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150話 赤のマルボロ

今回登場するビートル人


No.7 ハヤブサ チート名【X&Y】:X軸とY軸のグラフを出現させて、任意の現実の場所と対応させることができる。例えば(X.Y)=(1.1)の点に石を落とせば対応させた現実の場所に隕石大の岩が降ってくる。

「結局誰も、この城から出て行かなかった」

「というより出て行く前に下が燃えたから」


 木の焦げた臭いが立ち込める一室。すすだらけになった椅子を落ちていた布で拭いて座るヒイロとその一連の動作を入り口に立って眺めていたハヤブサ。


「お前が椅子から転げ落ちるところなんて久しぶりに見た」

「そういうのいいから仕事しなよ……あっ、んだよ。全員死んだ」


 手に顎を置いて集中していたヒイロが舌打ちをして自分の太ももを叩く。

 ちょうど獅子舞4匹をユキノが全員ぶっ倒した瞬間だ。


「燃やされるのも噛みつかれるのも怖くないなんてマナー違反だろ」

「何のマナーだ」


 ヒイロが長い髪の隙間から睨むのも気にせず、ハヤブサは窓についたすすを、質のよさそうなダブルのスーツの袖をワイパーみたいにして掃った。


「相変わらず雑だなあ。チートは本人の人格を反映してるって僕の仮説を君は証明してくれる」

「だったら2つ持ってるユキノはどうなるんだ」

「さあ。欲張り?とか」


 雑談をしている間にハヤブサの目の前に、直覚に交差した2本の矢印が出現した。

 さながらそれは数式のXとY軸のグラフのようで、ご丁寧に点線も引かれて座標がわかりやすくなっている。


「一つ訂正しておくが、俺の【X&Y】は俺のクールな面を象徴している」

「うわあ~。自分で言っちゃった」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ふーん……言葉も通じなくなって大ピンチだろうと心配してたのに、こんなきれいなしかも白兎教の聖女様を通訳にね……心配して損した」


 ホンロン城へと向かう道中。俺とナツメの出会いの経緯を聞いたセーレのリアクションは、寝起きの猫みたいな顔で俺を睨む、だった。


「いやあ……なんというか、泥棒猫するつもりはない。行くなら正面から行くさ。」

「何の話してんだ?てかセーレお前がきれいとかいうと皮肉に聞こえるな」

「え?なにそれ?もしかして私が可愛いってこと?やめてよ。へへへ」

「セーレさんもちょろくなりましたね」


 俺の耳元でニコがつぶやくが、スルーした。

 セーレの顔は昼寝している猫みたいにとろんとしている。

 気をつけろよ。今俺たちは屋根から屋根へ飛び移っているんだから、気抜くと足滑らすぞ。


「うっひょーーー!!バック宙ジャンプ!!たーのしー!!!」


 アキナがその運動神経を活かしてバック宙に捻りを加えている。聞けば小さいころから城を脱け出して似たようなことしていたそうだ。


「すいませんねえ。私がジャンプするともしかして屋根を破壊しちゃうかもしれないので」

「気にすんな」


 セーレもナツメも普通にパルクールしているが、ニコは俺がおんぶしている。理由は本人の言う通りなのと、飛び損ねるかもしれないから。


「さっきからヒイロの姿も見えないし、このまま一気にホンロン城乗り込んでリイを助けるぞ」

「なあユキノ。そもそもなぜ君はホンロン城を目指していたんだ?」

「逆転送装置ってのがあるらしいんだよ。アキナのパパが作ったっていうこの世界から俺たちがいた世界に帰るための機械」

「うん?ということは君は現代日本とやらに帰るつもりなのか?」

「そうじゃねえよ。俺以外のビートル人を送り返すためだ」

 

 この世界いるばかりだとあいつらどんどん老化していくし、ここらで帰ったほうがあいつらのためでもあるだろう。


「じゃあユキノさんはいなくならないんですね」

「やったー!!!3回転半ひねり!!!」


 ニコがホッとした声を出して、アキナが今日一番の大技を見せている。

 だがふと考えた。

 果たして俺は現代日本に帰りたいのだろうか?

 俺に限らずビートル人はこの世界に転移してくるときに現代日本での記憶をほとんど失っている。親の顔もどんな学校に通っていたのかも思い出せない。

 にもかかわらず、俺はチュラから逆転送装置があると聞かされて導かれるようにここへ来た。

 ってことはやっぱり俺は心の底で帰りたがっているのだろうか……。


「アキナちゃん!前!」

「え!?わっとっとっとっと!?」


 ニコの叫びで俺も我に帰ったし、アキナは急なことに驚きながらもなんとか止まる。

 次の瞬間、目の前に巨大ななにかが降ってきた。


 隕石!?いや違う。何の音もしなかった。

 それに隕石でもない。材質は、紙ぃ?。

 巨大な紙の筒。柔らかくて白いそれがれから飛び移ろうと思っていた屋根を押しつぶす。

 数件の家があっけなくバキバキに破壊されて、大きな音があたりに鳴り響いた。

 その音が鳴り終わった瞬間、紙がふっと消滅した。

 その時に風に乗ってなんとなく覚えのある匂いがした。


 まるで最初からななかったかのようにあとにはぺしゃんこになった家々があるだけだった。

 数瞬の沈黙があって人々の悲鳴が聞こえる。この区画中が大パニックだ。


「ハヤブサだ……!」」


 下の騒ぎを見下ろしながらナツメが息をのむ。


「魔力障壁、全開!」


 必死の形相で空に向かって魔力障壁を展開するナツメ。それは俺たちの頭上をはるかに超えて広がって、周囲のみんなの身を守る傘のようだ。

 その顔には冷や汗が伝っていた。


「この状況で一番会いたくないビートル人ね……!みんな!!この魔力障壁の下に隠れて!!」


 それはセーレも同じだった。

 さっきはツンツンしていたくせにナツメに手を添えている。その顔は気丈だが、目の奥に恐怖が見える。


「「「「うわあああ!!!ハヤブサだ!!ハヤブサが動き出したぞ!!!」」」」


 セーレとナツメの魔力障壁にルビンの人々が殺到している。必死の形相だ。

 それほどハヤブサのチートが恐ろしいのか。


 次の瞬間、俺たちから遠くの一画にまたしても巨大な紙の筒が出現。

 うっすら聞こえる悲鳴と家々が瓦礫に変わる音。

 遠くから見て全体像がわかったら、匂いの正体がわかった。

 あれ、巨大なタバコだ。

 巨大なタバコが街を破壊している。


 またしても消える。ほんとにRPGみたいに消えて、今度は俺たちの後ろの方に降ってきた。

 降ってきたとも違う。とつぜんスポーンしたというほうが正しいが……。


「俺たちを狙っているわけじゃないのか?」


 その瞬間、巨大タバコがセーレたちの魔力障壁に重くのしかかる。


「「くっ……!」」


 セーレとナツメがくぐもった悲鳴を上げたので、俺も手を添える。

 魔力越しに伝わる感触は、確かに実体のあるタバコだ。

 巨大タバコを自在に出現させたり消したりするチート?そんなチンケな能力があるか?

 またしてもすぐ消える。

 そしてまた明後日の方向に出現して街をがれきに変える。


「……カクラにいるビートル人の中でハヤブサが一番乱暴だ。私たちの命を、なんだと思っているんだ!」


 ナツメが怒りで拳を震わせながらそう叫ぶ。

 確かにこれは、なんかの箱庭ゲーでめちゃくちゃやってるプレイヤーと同じだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……まあ、スマホがなかった時よりは精度が上がってるが」

「ヤマナミには感謝している。問題は俺のチートに人間も地形も表示されないことだ。だが、大体この辺だ。俺の勘は当たる」


 ハヤブサの目の前に浮かぶX軸とY軸のグラフ。

 ハヤブサは実際の街をそれ越しに眺めて、(X.Y)=(9.2)のところに拾ったタバコを当てつづけている。微妙にズラして当てて、そのたびにルビンの街の上空に巨大なタバコが出現し、街並みを潰していく。


「やっぱり僕の仮説は正しい。君のチートは、格好だけで中身がない君をまさしく体現している」


 ヒイロの言葉をハヤブサは無視した。ヒイロはいつもこういうことを言うし、いちいちそれに反応するのはハヤブサの美学に反するからだ。代わりにハヤブサは空いている方の手でパナマ帽を片目が少し隠れる絶妙な位置に直したのだった。






いつもお読みいただきありがとうございます。

おもしろかった・続きが気になるという方は、ページ下部の☆☆☆☆☆をクリックして★★★★★にしていただけるとありがたいです。

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新作を書いてみました。


『【総務】という名の雑用係、転職し【務総】に覚醒する』(https://book1.adouzi.eu.org/n2990ho/)


スローライフを送りつつ本妻ヒロインと一緒に田舎のギルドを発展させていく話、の短編です。

よろしければこちらも読んでみてください。

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