている。ハヤブサに返事をした後は、声を出すことさえできずに、肩で息をしながらただナツメとセーレを見つめている。


「セラセラ!今降参すれば両手を治してやるぞ!」


 そう叫んだナツメの肩を、焦った顔でセーレが掴む。


「あんた、可哀想だからじゃないでしょうね?」

「い、いや……もちろん戦略が、ある……」

「は~~~~……ただし、アキナの首を元に戻すならね!」


 ナツメの言葉にかぶせてセーレが大声で交換条件を示す。

 セーレはようやくナツメの性格がわかってきた。こいつはお人よしなのだ。


「お前ら、俺のこと忘れてんだろ」


 ハヤブサがそう呟いた瞬間、セラセラがハヤブサのところまでワープした。


「しまった!」

「やばい!あいつのこと忘れてた!!


 ハヤブサがチートを使ってセラセラを自分のところまで引き寄せたのだ。

 両腕のないセラセラを抱えてハヤブサはチートを目の前に展開したままだ。


「……タロットがめくれない。占えなければ最善の選択がわからない」

「ユタアキラを呼ぶ一択だろ」


 ハヤブサの【X&Y】は、個人の識別はできない。

 【マジカルミステリーツアー】が戻ったユタアキラなら手品で両腕を復活させるくらいはできる。

 【Get Lucky】のシャッフルが元に戻るまであと1分を切っている。


「ただしどれがユタアキラなのかがわからねえ」


 このホンロン城には敵味方合わせて、12の点がある。自分たち4つとカクラ花園にいる3つの点を除いて、5つ。

 植物園にいる3つと庭の方で動きの少ない2つ。


「わっかんねえな……どれを選ぶ?」


 ハヤブサは迷った。こういう戦局を左右する決断は苦手なのだ。


「ナツメ!もう一球!」

「わかった!!」


 下の方ではセーレが投球フォームを取っていた。

 どうすべきか。早く決めないとこのベランダごと吹き飛ばされる。


「【Get Lucky】が切れる……」

「おいおい、マジか」

「えいっ!」


 セーレが投げた魔力球はしっかりナツメの魔力障壁に反射してハヤブサたちの方向目がけて飛んでいったものの、その速度はキャッチボール並み。

 へろへろと頼りなげに飛んでいって、ハヤブサに軽く足蹴にされた。


「なんでよ!?」


 叫んだセーレの背中から鎖が飛び出す。


「ええっ!?戻った!鎖が!」


 下の方で戸惑っているセーレたちを横目に見ながらハヤブサはセラセラに問いかける。


「ってことはお前にも【Get Lucky】が戻ってきたってことか」

「お察しの通り、もう一度チートを回せば私かあんたに【マジカルミステリーツアー】が回ってくる可能性もある」

「ここへきて選択肢が増えやがった……」


 【X&Y】に表示されている5つの点のうち、庭の方の2つは片方がゆっくり動き出した。植物園の方は2つの点が一緒にこちらに向かってきている。


「……占いは、未来を見通せるわけじゃない……ただ、人の心を後押しして、その人の欲する未来を近づけるだけ」


 セラセラがか細い声でそう呟いた。


「……わかったよ。なら、俺のやりたいようにやらせてもらう。早く俺を助けろ!」


 ハヤブサはホンロン城中に散らばった5つの点を同時に掴んで、一斉に原点まで移動させた。

 その瞬間、中庭の上空に一斉に5人が出現する。


「手が滑った!アキナ!」

「うおおおおお!?あ!身体めっけ!!」

「力が戻ったのに空中にいては意味がありません」


 ユキノにアキナの首にニコ。3人とも疲れてはいるが無事そうで、セーレはひとまず安心した。


「みんな!」

「すごい。あの2人を倒したんだ」


 一方のヒイロとユタアキラは気絶したまま自由落下している。


「ああん!?どっちも負けてんじゃねえか!」


 ハヤブサにとっては予想外だった。せめてユタアキラくらいは勝っていると思っていた。


「てめえの能力で事態が悪化してんじゃねえか!」

「……【Get Lucky】の結果は、私にもわからない」


 てっきり楽ができると思っていたのにあてが外れて、ハヤブサはセラセラを突き飛ばした。


「セーレ!ナツメ!ニコ!……任せたぞ!!」


 そう言いながらユキノは、空中でアキナの首をキャッチし、セーレに投げ渡した。

 急にアキナの顔面が飛んできたのでセーレは慌てて何とかキャッチ。


「おわったったった……任せたって!?」

「俺はフマをぶっ倒しに行く!」


 地面に激突する寸前、魔力障壁を展開して重力に逆らうユキノ。そのまま振り返ることなく屋根を飛び越えてカクラ花園の方に行ってしまった。


「させるかよ」


【X&Y】に表示される急速に中庭から離れていく点を引き戻そうとするハヤブサ。

 だがその指に鎖が絡みついて動かせなくなってしまった。


「鎖ってのはこう使うの。ニコ!」

「ん!?お、理解」


 急にセーレに呼ばれてびっくりしたニコだったが、すぐに求められていることを理解して鎖を思いっきり引っ張った。

 ドワーフの怪力には抵抗むなしく、ハヤブサは手すりを乗り越えて頭から中庭に落とされた。

 ハットも取れてスーツは泥だらけになってしまった。


「今降参すれば、全員回復させてあげるけど?」

「現地民が……!!」


 怒りと屈辱で歪み切った顔でハヤブサが見上げた先には、冷酷な顔のセーレがいた。

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