156話 獲物の取り合い
今回登場するビートル人
No.16 セラセラ チート名【Get Lucky】:選んだ人や物をシャッフルすることができる。シャッフルできるのはチートや位置など。シャッフルなのでセラセラの思い通りにはできないし、セラセラ自身もシャッフルに強制参加。セラセラのチートはスカとして扱われるので、誰か一人は無能力のハズレくじを引く。
「どうして生きてんの私!?意味わかんない意味わかんない意味わかんない!!」
「何でもありの異世界だけど、人の首を生きたまま切断するのは誰もやってない」
まるで野球ボールみたいにアキナの頭を手の上で投げるユタアキラ。
「てめえ!」
「人の頭って結構重たくて、うっかりすると、おっと」
ユタアキラがアキナの頭を取り損ねて落とした。
まずい。あの高さから落ちたら下手したら……。
「アキ……!」
「っと、はい」
アキナの頭は落ちることなく、宙に浮かんだままだ。
吊られているみたいに少しゆらゆらしているアキナの上でユタアキラがそれらしい手の動きをしている。
肝心のアキナ本人は恐怖で白目を剥いてアホみたいな顔になっている。
「返してくれますか」
誰よりも先に身体が動いたのはニコだった。
ユタアキラがふざけたように動かしている腕を掴んで、しっかりと目を見てのお願いだった。
ニコがあんなにもじっと人と目を合わせるなんて初めて見た。
かなりブチギレている。
「ニコ~~!!!」
「……誰かと思えばニコじゃん。ファクトリーを作ってくれたお前が今更正義の味方するんだ」
「会ったときからわかってましたよね」
ドワーフであるニコは怪力だ。小学4年生くらいの小さな手をしているが、その握力はちょっとした金属なら引きちぎれるくらいだ。
平和主義者だから普段はそんなこと一切しないが、だがユタアキラの腕をつかむ手にはかなり力が入っている。
「もげますよ」
「そのつもりで握ってるね。だけど、僕には効かない。そもそも握りつぶすなんて出来るのかな?」
なのにユタアキラはこの調子だ。痛覚なんてないかのように左腕をニコに握らせたまま平然としている。
ってことは。
「その手は偽物だ。ニコ!離れろ」
「野暮だね。マジックでタネを見抜けたときは一人優越感に浸って楽しむものさ」
口だけを微笑ませたユタアキラがちらっと俺の方を見た隙をついて、ニコが思い切り手を握りしめた。
ボキンという音がしてユタアキラの腕が千切れ飛んだ。
その瞬間、セーレが鎖を飛ばして、アキナの首をこちらに手繰り寄せた。
死角からの一瞬の隙をついた。セーレはとっさに距離を取った。
「要は魔法の偽物でしょ?つまんないから」
「セーレ姉ちゃーん!!怖かったよー!!!!!」
セーレの言葉にユタアキラの顔が一瞬だけこわばったが、すぐに胡散臭い笑みに戻った。
首だけのアキナがセーレの胸の中で目に涙を浮かべている。
とりあえず取り返した。
「戻してえ!!早く戻して!!」
「そうはいっても身体はまだユタアキラのそばにある。落ち着くんだ」
「いや、首から下を取り返してもダメだと思うぞ」
。
このバカげたチートを解除しないと、アキナの身体は元に戻らない。
「アキナの頭が実は偽物でしたって手品はしねえのか?拍手くらいしてやるぜ」
「……黙れ」
ユタアキラが今までとは違う。どすのきいた声を出した。
「この僕のマジックがつまらないだと……?」
逆鱗に触れたのは、セーレか。
さっきまで隠してた冷たい目が全開になっている。殺す気満々って感じだ。
「それはお前に見る目がないからじゃないのか?もっとマシな眼球を入れてやろうか?」
そばでぼさっと突っ立ったままのアキナの身体を乱暴に自分の背後へと投げるユタアキラ。
感覚はつながったままらしい。アキナが痛そうな顔をした。
「あなたは今私と話してるんです」
セーレに近づこうとしたユタアキラをニコが止める。
ちょうど胸くらいの位置にあったズボンの腰をぐっとつかんでいた。
あいつ。珍しく冷静さを欠いている。
「お前の相手は私だ!!!」
ナツメがわざと大声を出してユタアキラの注意を引いてくれている間に、俺はアキナの身体が放置されている方に回り込む。
2方向からの同時攻撃なら。
「小賢しいことする客だね。だけど、360度見られても欺けてこそのマジックだ」
「ぐぁあっ!」
次の瞬間、俺もナツメもニコも地面に縛り付けられていた。
どこからともなく出現した麻縄のロープ。
脱出マジックか……!
「ニコ!」
「ダメです。引きちぎれません。素材の硬さがどう考えても麻縄じゃありません」
「最悪だ。あっという間に動きを封じられた。私がいながら、なんてことだ……」
「一番弱いくせに」
そう吐き捨てるユタアキラをナツメは睨むことしかできない。
俺たちもだ。
あっという間に、闘えるのがセーレだけになった。
セーレは闘いを捨てちゃいないが、だがどうしてセーレだけは縛られてない?
「せっかくだから選ばせてあげよう。懐から出てきた鳩に食いちぎられたいか?全身燃えたいか?それとも口からトランプを吐いて死にたいか?」
ユタアキラが近づくのに合わせてセーレが遠ざかる。
不意に距離を詰められないように鎖を目の前でプロペラみたいに振り回しながら。
「どれも嫌ね。私はお前らが死ぬ前には死なないから」
「やり辛くない?お前、こんな女と一緒にいて?」
足を止めて急に俺の方に話を振るユタアキラ。
相変わらず余裕そうな笑みだが、その動きは少しだけ、ほんの少しだけぎこちない。
なんというかまるで、わざわざセーレに背後を見せて攻撃を誘い込んでいるような……。
そのとき、俺たちがやってきた方からカツカツとハイヒールの音が聞こえてきた。
動かしにくい首を動かして姿を見ると、目に入ってきたのはチャイナドレス。
と、LEDくらい明るい手提げ提灯。
俺たちの顔から周囲までが明るくなって、そいつの顔もよく見える。
紫の唇をして姫カットのロングヘアに切れ長の目。アジアンビューティの権化みたいな女がいた。
「誰だ?おまえ」
「今までどこにいるかと思えば、いきなり何しに来た?」
俺のすっとぼけた声とユタアキラの棘のある声が同時に狭いバックヤードの通路に響く。
チャイナドレスの女は俺たちのいる一歩向こうで止まった。
わかりかけてきた。ユタアキラの弱点が。
「誰がこいつらを一番狩るかが勝負。それはまだ続いてる」
「横取りに来たってのか?よりにもよってショーのクライマックスの時に」
「あんたの今日の運勢、よくないよ。予想外のことが起きるから気をつけなって朝も忠告したじゃないか」
「お前ごとき、邪魔でも何でもないね」
ビートル人同士仲間割れか?俺たちは得するからいいけど。
するとチャイナドレスの女はしゃがみこんで俺の顔を覗き込んだ。
「あんたはまるでネットに弾かれたテニスボールみたいだ。いいことあるといいね。【Get Lucky】」
「なんだそれ?おい、どういうチートか説明しろ!」
「お前!なんてことしてくれたんだ!!お前だって無事じゃすまないんだぞ!このギャンブル狂が!!」
ユタアキラが取り乱した貴重なシーンはよく見えなかった。
何か強烈な力に引っ張られる感じがして、視界がぐるぐると回る。耳もキーンとなる。
どすんと着地したら耳も目も復活した。
ここは、同じ場所じゃない。ホンロン城なのは確かだが、どこかわからない。
あたりにはセーレもユタアキラもさっきのチャイナドレス女もいない。
「何がおこった?一体どういうことだ?」
地面から手を離した瞬間、チクっとした痛みを感じる。
手のひらの端っこが切れて血がにじんでいた。
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