165話 向いていない
「えい!えい!あーもう!!」
「宮殿かどんどん崩壊していく……」
石を投げるたびに明後日の方向に飛ばして、力めば力むほど自分さえもどっかに飛んでいくセーレ。
さっきまで隣にいたナツメは今や遠ざかっている。
小さくなったナツメとその周りには穴ぼこになったカクラの家。
「なんで真っすぐ飛ばないのよ……!」
肩で息をしながら次の石を拾おうとしたら、地面のくぼみにつまづいてこけた。
「それにしても、すごい運動音痴……」
「言うな……!」
敵も見ている前で派手に転んだ恥ずかしさを隠したくて、唸り声みたいな声を出すセーレ。
「とにもかくにも…この力で何とかあいつらを倒すしかないんでしょ」
「そうせざるを得ないといったほうが正しい。あのバルコニーの奥の部屋に、アキナの胴体がある」
「なにそれ。それを早く言ってよ」
セーレの顔つきが真剣になる。
「うっかり墜落したのが大切な場所。アキナの頭はどこに行ったのか…色々考えなきゃいけないことがあって頭痛いけど、とにかくあいつらを叩きのめしてからってことね」
「すごい。不屈だ」
服に付いた泥を吹き飛ばす魔法の風で金糸雀色の髪がふわりと広がったセーレをみたナツメは、小さな声でつぶやいた。
「絶対にお前に私の剛速球をぶつけてみせる」
びしいっ!っとアキナの投球ポーズを真似るセーレ。
だが前に出す足と腕がちぐはぐだ。
「左利きなら、右脚が前ですよ……」
「知らなかったわ」
「おいおい。あの状況であきらめてねえぞ。しつこい女どもだ」
あきれた顔のハヤブサをよそに、セラセラが中庭へと飛び降りた。
高めのヒールを履いているにもかかわらず、しゅたっと2人の前に着地する。
「……人間には2種類いる。幸運を待つ人間と引き寄せる人間。占いをするうえで後者は厄介。運命が容易く変わる」
「ふ~ん?」
「無理して話についていかなくても」
観念的な話にセーレは反射的に上の空になる。
そんなことはお構いなしに続けるセラセラ。
「だからあんたは厄介。占いが安定しない」
「おらあ!!」
小さめの声で淡々と喋るセラセラに向かって、セーレが振りかぶって投げた。
だがボールは逆に投げづらい急カーブを描いて真後ろに飛んで、ナツメの足元に突き刺さった。
「うわああああ!」
「ごめん」
ナツメの方を振り返ることなく謝るセーレ。
眉には皺が寄っていた。
「魔法みたいに思い通りに身体が動いたらいいなんて、リイと追いかけっこするたびに思っていたのを思い出したわ……まったく嫌な敵!」
今度こそという顔で思いっきりぶん投げるセーレ。
祈りが通じたのか、石は真っすぐ飛んでいった。
だが。
「遅い」
だがセラセラに当たる前に弾き飛ばされてしまった。
素手ではない。
何本も広がった鎖が、羽のようにセラセラを包んでいた。
「能力は、持ち主の性格を反映する。格好いいままで、裾も袖も汚さず敵を倒したいからハヤブサは【X&Y】を手に入れた」
「なに?何その使い方?」
閉じていた鎖の羽がゆっくりと開いていく。
開ききったそれはまるでクジャクのようだった。銀色の半円状の扇が鈍く光っていた。
セラセラは相変わらず切れ長の目で、焦点を合わせることなくセーレを見ている。
「能力に人が縛られているのか、人に能力が縛られているのか。運命を動かすのは」
「言いたいことまで待ってられないんだけど」
若干イラっとした顔で剛速球を投げつけたセーレだったが、石ころは明後日の方向に飛んでいく。
もうわかりきっていたセーレは片手に持てるだけ持った石を連続で投げつける。
こめかみに汗が流れていた。白磁のようなおでこに金糸雀色の髪が張り付ている。
4発投げて、1発だけ真っすぐ飛んでいった。
だがそれも。
バシュッ!
「撃ち落とされた!?何に!?」
「振り回して叩くだけが鎖じゃない」
クジャクの羽みたいに開いた鎖の突端に魔力が収束していく。
「うそでしょ……数十発の魔力の発射台……」
「私はうそは言わない。鎖という形状は表面積が広くて、大気中の魔力を集めるのに効率がいい」
次の瞬間、ゼビウスみたいな魔力の弾丸が連続でとめどなく発射された。
それはセーレの目に逆光となって、セラセラの輪郭を飛ばしてしまうほどだった。
「逃げない……!」
襲い来る魔力の雨を前に、セーレは魔力障壁をとっさに開く。いつもは自信をもって展開するそれも、目の前の瀑布と比べるとひどく頼りなかった。
セーレが展開した魔力障壁は、セラセラの魔力弾を何百発かは耐えていたものの、徐々に端から削られていく。
今ではもうセーレの体を覆いきれなくなっていた。
「ダメ……あの剛速球で魔力を使いすぎた。障壁を展開してもきりがない!!」
ついにうずくまってしまうセーレ。
「……アキナのせいにはしたくないけど、にしたって不運すぎるでしょ……」
それでもゼビウスは止まない。腕や耳に魔力弾がかすり始めて、全身に火傷と切り傷を足したような痛みを感じ始めた瞬間
「魔力障壁!!全開!!」
セラセラとセーレの直線上に、魔力障壁を展開したナツメが割って入った。
セーレの耳に周りの音が入ってくるようになった。
「ナツメ…!」
「凛としていていつでもクールで、ツンツンしていて少し怖い」
ナツメの魔力障壁は割れない。
もうすでに何千発も受けているのに、欠けることさえなかった。
「ロンドの姫のパブリックイメージです。ですが、今わかった。あなたは人に頼るのが下手すぎる」
「え……?」
「というより、目の前のことに集中しすぎて周りが見えなくなると言ったほうが正しい」
ハッとしたセーレは周りを見渡す。
セーレを取り囲むようにしてナツメのオレンジの魔力障壁が展開されていた。
そして、その向こうにはハヤブサのタバコ。
「嘘…あなたずっと、私を守ってくれていたの?」
「一応言いました。怒りすぎて聞こえてはなさそうだったが。えい!!!」
ナツメが気合いを入れると魔力障壁がセラセラに向かって飛んでいく。
ゼビウスをもろともせず突き進む壁に、思わずセラセラも退いた。
「……2人の相性診断するの、忘れていた」
平然とした顔でつぶやくセラセラだったが、チャイナドレスの肩がザックリと斬れて、素肌が見えていた。
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