16話 Feel Good Inc.
第2章スタートです。
もう一人ヒロインが登場します。
―ファクトリー 食堂―
「おー‥‥‥、これが、グラタン‥‥‥」
「その機械は何?火もないのに熱々になったけど」
500Wで1分半。
ヒャクイチの部屋にあった独り暮らし用電子レンジから取り出したグラタンが湯気を上げているのを、セーレとリイが興味深げに眺める。
ヒャクイチをファクトリーから追放して、工場の隣居たおばさんが新社長に就任してから数日後。
俺はセーレとリイたちに現代日本の飯を振る舞うことにした。
つってもファクトリーの既製品を持ってきただけだが。
ファクトリーでは衣服、家具、食品、娯楽、インフラ、ビートル人のためのあらゆる贅沢を生産している。
それらがいったい何なのかは工員たちに知らされることなく、彼らはただ単に鞭で叩かれながらひたすら作らされていた。
セーレもまたグラタンの味を知らないまま具材のエビを凍らせる労働に従事していた。
チョコレートを知らないままカカオ豆を作らされているアフリカの人たちみたいで可哀想だった。
なので、グラタンを食べてもらうことにした。
リイとセーレだけにしようかと思ったらネッドとラッドもいつの間にかついてきた。
「電子レンジっていうんだけど、なんであいつ持ってたんだ?」
目の前にあるのは現代日本じゃありふれた冷凍グラタン。
そしてヒャクイチの引きこもり部屋から運んできた電子レンジ。
まるで深夜小腹が空いた現代日本人の行動を俺は異世界で演じている。
「ところでこのグラタンなんだが、ひと手間必要だな」
そう言って俺は指先に火魔法を展開。
ガスバーナーの要領でグラタンの表面に焦げ目をつけていく。
「「え、ちょっと、ユキノ。燃やすつもり?」」
ハモるセーレとリイを尻目に俺は皿に載ったグラタンの表面を焦がしてく。
現代日本そのままとはいかないのがビートル人のチートの悲しいところだな。ビートルバム製の冷凍グラタンには焦げ目がついてない。
「はん!!なんだか知らねえがビートル人の食いもんなんてろくなもんじゃねえよ」
「そうっすねアニキ。食えりゃましってもんでしょ」
ビートル人の文化に毒づきながらも、チンという音が聞こえるや否やレンジからグラタンを取り出すネッドとラッド。
おいおい。お前らいつからそんな丁寧にフリ振っといてくれるようになったんだ。うれしいなあ。
テンプレ通りのリアクション期待しているぞ。
食ってみな、うまいぞお。
「う、うめえ!!」
「ビートル人の野郎ども、こんなもん食ってやがったのか!」
俺の期待を裏切ることなく、ネッドとラッドは驚嘆。美味さのあまり後ろにぶっ倒れるというオーバーリアクションまで披露してくれた。
二口目からは夢中になってグラタンをかきこむ。
いいけどそんな勢いで食うと、
「「あっつ!!!!!!」」
「トレーの縁が熱くなってるから気を付けろよって、ギリ間に合ったな」
「「間に合ってねえよ!!」」
ネッドとラッドの唇は火傷したとして。
やっぱセーレとリイってお嬢様だな。
雇われ兵士みたいなガツガツした食い方なんかせずに上品に口に運んでいる。
「私、こんなの作ってたんだ。エビがいい味出してる」
「さっきユキノが言った、『食ってみな、うまいぞお』ってなんかの物まね?」
これが現代日本が誇るフランス料理、グラタンだ。
みんながグラタンを平らげたころ、正午を告げるサイレンが鳴った。
「昼休憩だ。工員のみなさんが来るぞ」
ネッドとラッドは皿に残ったグラタンを名残惜しそうに掬っていたが、工員さんのために席を空けなければならない。
俺たちは食堂を後にしてリイのオフィスに向かった。
あの後。
怒れる工員たちの群れの中に投げ込まれたヒャクイチはぼっこぼこにされ、無事全工員のリボルビングは帳消しとなった。
だが、かつてのアルジェはもうない。
農地はファクトリーの寮になってるし、商店街は工場になってるしで、借金が帳消しとなったからってアルジェ市民に行く当てはなかった。
だから、ファクトリーは閉鎖していない。
ビートル人側に寝返ったやつらは追放し、ロンド人とカクラ人が協力してファクトリーを運営していくことになった。
「新しい旗プリントされたんだな」
道中、ファクトリーの工旗が目に入った。
澄み切った空に龍と薔薇の旗がたなびいている。
龍はカクラ帝国の国章。そして薔薇はロンド王国の国章。
その2つが1枚の旗に並んでプリントされている。
まさに両国が手を取りあって頑張っていく未来を象徴しているかのようだ。
そんな希望溢れる旗を眺めるという感慨深い道草を5人で取っていたとき。
再びサイレンがファクトリーに鳴り響いた。
「あん?なんだ?午後の休憩か?」
「そんなはずは‥‥‥」
「ネッドさん!ネッドさん!大変です!!」
非常事態を告げるサイレンの中、現工場長であるネッドのもとに部下が走ってきた。
「Feel Good Inc.です!やつら、Feel Good Inc.を出してきやがりました!」
「Feel Good Inc.ですって!?」
「ビートル人め、ファクトリーを潰す気か‥‥‥!」
名前長っ。なにそのFeel Good Inc.って。
だが、セーレたちのこの焦りはただ事じゃない。
ラッドなんて恐怖に震えてる。
瞬く間に食堂から食事途中の工員たちが雪崩のように出て来て、悲鳴を上げながら俺たちの周りを工走って通り過ぎていく。
「みんな他人のことなんて考えちゃいねえ。セーレ、そのFeel Good Inc.っていったい‥‥‥」
俺が疑問を口にするより早く、巨大な影がファクトリーに落ちた。
みんなが見上げる。俺も見上げた。
そこにあったのは、真っ白い腹。
生き物の腹だ。
大自然特集のテレビで何回もみたことある、現代日本最大生物の腹だった。
「クジラ‥‥‥」
「くじら?」
「これがFeel Good Inc.だ…」
Feel Good Inc.。その正体はクジラだった。
クジラだった?まったく説明になってねえな。
「クジラがこの世界に存在しないのはセーレのリアクションで分かったんだが、これって魚でいいのか?現代日本的には違うんだが」
「魚が空飛ぶわけないじゃない。機械よ機械、ビートル人の巨大兵器!」
おそらく原寸大であろう数十メートルに及ぶその巨体は俺たちの真上で滞空している。
Feel Good Inc.
それは巨大クジラ型の飛行船。
どういうわけだか俺たちに白いクジラの腹を見せつけながら、俺たちを見下ろしていた。
多分あの目のとこがコックピットだな。
「セーレさん。それはちょっとちがいやす‥‥‥」
「あれは機械じゃねえ。俺たちは闘ったから分かる」
ネッドとラッドがセーレのいうことを否定した。あれは機械じゃないらしい。
じゃあなんだと聞こうとした時、クジラがひれを大きく動かした。
でかいうちわを扇ぐみたいにぶおんっと、それはそれはまさにディスカバリーチャンネルで見たような雄大さで。
爆風がファクトリーを突き抜けた。
「なんだよこの風!」
「立ってられねえ!」
工場の壁がバタバタと揺れる。ゴミ箱やベンチが風に飛ばされて宙を舞った。
それどころか屋根がめくれ上がり、窓ガラスが割れる。
小さな倉庫なんて簡単に吹き飛んだし、超配達ランチくんが宙を舞っている。
「セーレさん!リイ様!ここは一旦退きましょう!」
「ユキノ!走れ!!」
一瞬でファクトリーに深刻なダメージを与えた爆風がやむや否や、ネッドとラッドがそう叫んだ。
俺にだけ指示荒いな、元カクラ軍2人。
だが文句を言っている場合ではない。
俺たちは走り出す。
「ユキノ!逆だ!」
「クジラの腹の下に走れ!!」
「腹の下!?クジラから離れるんじゃないのか!?」
俺一人だけみんなとは逆方向に走っていたみたいだ。
はっず。
だって逃げろって言われたんだから距離取ると思うじゃん。なんであえてクジラに近づいてく?
そしたらつべこべ言うなってネッドに怒鳴られたので、大人しく従う。
やっぱりこういう即座の判断は、現代日本でのほほんと暮らしてた俺には難しい。
だが余計に走ったおかげでクジラの全体が見えた。
そのうえで思う。ビートル人の技術にしては出来栄えが良すぎるな。
あの機械クジラはまるで本物の生き物のように滑らかな動きを‥‥‥。
「やばいやばいやばい!開けやがった!!」
「Demon Dayzが来る!!」
ネッドラッドが騒ぐから何のことかと思って振り向いたら、クジラロボットがゆっくりと口を開け始めていた。
その口の中でぴかぴか光りながらエネルギーが充填されているのが見えた。
なるほど。
「Demon Dayzってビームのことか‥‥‥」
「ああ、そうさ!お前みたいにクジラから遠ざかってたらあのビームの餌食だった!!」
「野郎、本気だ!」
「ねえ、ネッド!向こうに逃げたみんなは助かるの!?」
「……そいつの運しだいです」
その瞬間、極太のレーザーがクジラの口から放射された。
それはオフィスのあるビルディングを貫いて、はるか先にある男子寮まで到達した。
レーザーが通ったところはドロドロに溶けて跡形もなくなった。
そして遅れてやって来る爆発。
俺は地面をめくり上げながら襲い掛かる衝撃波と熱風になすすべもなく巻き込まれた。
そう、俺だけ。
ブックマークしてくれた人、すこすこのすこ。
いかがでしたか。
すこしでも
・おもしろかった
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と思っていただけましたら、思ったまま眠ってください。
ブックマークや評価、感想も欲しいけど、かくいう俺もおもろかったからって何もしないし。
なんならこの欄は流し読みするだけだし。
みなさん明日も早いだろうしいちいち感想書いてもらうのもな‥‥‥あなたが明日も読みに来てくれれば、それで、ええんや‥‥‥。
‥‥‥いや、やっぱください。感想欲しいっす。
あなたのポイントが励みになるんです。そういえば前作も嬉しかった。俺も書きます、だからあなたも書いて。
是非お願いします…!




