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164話 運動音痴


「……」


 セーレが中庭に降ってきたのを見て、セラセラもバルコニーに出てきた。

 手すりに落ちたタバコの葉を扇で掃除し、そこにタロットを広げて順番に捲っていく。


「ナツメの生存率がゼロじゃなくなった」

「どういう意味だ?俺があの女2人に負けるって?」


 イライラした手つきでスーツの袖に降りかかったタバコの葉を払いながらハヤブサが尋ねる。


「それもゼロじゃない。私が言いたいのは、あの子が来たことで、私たちの闘いが未確定になった」

「だがお前は今日ツイてるんだろ」

「……試してみる」


 一方、中庭になぜか空から降ってきたセーレとそれを受け止めたナツメはというと。


「獅子舞のときといい、これ何?独特な煙で臭いんだけど」

「これはタバコというもので、ビートル人の世界での嗜好品。あのハヤブサが愛用している」

「へえ、あいつがハヤブサ……趣味悪っ」


 セーレがそう言うと同時に、タイミングを合わせたかのように2人ともが全身から魔力を発して、身体に付いたタバコの葉を吹き飛ばした。

 魔力操作の上手な人がよくする汚れの落とし方だ。


「ところで、あんたなんともないの?」

「ほへ?いたって健康だが?」


 質問の意図がわからず素っ頓狂な声で返事をするナツメ。対するセーレは、腕組みをして難しい顔をしている。


「いや、なんだか知らないけど、私の能力が使えなくなってるの」

「……もしや、セラセラのシャッフル!」


 ナツメが指さす先でセラセラがタロットを片付けて、手に集めたそれを思いっきりハヤブサの【X&Y】にぶん投げた。

 瞬間、セーレたちの頭上に巨大化したタロットが降り注ぐ。

 ぶん投げたから落下スピードがかなり速く、セーレたちは対応する間もなく、タロットの雨あられの中に消えていった。


「おいおい。死んだろ、あいつら」

「生存率はゼロじゃなかった」

「そういう問題かよ」


 もくもくと土煙が晴れて、巨大タロットが地面に突き刺さっている風景が見えてくる。

 セーレたちはそこにいなかった。


「ほら。生きてる」


 セラセラが白魚のような指で指し示す先、向かいの建物のバルコニーに2人はいた。

 ナツメの方は、まるでいきなり連れてこられたみたいな顔をして手すりを抱きしめている。


「マジかよ。どっちの能力だ」

「ロンドの方。あの子、なかなか面白いことになってる」


 セラセラがくすっと笑った。


「どこここ?」

「えっと、あいつらの向かいの建物の2階の窓」

「なるほど……」

「それより、私が魔力障壁を展開しなかったら手すりにぶつかっていたのでは?とっさに抱えてくれてありがとうと思っていたのに」

「ほんとそれ……」


 上の空みたいな返事をするセーレ。軽く頭を下げて申し訳なさを伝えるが、別のことが気になるようだ。

 それがわかったのでナツメは怒りもしなかった。むしろ解決してみたい気になった。


「状況を整理しよう。おそらくセラセラの仕業だ。だとしたら私たちは今能力がシャッフルされているはずだ」

「え?じゃあ私が今持ってるのは?」

「それがわからない……瞬間移動めいた能力なんて……もしくは超スピード?」


 ナツメの脳裏に一人のビートル人が思い浮かんだ。そいつは神出鬼没だった。人知を超えた超スピードで移動できるチートの持ち主だった。

 No.2のカジマ。あいつならここにふらっときていてもおかしくない……そう思うナツメだった。


「セーレさん。少し走ってみてください」

「なんで?」

「そういう能力かもしれないから」


 ちょこっとだけ嫌そうな顔をしたセーレだったが、魔力で足場を作り2階から庭に下りる。


「いっとくけど」

「はい?」

「あいつら、なにしてんだ?」


 唐突に中庭に下りてきたセーレをハヤブサたちも注視している。いったい何をしてくるのか想像つかない。


「笑わないでね」


 後ろ姿でそうナツメに告げたセーレが勢いよく走りだす。

 全身の力とバネを明後日の方向に無駄遣いする動きだった。腕を一生懸命降ってはいるのだがその割にはスピードが出ておらず、かえってその遅さを強調してしまっている。

 おまけにその豊かな胸が非常に邪魔だ。顎がどうしても上がってしまう。しかも中庭の地面はさっきのタロットでぐちゃぐちゃになっている。

 セーレが地面に足を取られてその場に転ぶと、中庭にいたたまれない空気が充満した。


「………超スピードの能力ではないことがわかりました……」

「そう……よかった」


 スカートの汚れをぱんぱんと払いながらセーレがつぶやく。落ち着いた態度をしているが耳まで真っ赤になっている。

 一つの結論に思い至ったナツメがセーレのもとへ駆け寄る。


「セーレさんってその……運動おん」

「そうよ」


 ナツメが最後まで言い切る前にセーレが首肯した。

 セーレは運動が壊滅的に苦手なのだ。


「ハヤブサに転移させられてすぐ、高いところに登りたくて鎖を出そうとしたときだったわ。気づいた時には全然違う方向に身体が飛んでったの。敵襲だと思ってもう一回能力を使おうとしたら、また身体がわけわかんない動きして。何回かやっているうちにここに落ちてきたっていう……」

「危ない!」


 ナツメがセーレを抱えてジャンプする。

 さっきまでいた場所に鎖が突き刺さっていた。

 

「あいつ!私の鎖!」


 セラセラが鎖の能力を使ったのを見て、セーレの顔つきが変わる。


「返しなさいよ!それ私のなんだから!!」


 自分の能力を奪った犯人がいるのは2階のバルコニー。ここからだと遠隔攻撃しか届かない。

 いつもなら鎖を飛ばして一発なんだが。

 一瞬迷った末にセーレはとっさにその辺に落ちていた石を思いっきり投げた。


 ぼがああああん!!!


「ん?」


 その場にいる全員の動きが止まった。

 石が当たって起きたであろう破壊の音が明後日の方向から聞こえてきたからだ。

 セーレから見てちょうど右にある建物の屋根が吹き飛んでいた。


「なんだあの投球フォーム。あれでよくあの威力が出せたな」

「セーレさん、今のは!?」


 全員の注目がセーレに集まっていたが、当の本人はというと。


「え?え?私?私、ちゃんと前見て投げたはずなんだけど」

「絶対にあなたです!あの球速と威力はまさしく、剛速球でした」


 謎が解けて興奮した様子のナツメがセーレに石を握らせる。

 セーレもうすうすわかり始めてきた。


「今度こそ……狙いを定めて、ストレート!」


 アキナのように石を投げる。だが今度は石は真後ろに飛んでいき、豪華な部屋と天井を貫いて空に消えていった。


「間違いありません。アキナさんの能力です」

「それって、私が運動音痴だから使いこなせてないってこと!?」


 セーレが思わずそう叫ぶ。

 セラセラはタロット占いをして、2人の生存率が少し下がったのをみて安堵した。

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