154話 裏口で手品
ハヤブサの妨害がピタリとやんでから、俺たちはスムーズに移動することができた。
というより、誘導がもう終わったからだろう。
「うげえ!ここめっちゃ裏口!!!」
俺たちは今、ホンロン城の裏口の前にいる。
裏門ではない。裏口だ。
きっと侍従の者たちが出入りするための通用口。
「裏口だとなんかまずいのか?」
「フマたちのいるところまで遠いのよ。正門から入るよりずっと」
俺の疑問にセーレが代わりに答える。なるほど従業員入口はバックヤード直結で表舞台までは結構歩かないと行けなかったりするもんな。
「おそらく動く壁のせいですね。あいつらが知らぬ間に道をふさいで、私たちをここまで誘導してきた」
「隕石と獅子舞に気を取られて意識してなかったな……」
完全にしてやられた。
まさかあいつらが連携を組んでくるとは。
「ところで、ホンロン城は広い。リイ……様がどこにいるのかわからないと私たちじゃどうしようもないぞ」
「それは多分、大丈夫。だよな、アキナ?」
「大丈夫だよ!お姉ちゃん、私にしかわからないヒントくれたから!」
さっきリイが俺たちに電話してきたとき、フマの妨害で一瞬しか声が聞こえなかったが、その時リイは俺たちに何か重要な情報をくれた。
俺はその意味が分からなかったけど、アキナが思い当たる節がありそうな顔していたのでそれを信頼して俺は何も言わなかった。
「五爪の龍の加護ってお姉ちゃん言ってた!爪が5本の龍がいるのは、この家で2つだけ。カクラ花園と玉座!」
裏口をくぐると細くて暗い通路がつづく。
壁にはところどころ穴が空いているから完全に暗闇というわけじゃないけど、憧れのホンロン城勤務も大変だな。
壁の穴は、右側からは城下町が見えて、左側には庭園と空が見える。
「私もさすがにここまで来たことはないから、こっちで合ってるのかな~?」
アキナの先導に従ってついていく俺たちは、カクラ花園を目指している。
セーレが吹き飛ばされる前に、フマともう一人の女が逆転送装置の前で何やら話しているのを見かけたからだ。
やつらの目的はホンロン城地下に眠る逆転送装置を起動させることだ。
「フマのヘタレ、逆転送装置なんか起動させてどうするつもりだ?今更、現代日本に帰ろうってのか?」
「君たちビートル人は帰りたいんじゃないのか?」
「……いや……そうだな……」
「あ、いや……君たちではない。ごめん……」
ナツメがしまったという顔をする。俺をビートル人と名指ししたことを失礼だと思ったのだろう。
別にいいけど。
「帰りたいはずがないんだよな。圧倒的な力で好き勝手できる世界を与えられて。まあ、寿命が短いのをどうにかしたいってのはあるか……」
異世界と現代日本をつなげればあいつらの寿命は延びるのか?
最低限止まるくらいはするんだろうか。
「あれ!?誰かいる!?」
先頭のアキナが素っ頓狂な声をあげる。
確かに誰かいる。
薄暗い通路。壁の穴から光の筋が斜めに差し込んでいる。その奥の暗闇にうっすら誰か立っている。
光の筋はそいつの肩から腰にかけて走っているから、ちょうど顔が見えない。
ただ服装でわかる。黒Tシャツに黒のズボン。
従業員ではない。
「どうも。みなさん揃ってますか?ユタアキラです。よろしくお願いします」
そいつはまるでご歓談中みたいな態度で俺たちに話しかけてきた。
ユタアキラとかいうそいつは、面長の口の大きな男だった。髪にはワックスをつけ、Tシャツには皺がない。
「よろしく!!!」
条件反射で返したアキナの大声が通路に響き渡る。俺とナツメ以外はどうしたものかと決めあぐねていた。ユタアキラからは敵意が一切感じられなかった。ただ話しかけやすい先輩みたいな柔和な態度でフラッと立っている。
「なんか胡散臭えな。どけよ」
「あ~お手厳しい。でももう少し僕と話してから決めてください」
けれどナツメだけは警戒心をあらわにしていて、だから俺はとりあえず悪口を言っておいた。
十中八九捨て駒だろう。さしずめ俺たちの行く手を妨害して、フマたちが逆転送装置を起動するまでの時間稼ぎをする要員だろう。
「さて、どうして僕たちが異世界と現代日本をつなぎたいのかっていうと、確かにユキノさんがおっしゃった現代日本に帰りたいっていうのが1つ」
ユタアキラはペラペラ喋りながらこちらに近づいてきた。そしてちょうど光の真ん中に立つ。
壁から差す光がスポットライトみたいになって、それに照らされるユタアキラのショーがこれから始まるみたいだった。
「ただそれはビートル人の穏健派の主張であってもっと過激な派閥もある」
ユタアキラが両手を広げてこちらに見せた後、両手を重ねて俺たちの前に突き出してきた。直前に手をひらひらさせてたのも怪しかったし、何かを包むようにしている両手も怪しい。
ユタアキラの両手がゆっくりと開かれる。いつの間にか俺たちはその動きに釘付けになっていた。
「好戦的な彼らが考えていることは、あるいはより一層の自由。より一層の暴力。あるいは、現代日本への復讐」
開いた両手の上に目玉があった。
レプリカではない。さっきまで人体にはまっていたであろう生の眼球。
「!!」
それを認識した瞬間俺たちの間に一気に警戒心が広がって、各々が戦闘態勢をとった瞬間、セーレが震える手で俺を指さした。
「こ、この目玉……ユキノの……!」
とっさに目を触ったら、左が空になっていた。
だが、触った指に血がついてない。
「えっと。まあ、僕たちは君たちのチートを把握しているから。僕のを教えてあげたほうがフェアかと思ってね」
手のひらに目を載せたまま、ユタアキラが手をパンと叩くと、目玉が消えた。
左目を触ると、目の感触がある。
「……で、お前もその過激派の1人なのか?」
「おっとっと。せっかくの余興がスルーされちゃった。ひどいな~」
本心が見えない。俺の目玉もあっさり返しやがった。
一体こいつは何しに来た?
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