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159話 取り柄を探して

「ああいいよ。ビートル人らしくていいんじゃない」


 ヒイロは自分の体重が重たいとでもいいたげなダルそうな立ち方でぼんやりと地面を見ながら喋る。

 ズレたメガネをくいっと直して俺とアキナを交互に見る。

 

 俺たちは今、植物園の花畑ゾーンにいる。

 ガラスの雨を避けて着地したのがこの場所だった。

 色とりどりの花々が整然と咲いていて、蔦でできたトンネルまである。女の子の生首を抱えた俺とダボダボシャツのギークにはおよそ似つかわしくないきれいな場所だ。


「わがままぐらい通さないとね。せっかく異世界に来たんだし」


 ヒイロは自分の周囲にある花を蹴散らしながら、独りごとなのか俺に喋っているのかわかりづらい話し方をする。


「ずいぶんと卑屈だな。お前」

「よく言われるね。まあ、転移する前からだから」

「ところで、コイン持って来てねえのか?」


 こいつが花を殺していっているのは、拗ねているからじゃない。無機物を増やしているんだ。

 おそらく花びらを手裏剣みたいに飛ばして攻撃してくると考えていい。

 だが別にそんなことをわざわざしなくても、さっきのコインやトランプや獅子舞を雨あられのように降り注がせればいいだけだ。


「めんどくさいじゃん。このチートさあ、生命付与したものを全部コントロール必要あるから。まるで生徒が1000人もいるクラスの先生みたいで頭痛くなるんだよね」

「弱点を教えてくれるなんて親切だな」

「まあ、僕が敗けても他のやつが倒すだろうし」

「陰気くせー!!!!」


 俺の小脇でアキナが絶叫した。もううんざりだという顔をしている。


「闘い始まってんだからウダウダ言ってんじゃねー!!やる気も何もないだろおおおおお!!!!」

「生首のくせに元気なやつだ。ウダウダいうつもりはないよ。言っててもあいつらには負けんが」

「やっちゃえ!!やっちゃえ!ユキノ!」

「やっちゃえねえな」


 けしかけるアキナが、俺の言葉を聞いてえっ…という顔をする。


「あいつ、【マジカルミステリーツアー】の射程圏内に入ってこねえ。把握してるんだよ、お友達の能力は」


 さっきにユタアキラと闘っていて気づき始めていた。この能力の弱点は範囲の狭さだ。

 おそらく半径4メートルくらい。


「さっきもらったばっかりなのに、理解が早いね。そのとおりユタアキラの能力はここにいる僕に届かない」

「ユキノ!!前進!!」

「見てみろ。さっきあいつが蹴散らした花びらがまだ宙に浮いてる」


 さっき蹴散らした花びらは少女漫画みたいにヒイロの周囲に浮かんでいて、ヒイロを守っている。トランプを刃に変える力だ。うかつに近づくと八つ裂きにされる。

 その瞬間、背後にさっきを感じてとっさに横に飛びのいた。

 俺たちがいたところを何かが通り過ぎて、地面が切り裂かれた。


「サボテン?」


 巨大なサボテンだ。ただ現代日本でイメージされる細長いのとは違う平べったいサボテンだ。

 そいつが手裏剣みたいに回転して俺たちを真っ二つにしようとした。


「動物的な勘が鋭いんだね。さすが異世界ストリート育ち」

「誉めてねえな」

「そりゃ家で育った方がいいに決まってるから」


 当然。一個だけじゃないよな。

 ヒイロの背後にはいろんな形のサボテンが浮かんでいる。


「絶望的じゃない?」

「俺の手品領域から絶対出るなよ」


 俺はアキナを抱えながらアキナの身体の方に駆け出した。

 それと同時に一斉にサボテンが飛んできた。


「【消失マジック】!!」


 花畑を踏みつぶすサボテンが四方八方から襲ってくる。

 そいつらの動線上を避けながら、避けきれないやつは手品で消していく。

 走るのに邪魔な木も消していく。

 俺たちの通った後にはチーズみたいな木やサボテンが転がっている。

 ヒイロは追いかけてこない。

 このチート【マジカルミステリーツアー】は範囲内であれば無敵だ。

 思い浮かべた手品を何の種もしかけもなく現実にできる。

 ただ、俺はユタアキラほど手品に詳しくない。


「植物園どころか、自然公園くらい広いな、お前んちの植物園」

「……さっきから私、足でまとい……」


 俺の脇腹におでこを擦りつけながらアキナが落ち込んでいる。


「……仕方ないだろ。生首だけなんだから」

「頭って10キロくらいあるんだよ。この闘い中にそんなの抱えてたら大変だよ!どうしよう私、なんかできることないかな……」


「セラセラのチートの真骨頂は仲間割れだ」


 アキナの声の反対側からヒイロの声がする。

 見ると小さい食虫植物がフワフワと浮かんでいて、捕虫草がパカパカと口みたいに動いている。

 スピーカーとしても使えるなんて自由自在だな。


「自分のチートを扱えるのは自分だけっていう自負につけこむ。ただでさえ自分のチートを奪われてイラついてる隣で、仲間が下手くそな使い方をしてれば、ムカついてくるだろ」

「だったら全員をばらけさせたのは悪手だろ」

「それは僕じゃない。ヤニ吸いのハヤブサだよ」


 仲間割れしてんのはどっちだか。


「で、そんなことをわざわざいうためにお花を摘んできたのか、お前は」

「噂通りの減らず口で逆に安心してきた。逆に、今のお前に何ができるんだ?足にとげが刺さってるぞ」


 バレたか。


「い、いいいいいいいい、いつ!?」

 

 アキナが仰天して見下ろした俺の脚には、何本ものトゲが貫いていた。


「地雷みたいにサボテンが地面で待ち構えてたんだよ。だからうっかり」

「……うっかり、じゃないよ!!だって右脚ばっかりだもん!私抱えてるから、私抱えてるから見えなかったんでしょ!!」


 アキナが半泣きになって叫ぶ。さっきから抱えられている自分に負い目を感じていたから、この流れはまずい。

 ヒイロの思うつぼだ。


「そんなわけないだろ。役に立とうが立たなかろうが、お前を置いていくなんてしねえよ」

「そんなこと言っても、ボールの投げられない私なんて何の役に立つの……」

「はっ、人間の本性は誰しも陰湿ってことだ。どいつもこいつもカッコなんかつけやがって」


 右と左からネガティブな言葉が聞こえてきて、前と後ろからはサボテンが矢のように飛び交ってる。

 俺はその中でピタリと足を止めた。

 襲い掛かってくるサボテンは片っ端から消失させていく。


「剛速球が投げられなくても、お前には取り柄があるじゃねえか」

「え、なに?」

「それも、この状況をひっくり返すとっておきのやつが」

「はっ、やさしいだけの慰めなんて余計に意地が悪いだけだ」


 俺はアキナの生首を自分の頭の上に載せる。


「え、なになになに?」

「実は俺も手品出来るんだぜ。100均にも売ってるパーティグッズだけど、手品は手品だ」

「おまけにハッタリかよ。いい加減に……」

「目が~、でっかくなっちゃった!」


 瞬間、アキナの目が少女漫画みたいな大きさになった。

 これが活路だ。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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