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157話 シャッフル

「ユキノおおおおお!!!!!」


 アキナの叫ぶ声に俺の思考は中断する。

 手のひらに滲んだ血を指で拭って、地面に転がっている首だけアキナのもとへ向かった。


「うわあああああん!!!身体がどっか行ったあああああ!!!」


 泣き顔のアキナを拾い上げて、顔に付いた泥をぬぐってあげた。

 少し機嫌がましになった。


「ありがとう。身体のところまで運んでく~ださい!」

「そのつもりだけど、どこだよここ?」


 さっきより蒸し暑い。下は土だし、あたりには植物が生い茂っている。

 同じホンロン城とは思えない。別の街まで飛ばされたんじゃねえの。


「植物園!!城の裏だよ!さっきよりは城に近づいたかな」

「あのチャイナドレス女が俺たちに協力した?」


 ピンチだった俺たちを救った……ってことじゃないだろうな。

 ユタアキラと仲悪そうだったし、俺たち獲物の取り合いってところか。


「はた迷惑な話だ。おかげで助けなきゃいけないやつが増えた」

「うぅ……かたじけねえ」

「いいさ。ところで、肝心の身体は無事か?」

「うーん……大体あっちらへんにありそう!!」


 あっちってどっちだ。身体の方は指をさしているのかもしれないが、お前は今頭だけなんだぞ。

 アキナの感覚を頼りに、まずは植物園の出口を目指す。

 アキナの頭を小脇に抱えて枝をかき分けて、根っこを飛び越える。何回かコケで滑ってこけそうになった。

 まだ昼間だというのに頭上を木々が覆っているせいで薄暗い。ビートル人の野郎どもに花を愛でる心はなかったのか、手入れがあまりされていない。


「もともとねー。ここは城から出られない私たちのために作った自然を楽しめる場なの。たしか、どっかの森をそのまま持ってきたんじゃないかな?」

「とんでもねえ権力してんな。カクラ王家」


 どっかの森からいい感じのところを切り取って城に運んで、ドームを覆いかぶせて植物園にしたってか。

 ロンドが異世界召喚に頼りたくなる気持ちが分かった。

 まるで昔のモンハンで卵運んでいる時みたいにアキナを腹の前で抱えて出口を目指す。


「なんかエッチ!ベルトが後頭部に当たる!!」

「何を言ってるんだお前は」


 俺の腰の前でアキナがふざけたこと言う。たしかに顔が俺の腹に向いていたら、傍から見たら誤解されるだろうが。


「ところでユキノ。手ケガしてるよ」

「お前はほんとに自分のペースで話すな。そうそう、ここへワープしてきたとき切ったみたい……治ってねえ?」


 さっきの切り傷からうっすら血がにじんでいる。触ると刺すような痛みがした。


「【ヒーリングファクター】がもしかしてまた奪われたのか?」

「ええええ!!!私剛速球以外は何もできないよおおお!!!」


 うっすら気づいてたことを本人の口から聞けたが、そんなことより。


「奪われた可能性は低い。サッチャンだっけ?セーレたちが言うには、チャイナドレスなんか着てなかった」

「ってことは別の何かってこと?」


 腕がつかれてきた。【ヒーリングファクター】が無くなっているのは確かだ。だがサッチャンの時とは違って【全言語理解】は無くなってない。


「アキナ。試しに能力を使ってみてくれ」

「オッケー!身体って動かせるのかなあ……う、ご、か、せ……た!!!」


 ……。


「ホンロン城が破壊される音が聞こえてこねえな」

「なんか感覚が違う~。パッと掴めたの投げたはずなのにぃぃ」


 頭をかしげるアキナ。いい加減腕が限界になってきた。アキナの頭をいったん地面に置く。


「もう一回投げてみるね!えい!!!」


 能力を使った瞬間、アキナを置いた地面が陥没した。

 まるで落とし穴にはまったみたいにアキナが眉毛の上まで埋まっている。


「大丈夫か!」

「ぺっ、ぺっ!土が口に入った!!ぺっぺっ!!!」


 水魔法なんて器用な真似、ビートル人の俺にはできない。

 こんな時セーレがいてくれれアキナの目も洗えるしうがいもさせてあげれるんだが。

 ん?


「おい。なんだこれ?」

「えぇなに?目が開けられないけど……って、新聞?いつの間に?」


 気づいたら俺は新聞を手にしていた。この世界のそこら中で読まれてる大衆紙。

 四つ折りになっていて、折り目が下になっていて、まるで、注ぎやすいような……。


「アキナ、口を開けろ」

「え?それってエッチなお願い?」


 口角に土をつけながらふざけたこと言うアキナに口を開けさせて、そこへ向かって新聞紙を傾ける。

 すると新聞紙の隙間から水が流れ落ちてきた。まるで紙のじょうろ。


「水だ!!やったあああ!!!ありがとうユキノ!!!うがいするねえええ!!目も洗わせてねえ!!」


 アキナの顔に付いて泥を落としながら考える。この水の量は新聞紙に貯めておける量じゃない。

 まるで手品みたいな……。


「ぷはぁ!きれいになった!!……ってあれ?あれもユキノが出したの?」


 目が開けられるようになったアキナが俺の背後に何かを発見した。

 振り返るとそこにあったのは、泥団子。

 丸くて手のひらサイズの泥団子だ。2本の曲線の縫い目みたいなデザインがされていて、まるで野球のボール……。


「……嘘だろ……」

「どうしたの?」

「……アキナ。試しに、あの岩に自分の名前を刻んでみてくれ」

「今はできないよ?」

「いや、できるさ。あの岩に『アキナ』の三文字が刻まれる様子を頭の中で具体的にイメージするんだ。そう、ニコがいつもやってるみたいに」

「ニコって……えええ!?!?も、もしかして!?」

「俺はTシャツの中から鳩を出す」


 ア、キ、ナと汚い字で刻まれた岩に、偽物みたいに白い鳩が止まった。


「で、できた。ニコみたいな……ユ、ユキノおおお!なんでええ!?!?!?」

「能力が入れ替わってる……あのチャイナドレス女があの場にいた全員の能力を、シャッフルしやがったんだ……」


◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「今ごろユタアキラのやつ、死ぬほどキレてるだろうね。いっつもカッコつけててムカつくからいい気味だ」


 ホンロン城。バルコニー。

 城の中庭が見渡せるオシャレスペース。そこに置かれた机を囲んで、ヒイロとハヤブサが楽しそうにしていた。


「ホンロン城の外であいつらを狩る勝負は終わったが、城の中で狩る勝負はさっき始まったばかりだぜ。独りだけ抜け駆けなんてしたら、そりゃ他のやつからいじめられるだろうよ」


 机の上にはX軸とY軸。その十字の周囲に点が7つばらばらに散らばっている。

 ユキノたちの能力をシャッフルしたのがセラセラなら、ユキノたちをホンロン城のあちこちにワープさせたのはハヤブサだった。


「にしても、1人だけ原点、つまり俺たちが要る場所にワープさせて、まさか君が来るとはね」


 そう言ってヒイロがワープしてきたそいつにコインを投げる。

 そいつは宙を舞うコインを鎖でキャッチ。鎖を巻き取ってコインを自分の手の甲において、見えないようにもう片方の手で隠す。


「裏」


 鎖の持ち主の予想的中。


「……今日の私はツイてる」

いつもお読みいただきありがとうございます。

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