表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/170

15話 社員みんなで愛を育むファクトリー

 赤い光が、覆った。

 なんてかっこよく書いたものの、魔眼で工員を洗脳なんかしたらビートル人と同じ穴のムジナになってしまう。


 むしろ逆。洗脳を解いてあげた。

 目の前で何が起きようと平静を保つほどに工員たちは感情を眠らされていたのだから、赤の魔眼で呼び覚ましただけだ。


 死への恐れとかブラック労働への怒りとかの本来感じるべき感情を刺激した。

 その結果が今のラッダイトだ。

 数十万人のファクトリー労働者が長年押さえ込まれた感情を爆発させて、身体の全身に行き渡らせて破壊の限りを尽くしている。

 もはや暴動。


「すっげえなおい。お、火が出たぞ」


 海外ニュースで見るような光景が目の前で起きていた。出荷待ちの製品をなぎ倒して、機械を打ち壊し、生産ラインがメタメタに破壊される。

 これはこれで異世界って感じがするが、あまりやりすぎると今度は自分立ちの首を絞める結果になる。


「これで生産ラインが壊されて物が作れない。贅沢なビートル人は注文したら次の日来るのが当たり前になってるから、そのアシハラってやつにブチギレられるだろうよ」


 呆然とファクトリーを見つめるヒャクイチの顔が絶望の色に染まる。


「そ、そんな、うそだ。うそだうそだうそだ!俺はこの世界で幸せに暮らすはずなんだ‥‥‥俺の幸せな生活…誰にも縛られない生活が‥‥‥」


 現実を受け入れられなかったヒャクイチはやがて涙をぽろぽろこぼしはじめ、ついには嗚咽を上げて泣き始めた。


……俺悪役になってない?


「敵に情けをかけるなんてユキノはまだまだだな」


 上からリイの声がする。戦争が当たり前にあるようなこの世界の住人からすればそりゃそうなんだろう。


「……とりあえず最後まで終わらせるさ。俺だって生半可気持で復讐するなんて言ってないだし」


 俺は泣きじゃくるヒャクイチを再び抱えてベランダの手すりにとびのる。


「な、なにをする‥‥‥」

「スーパーヒーロー着地だ。リイの言う通り、罪悪感を覚えるようじゃ俺もまだまだ甘い」


 地上100メートル。下は火が燃え盛って暴徒が縦横無尽に走り回っている。

 そんなところに2人抱き合って身投げ。


「「ユキノ!!」」


 リイとセーレの叫びを置き去りにして、俺たちは垂直落下。

 水風船が地面に叩きつけられたみたいな音を響かせて着地した。

 着地の衝撃で二人ともスーパーボールみたいに何度かバウンドした、


「……うえっ、げえっ。気持ち悪‥‥‥‥‥‥よし、治った。やっぱお前も転移者だけあって頑丈だな」


 ヒャクイチに抵抗されたためスーパーヒーロー着地が出来なかった。だから全身を強く打った上に何度もバウンドする羽目になった。

 とはいえすぐ治った。これで次地上100メートルから落下しても無傷でいられるが、一方のヒャクイチは未だに土の上を七転八倒している。


「い、いかれて……やがる‥‥‥地上100メートルだぞ!」


 血とゲロを吐き散らかしてうめき声を上げながら地面をかきむしっていたヒャクイチは、それだけ言うとまたゲロを吐いた。すでに胃は空になっていたので胃液だったが。


「だいぶ痛そうだが、それでも生きてるなんて流石ビートル人てとこか」

「痛いなんてレベルじゃない……勝手に涙が出てきたぞ……悲しみじゃない、痛いからだ。なんて痛いんだ……全身が千切れそうだ……うげえ」

「苦しいのもわかるけど、そんな場合じゃないと思うぞ。なんせ周り360度、お前を恨んでる人間だらけだ」


 まるで男子高野球部の部室にアイドルを放り込んだみたいな、そんな光景だった。

 男子高野球部に限定する必要はなかった。女子高茶道部にイケメン放り込んでも一緒の結果だろうと思う。

 あるいはゾンビの群れにいけ好かない不良キャラを放り込んだみたいな。

 要するに、ヒャクイチが降ってきたと気付いた怒れる工員たちが自分の手で引き裂こうと襲い掛かったのだった。

 

 その手にもみくちゃにされたヒャクイチは行方不明になった。

 工員たちの迫力が強すぎて、俺もセーレたちも誰も近づけなかった。

 ぼっこぼこに袋叩きにされて人の波にさらわれて遠く行くのを見えなくなるまで眺めていた。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ボス。頑張っていけ、お前元2番隊の隊長なんだろ」

「ちがいますよ。支部隊長です。やめてくださいってリイ皇女の前で」

「私もはや皇女とはいえないし、悲しくなるからやめてほしいっていう」

「それはダメです。リイ様は私たちの希望です!」


 簡易的な舞台の袖でもたついてるボスに発破をかける。

 そばにはリイもいて、かつての部下の新たな出発を応援していた。


「人生って何が起きるのかわかんないね。かつてカクラ軍2番隊支部長だったボスがこれからはファクトリーの経営者だなんて」

「ここまでの生産システムが構築されてるんだ。まさか壊滅させるわけにもいかんからな。リボルビングなんて搾取じゃなくて、もっと健全な経営を目指してもらいたいな」


 ファクトリーはこの異世界にまさしく産業革命並みの変革をすでにもたらしている。ビートル人のものだからってこの世界から今更消しさることはできない。

 だからせめて、良識ある人間が経営者となって非人道的な搾取にならないよう努力していくべきだ。

 例えば完全週休3日制で1日6時間労働とか。

 ネッドの司会が聞こえる。いよいよボスの就任スピーチだ。


「えー、続きましては、新たにこのファクトリーの副社長になるであります、ボスさんのスピーチです。拍手でお出迎えください」


 頑張れよお、副社長。

 俺が前日教えたレンガ職人のエピソードを失敗せず喋ればどうにか格好はつくさ。

 なんせ現代日本の社長がみんな使うエピソードなんだから。

 緊張してるボスと入れ違いに、スピーチを終えた新社長が袖に歩いてくる。


「おっといたのかい、ユキノ。聞いたよ、あんたが全部仕組んだんだって?まったく人は見かけによらないねえ。しかも男だっていうし喋れるっていうじゃないか。この私をだまし切るなんて、将来きっと大物になるよ!」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「くそ、くそ、くそっ」


 ビートルバムはこっちか?現代日本ならスマホで簡単に分かることがわからない。この世界で完全なスマホを持ってるのはヤマナミだけだ。

 慣れない獣道を歩くのは疲れる。しかも久しぶりに外に出たから体力がなくなっている。俺はすぐにばててしまった。


 あの不良品め。いきなり現れて俺の全てを奪っていきやがった。


 カゲロウのやつ、いつも偉そうに指図するくせに適当な仕事しやがって。追放するなら息の根を止めておくんだろうがよ!


 俺は鬱憤を晴らすために通りかかったイノシシにリボルビング魔法をかける。

 法外な利率によって、あっという間に債務超過となったイノシシはリボルビングに命までむしばまれ、絶命した。


「これが、これさえできていれば、ユキノとかいうクソにこの攻撃さえできていれば‥‥‥」


 何回目かもわからない後悔の念が再び燃え上がる。


「悔しいね。ヒャクイチ君」


 その声は俺を冷静にさせた。

 そんな。早すぎる。いや、あの方なら当然か。


「アシハラさん‥‥‥」


 俺は死を覚悟して振り向いた。

 中世ヨーロッパ風の世界観にはおよそ馴染まない、全身白一色の青年が月明かりに照らされて立っていた。

 月明かりを反射する白とアシハラさんのにこやかな笑みが合わさるととても神々しく、ウソをついてもすべて見透かされる気がしてくる。


「あの…」

「話は見えてるよ。49番。結構厄介だね」


 この人はすべてを見通したような話し方をする。だがこの人の目を見てると本当に自分を見透かされているような気がしてくるのだ。


「でもね、ヒャクイチ君。持ち場を離れるのは感心しないな」


 アシハラ様の言葉に落胆のニュアンスを感じた瞬間、自分のみぞおちにアシハラ様の腕が刺さっているのが見えた。


「あ‥‥‥がはっ…」

「しーっ。じっとしてて、今君の心臓を握ってるから、少しでも動かれるとうっかり握りつぶしかねない」


 耳元で柔らかく囁くアシハラさんの声に、うなじの産毛が総毛立つ。頭にジンジンという微弱な電流が走って、俺は性的な興奮を覚えたように錯覚した。

 アシハラさんが徐々に握力を強くしているのが感じられた。俺の心臓がどんどん弱まっていき、ついには止まってしまった。


 アシハラさんが腕を引っこ抜く。その手には俺の心臓が握られていた。


 とてもよく見えて理解できているはずなのに、俺はなんだかとても気持ちがよくてそのまま地面に倒れて眠りたくなって‥‥‥。


「はっ!?」

「どうしたんだい?」


 俺は2本の足で立っている。みぞおちに穴も開いてない。

 心臓の鼓動が早くなる。全身から冷や汗が止まらない。

 アシハラさんは相変わらず微笑んでいる。


 どういうことだ…?今のは‥‥‥幻覚か?


 幻覚にしてはリアルすぎる。

 なら何で俺は生きている?


「今回の件はユキノを取り逃がしたカゲロウにも責任はあるし、何よりも僕に責任がある。ビートルバムに帰ってしばらく休むといいさ。僕は連れて行かない。自分で歩くのが今回のことにたいする罰」

「……はい‥‥‥」


 震えと悪寒が止まらない。この人はチートなんてもんじゃない。もっと恐ろしい力を持っている。

 どうにかして顔を上げると、もうアシハラさんはいなかった。


 まるで最初からいなかったかのように。


 その瞬間俺は膝から崩れ落ちる。


 隣で死んでいるイノシシが今ではまるで友達みたいに見えた。

以上で第1章が終わりです。

第2章なんですが、まだ書けてません。なるはやでみなさんにお届けしたいと思います。


じゃあな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ