155話 異世界チートのマジックショー
ユタアキラは現代日本にいた頃、手品をするからと友達からお金を借りて、増やしてあげていたそうです。増えた分のお金は別の友達の財布からスったもので、手品の真の目的は友達の机から金目の物を盗むことでした。
「協力してくれてありがとう。いいマジックに必要なのは積極的でノリのいい観客なんだ」
「勝手に観客にするな。マジックショーに付き合っている暇なんかねえよ」
俺が動くより早く、セーレが鎖を飛ばしてユタアキラを拘束した。
「よくわかんないけど、敵なんでしょ?だったら話聞く筋合いなんてないじゃない」
「行儀の悪いお姫様だなあ……」
どんどん絞られていく鎖にもかかわらず、ユタアキラは余裕の笑みを崩さない。
「やばい!お前の攻撃も織り込み済みだ!」
「それより早く魔力を送り込んで焼き焦がしてやる!」
「3,2,1……0」
悠長にカウントダウンし終えたのと同時に、ユタアキラは消えた。
セーレの鎖は人型のまま宙に浮いていて、ぼわっと火が燃え上がった。
「消えた……」
「さっきからまるで、手品みたいだ」
「手品ってなんですか?魔法とは違うんですか?」
ニコが首を傾げたように、この世界に手品はない。召喚魔法でゴーレムを出現させれる世界でタネを仕掛けて小鳥を懐から出したって儲けにならないからだ。
だがこいつは現代日本でおなじみの手品をさっきから披露している。
俺の目玉を自分の手にワープさせたのも、さっきの拘束から脱出も。状況が変なだけでやってること自体はよくある手品だ。
ただ、どうやっているのかが全く分からない。
左目はすでに治っている。
「マジックというぞ……あいつは。手品と同じ意味か?」
「ああ」
「そうか。あいつのマジックとやらは魔法じゃない。仕組みが分からないんだ」
手品を知らない民族が、突然人体切断マジックを見せられるのとはわけが違う。
あいつの手品にはタネがない。それがあいつのチート。
「僕たちも好きでこの世界を侵略しているわけじゃない。僕たちが友好的な態度だったとして、君たち現地人が受け入れるとも限らないだろう?」
背後からユタアキラの声が響くので全員一斉に振り返る。
ユタアキラが天井に立っていた。コウモリみたいだ。
「それになにより、自分たちの勝手で異世界召喚をするようなやつらを信用しろって方が無理な話。でしょ?ロンド姫様?」
「……何が言いたいのかしら」
そう高くない天井だ。逆さになったユタアキラの顔は俺たちの顔とそう変わらない位置にある。
その表情は相変わらずほほえみをたたえているが、視線は鋭くセーレを見据えている。
「君は僕たちのことを祖国を踏みにじった悪党だと思っている。そして僕たちは君を現代日本からこんな異世界に拉致してきた誘拐犯だと思っている」
「……」
さすがペテン師。異世界語も流暢なこって。
「僕たちがわかりあうことなんて不可能ってこと。たとえ異世界語理解チートをもっていてもね」
片足を天井から離すユタアキラ。その足を天井をつけることなく、もう片方の脚も上げる。
だがユタアキラは落ちてこない。
それどころか階段を上るように脚を動かして、無重力みたいに通路の中空を歩き始めた。
「両方が両方自分たちを被害者だと思っている。この闘いは不毛だ。どちらかが相手を徹底的に叩きのめさない限り終わらない」
再びスポットライトのところまで歩いたユタアキラは、くるっと一回転して空中にあぐらをかいて座った。
その顔には相変わらず柔和な笑みが貼りついているが、目の奥が凍っている。まるで獲物の隙を窺う肉食獣のような目をしている。
「ユキノ!こいつ難しいこと言ってるよ!!もうやっつけよう!」
「待った方がいいですよ。さっきから私たちはこいつの能力を何も把握できていないです」
「そもそも殴りかかってきたやつの『喧嘩両成敗にしよう』なんて言葉ほど信用できるか!私たちの世界をめちゃくちゃにしたのはお前たちじゃないか!絶対に許すことなんてできない!!」
まずい。
徐々にユタアキラのペースにはまっている。
特に、さっきのこいつの演説でナツメの怒りに火がついた。セーレを煽っているように見えて、実はナツメの神経を逆なでするのが目的だったか。
「聖女様にそう言われるとキツイなあ。なにせ僕たちがここまで世界侵略を簡単にできたのは、君たちがサポートしてくれたおかげだからね」
「こいつ……!!」
「ふぅっ」
ナツメが目の前に展開した魔力障壁にむかって、ユタアキラがふっと息を吹きかける。
それだけで、一瞬にして分厚い魔力の壁がハンカチに変わった。
「きれいなハンカチだね。上質な魔力のおかげだ」
ユタアキラがひらひらと舞うハンカチを掴む。なんだか拍子抜けな空気が俺たちを包む。
「ほいっ」
手を覆うハンカチをパッと取ったら、手の上に鉄球が出現していた。
はっと息をのむ音がニコの方から聞こえる。
それに重なるようにユタアキラが言う。
「じゃじゃーん」
確かに今まで1個しかなかった鉄球が次の瞬間には2つになっていた。
「遅かったです。全部盗まれました」
「結局こうやって争うしかないのは悲しい。実は君たちにプレゼントがあったんだ」
そう言ってユタアキラは、いつの間にかシーツくらいの大きさになったさっきのハンカチを床に敷いて、勢いよく引くと、リイがいた。
ワイヤーでぐるぐる巻きにされて全身は傷だらけだ。ワイヤーの当たっている皮膚からところどころ出血しているし、乱暴な引きずられ方をしたせいで服や髪がぼろぼろだ。
顔はこちらを向いているのに、俺たちが見えていないようだ。
そんなことより、目の周りが赤く腫れて頬に泣き跡がついている。
「お姉ちゃん!!」
「でも、こんな態度取られるんじゃ渡す気になれないね」
駆け出したアキナをセーレが止めるより早く、ユタアキラがまたシーツをかけて消し去ってしまう。
思ってもないこと言いやがって。
「お姉ちゃんを返せ!バカ!!」
「アキナ!ダメ!」
激高したアキナがセーレの手を振りほどいて殴りかかる。
刺すように鋭いその拳は当たれば無事じゃすまない。
だがユタアキラは避けることなく、それどころか喉に拳が突き刺さっても意に介することなく。
そのままアキナの首を切り飛ばした。
「え……え……」
自分が切断されたとアキナが理解する間に頭は宙を1回転半して、ユタアキラの手の上に落ちた。
「うわあああああ!!!景色が逆さになってる!!生きてる!!切られた!!怖い怖い怖い怖い怖い!!怖いよ!!」
力の抜けたマネキンみたいに立っている自分の胴体を見て、アキナがは半狂乱。俺たちは事態が飲み込めずにいて、ユタアキラだけが笑っていた。
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