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161話 弱さを武器に

「おつかれ~。ほら【水マジック】」

「このどこでもシャワー最高!ちょうどいい冷たさだし!」


 マンドラゴラが叫んだ方に向かうと、気絶したヒイロと土まみれのアキナがいた。ニコの能力で地面を掘り進めながら移動していたからだ。手品で出した水でそれを洗ってあげた。


「ありがとな。今回勝てたのはアキナのおかげだ」


 地面に落下したアキナがとっさにニコの能力を発動したおかげで、植物園に何が生えているのかがわかった。少し離れたところでマンドラゴラの畑がほったらかしになっている。

 だからこいつらをヒイロの耳のそばで一気に抜いてやろう。

 それが俺たちの作戦だった。


「にしても、コツ掴むの早いな。ヒイロは俺が蹴ったアキナを本物だと思っていたぞ」

「うん、やってみて初めてわかった~!」


 蹴り飛ばしたのはダミーだった。アキナが作った土人形。近くで見れば偽物だとわかるんだが、パックンフラワー越しだと気づかなかったみたいだ。本物はそれと入れ替わりで地中に潜った。

 あとはアキナがマンドラゴラを移動させる時間を稼ぐため俺が囮になる。

 蹴り飛ばしたサボテンの針に毒が混じってたときは焦ったが、間に合ってよかった。

 【消失マジック】は俺の体内に流れる毒さえ消してくれる。


「しっかし、【ヒーリングファクター】の癖がいつの間にかついてた。どうせ回復するからいいだろうって」

「わかる!私も剛速球に頼り切ってたんだって思った!これからはもっと目を使ってこ」


 まるで自分発見セミナーみたいな闘いだった。

 ヒイロは相変わらず白目を剥いて卒倒している。気をつけの姿勢のままピクリとも動かない。


「とりあえずこいつは放っておいていいだろ。それよりもお前の身体を探しに行かないと」

「それなんだけど……私の身体、さっきから移動してる……!」

「移動?」

「うん、走っているっていうよりは誰かに抱えられている感じがする!でも荒くないから、きっと私たちの誰か!」

「ならいっか。追いかけるぞ」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ホンロン城、寝殿。

 カクラ王が暮らす巨大な屋敷の前には広いスペースがある。数千人に上る家臣たちが毎朝謁見するためだ。

 そのサッカーコートよりも大きい広場のど真ん中で、ユタアキラが吹き飛ばされてきた。

 受け身も取らず首から地面に激突して、ゴロゴロと転がる。


「痛って!ああもう!んだよ!意味わかんねえ!!!」


 危ない角度で地面に激突したのに、すぐさま起き上がって悪態をつけるのはさすが異世界転移者といったところ。


「俺まで【Get Lucky】に巻き込みやがって!!おかげで俺はスカを引いちまった!無能力者だクソ!!おまけに……」


 だが、ダメージはあったようで、脇腹を押さえながらぜえぜえと息を切らしている。


「困りましたね……」


 広場へつづく階段を下りながら、ニコはそう呟いた。


「無抵抗の人間を攻撃することはできません。困りました……」


 この大きな宮の真ん中を歩くニコは余計に小さく見える。小学校高学年くらいの背丈の少女に異世界転移者がビビッて後ずさりしていた。


「せめて立ち上がってほしいのですが……」

「うるせえクソガキ!てめえごときチートさえあれば楽勝でぶっ殺せるんだよ!」


 悪態をつきながら手が掴んだものをやたらめったらニコに投げつけるユタアキラ。

 だがニコは意に介せず距離を詰めてついに射程圏内に入った。


「近づくんじゃ……ねえ!」


 どこからか取り出したポケットナイフを思いっきりニコに突き立てたユタアキラ。

 ナイフはとっさに反応したニコの腕に突き刺さる。

 だがニコは眉をピクリとも動かさず引き抜いた。

 ずぼっとナイフが地面に落ちて、ぱっくり開いた傷口はあっという間に塞がった。


「痛みはありますけど、治ることが分かっていれば問題ありませんね。うっかり命を粗末にしてしまいそうなチートですが」

「んだよ……不平等すぎるだろ……!あいつの【ヒーリングファクター】じゃねえか!!」

「反撃させてもらいます」


 悔しさか妬ましさか。顔をゆがませるユタアキラのみぞおちにニコの手刀が突き刺さる。突き指も構わず繰り出されたニコの全力の手刀だ。なまくらが刺さるよりはるかに鋭利だ。


「げはぁっ……!!」


 悲鳴らしい悲鳴も上げられずユタアキラは崩れ落ちた。内臓がめちゃくちゃにされたような激痛にうずくまったまま一歩も動くことができない。

 全身から脂汗が噴き出す。異世界に来てからはもちろん、現代日本にいた頃でも感じたことのない痛みだった。


(手品の練習でやった万引きがバレて担任にシバキ倒されたのとは比べ物にならねえ……!)


 なんてユタアキラがのんきなことを考えている間もニコは一切攻撃してこない。

 ただ突き指と割れた爪がみるみるうちに治癒していくのを観察していた。


「ユキノさん、このチートを授かってよく調子に乗らずにいれますね。いい教育を受けたのでしょうか?」

「がはっ……うげえぇ……っはぁ、はぁ……」


 常人なら腹に風穴が空いてもおかしくないくらいの衝撃を耐えきって、ユタアキラは立ち上がろうとして、だが片膝をついた。

 キレイにセットした髪型は崩れて、前髪が脂汗で額にくっついている。ニコからは見えないが、目にははっきり怯えが浮かんでいる。


「まだ闘いますか?」


 肩で息をするユタアキラの前に立ちふさがるニコ。

 しばらくの沈黙のあと、ユタアキラはゆっくりと顔を上げた。


「まだお前、ベジタリアンなのか?」

「そうですがなにか」

「……お前も結局、俺たちと何も変わらない」


 その顔からは敗北の色が消えていた。

 ユタアキラの言葉が理解できず、ニコは固まってしまう。


「お前は今チートに酔いしれている。絶対に死なない能力があれば暴力が振るい放題。気に入らないやつを黙らせるのは愉快だろう。お前の今感じている楽しさを俺たちも感じていたんだ。」

「……質問に答えてください」


 淡々と言い返したように見えるが、ニコは動揺していた。

 ユタアキラの指摘が全くの的外れだと私は自信を持って言えるだろうか。

 イライラしていたユタアキラと出くわしてとっさに反撃したら、ユキノの【ヒーリングファクター】を手にしていたことがわかった。

 正当防衛のつもりで殴ってきたが、それを楽しむ気持ちが全くのゼロだったと断言できるか?

 他の仲間なら耳を貸さないユタアキラの戯言。だがニコにその器用さはない。ユタアキラはそこを正確に突いた。


「答えてやろう。やる気まんまんだぜ」


 とっさにニコもファイティングポーズを取る。

 だが。


「おい!弱い者いじめは止めろ!!」


 いかにもビビっているみたいな表情を作ってユタアキラはゆっくりと距離を詰める。

 ニコは何も言えなかった。おかしいと思ってもそれを言葉にするのは苦手だ。そういうトーク術はユタアキラの方に分がある。


「俺は無能力者。いわば一般人。対するお前は絶対に死なないチートをもったハードパンチャー。どっちが強いかは明白。このままじゃ俺が一方的にリンチされるだけだ」

「……敗北を認めてください」

「お前は俺から、闘う権利さえ奪うというのか!!」


 目をしっかり見つめられて必死の形相で叫ばれて、ニコの頭はショートした。論理的にまったく意味が分からない。無視して闘おうにも良心に攻撃をかけられているために手が出せない。

 瞬間、ニコは喉に灼けるような痛みを感じた。


「……けほっ」


 ナイフと呟いたつもりが、隙間風みたいな咳しか出なかった。

 ユタアキラがどこからか取り出したナイフがニコの喉に突き刺さっていた。

とっさに引き抜く。

痛みは一瞬だけ、もうすでに傷は塞がって呼吸もできる。

 こぶしを握って見上げたユタアキラは、両手を広げて立ちはだかっていた。


「思いっきり殴ってこい。いいぞ、俺は弱者だ!簡単に死んでやるぜ!!」

「……あなたは弱者じゃありません」

「これを食らってもそういえるか?」


 ユタアキラが思い切りニコの腹に手刀を打ち込んだ。当然だが、腹筋を固めて防御したニコには効かない。

 平気な顔をしているにことは対照的に、


「いってえええええええ!!!」


 ユタアキラが爪のはがれた指を押さえて転げまわっている。


「いってええ!!お前が、お前が強いからだぞニコ!!お前が【ヒーリングファクター】なんた身に付けるからだ!はははははははは!」


 地面をのたうち回りながらニコを嘲笑うユタアキラ。

 ニコの服にユタアキラの爪がひっかかっていた。

 ニコの心にわけのわからない罪悪感が湧き上がってきた。

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