158話 配られたカードで
あのチャイナドレス女の仕業だ。
あの場にいた全員のチートがシャッフルされた。ユタアキラの【マジカルミステリーツアー】が俺に、ニコの能力がアキナにきた。
「ってことは、私の剛速球はニコに行ったのかな?」
「そうとも限らないぞ。敵味方の区別がないあたり、能力の交換はランダムなんだろう」
「能力って、その人の性格が反映されるんだよ!!そんな人の能力なんて使いこなせるわけないじゃん!!」
目を見開いたアキナが俺の耳元で叫ぶ。
持ち前の運動神経で空中浮遊のコツをつかんだらしい。アキナは今俺の手品で空中をフワフワと浮いているのだ。
ずっと持っているのは重たいからな。
「能力ってそういうものなのか?」
「そうだよ!頑張れば強くなれるけど、生まれつきだから、自分のが一番自分に合ってて、たとえどんなものであっても、授かった能力で闘っていくしかないの」
異世界も世知辛いな。
「ニコ争い嫌いだから、剛速球なんて投げられないよ。心配だな」
「それよりまず自分の心配……」
ニコの安否も心配だがその前に浮かぶ生首状態の自分を心配しろと言いかけて、俺たちが今チャンスをつかんでいることに気づいた。
「俺が治せばいいのか」
「……たしかに!」
目の前に浮かぶアキナもきょとんとしていた。俺が【マジカルミステリーツアー】を手にしたおかげでわざわざユタアキラを見つけてぶっ倒す手間が省けた。
「そうと決まれば急ご!!」
ぴゅーっと水平移動するアキナ(の頭)。
あっという間に俺の手の届かないところまで離れて……。
「危ない!」
とっさに手品を発動してアキナの頭を手元に瞬間移動させる。
アキナが不満そうな顔をしたのと、さっきまでアキナが浮かんでいたところめがけて根が飛び出してきたのは同時。
「な!なに!?何!?」
「この植物園にはモンスターもいるのか!?」
次の瞬間、地面が動く感覚がした。
見ると、俺の足元にだけ不自然に落ち葉や枯草が集まっている。
そいつらはまるで意思があるみたいに足の裏と地面の隙間に入り込もうとして……。
「人体浮遊!!」
自分が立っているカーペットを一気に引かれたみたいな感覚がした瞬間、とっさにそう叫んでいた。
頭を地面にぶつける寸前、俺の身体は宙に浮かんだ。体勢を立て直して、空気の階段を急いで登っていく。
「なになに!?敵?」
「俺に手品チートが回ってきてよかった。こんなの俺かユタアキラしか使いこなせねえよ」
思い描いた手品を実現できるチートなんて、そもそも手品の概念がないあいつらじゃ使いこなせない。
森のさらに上の空中まで登ってきた。ここからなら植物園全体が見渡せる。
「何が起こったの!?根っこに刺されるなんて、トレントとか育ててなかったよ!」
「ヒイロだよ。あの根っこ、枯れてた」
あいつはでっけえクジラに乗ってやってきたラクと違って、生き物を自分の思い通りにはできない。コインにしろ獅子舞にしろ無機物しか操ることはできないはずだ。
さっきアキナの頭を指そうとした根っこ、生きている植物にしては水分がなかった。
「それにさっきの葉っぱもな。落ち葉だった」
「早く身体を取り戻したいのに~~~~!!!」
あのまま森の中にいたらあいつの独壇場だと思ったから、とっさに周囲に何もない空中まで飛んできたけど。
「ドームがあるの忘れてた」
俺はガラスの天井をノックする。分厚いガラスの響く音が聞こえる。上質すぎて近づかないとあることに気づかなかった。
ガラス越しの空は快晴で、日光がとてもまぶしくて目が開けられない。
……。
ぐるりとドームを見渡したら、少し離れたところに誰か立っているのに気づいた。
日光の反射とガラス越しでいまいちはっきり見えないが、ダルダルの白いシャツを着た陰キャな男なことはわかった。
「……まずい」
この状況でドームの上から植物園にいる俺たちを見下ろすやつなんて一人しかいないし、なにより。
「ガラスって無機物じゃねえかよ」
瞬間、頭上のガラスが粉々に砕け散って降ってきた。
「死ぬっ!!」
「【消失マジック!】」
俺に降ってくるガラスを消しながら、アキナをしっかりとわきに抱える。
このまま背を向けるのは癪だ。
「むぐぅっ!ってユキノ!?このガラスの中攻撃すんの!?」
「ガラスで視界が悪くなってんのは向こうもだろうからな」
降り注ぐガラスをかいくぐりながら、ヒイロの近くまで接近。
別に真下まで行ってあいつの立っているガラスを砕く必要はない
ある程度の距離のところまでいけば。
「あとは魔力障壁をぶっ放して、破壊する!」
耳に優しくない甲高い破砕音が植物園中に響き渡った。
ヒイロのやつも何が起きたのかわからない顔して、足元が崩れ落ちるのを間抜けな顔で眺めている。
イワシの群れみたいに俺を狙っていたガラスの破片も途端に真下に向けて落下し始めた。
「ちょっと待ってユキノ!!今!魔力を空気に伝導させなかった!?」
「なにが?普通に足から魔力障壁出しただけだぞ」
「いや!……え~……うーん……あれはそんなんじゃなかったような……まるでパパみたいな技だったような……」
「まあ、確かに。思ったより反動は少なかったが」
そんなことより。
ヒイロもそう遠くないところに落下したみたいだ。
「チートは不自由だ。異世界転移と圧倒的な力で一見気づかなくさせられているが」
ふらふらと草と枝をかき分けてさっきのギーク野郎がやってきた。
「神か何だか知らないが、そいつに与えられた力しか使えない」
真っ白なシャツに葉っぱや土がついている。大して運動神経もよくなさそうなのに、よくあの高さから落下して無事でいられたな。
「僕たちほど不自由な存在はこの異世界にいないね。チートのおかげで僕たちは異世界人より圧倒的優位に立たざるを得ない」
ヒイロってやつの目は虚ろだ。目力があるようにみえてないようにもみえる不気味な迫力がある。
「じゃあ聞くがお前、仮にビートル人より強い異世界人が現れたら素直にそいつに支配者の座を譲るかよ?」
「するわけないだろ、現代日本じゃできなかったわがままを通せなきゃ、異世界に連れてこられた甲斐がない」
ガラスの雨が木から葉を切り取って、枝を切り取って、実を切り取って、草を細切れにした。
「通るのは俺のわがままの方だ。俺はお前をぶっ倒してアキナの身体を取り戻す」
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