149話 いいよいつでもかかってきて
「いきなり火が消えた!」
俺たちはホンロン城に向かって走っていた。
もうヒイロの獅子舞は見えなくなるところまで来たら城から出る火が消えた。
あの規模を消火できるなんて相当な実力者だ。もしくはセーレとリイの合わせ技か。
「さすがに2人も動いてるかと思って電話しているのですが……」
隣で走るニコが不安そうに携帯から耳を離す。
「リイさんもセーレさんも。マナーモードでしょうか」
「だといいがな」
正直あのコンビが負けるイメージがわかない。
……って。
「ユキノ。世界語が話せるようになっているぞ」
「だよな。今ナツメの通訳なしにしゃべってたよ俺」
腕を見ると、ヒイロとの逃亡劇で出来た細かい傷が無くなっている。
サッチャンに奪われていたチートが戻った。
「え!?じゃあセーレとお姉ちゃんが勝ったってこと!?!?!?やったあああ!!!」
グッドニュースに俺たちの間に喜びが満ちたその時だった。
燃えていた部屋の向こうの中空で何かが爆発した。
本当に火が燃えているような、現代日本みたいな火だった。
「……え、え、え!!?」
アキナが気付いたのに数瞬だけ遅れて俺も気づいた。
煙の中からセーレが出てきた。
四肢は力がなく、ただ爆風に飛ばされている。
考えるより先に脚が動いて、気づいたら空の上を跳んでいた。
一歩ごとに魔力障壁を足から噴射して空を走る。
セーレの軌道を予測しながら俺は近づき、落下の勢いを殺すようにしてキャッチ。
初めて会ったとき、あのロンドの城からゴミと一緒に捨てられていた時と同じ、全身ボロボロだ。皮膚がところどころ焦げている。
「セーレ!リイといてなんで……」
抱えた状態のままナツメと協力して回復魔法をかける。
ほどなくしてセーレは目を覚ました。
「う……ん……ユキノ……」
「セーレ!大丈夫か?何があった?」
「リイ……リイが、フマに!」
セーレが俺の服を掴む。
起きたてとは思えない力だ。
「フマ?No.1のあいつか」
その時。俺の携帯が鳴った。
見るとかけてきたのはリイ。
それをみんなに見せた後、俺は電話に出た。
「もしもし」
「ユキノ!私は大丈夫!!五爪の龍の加護が、うぅっ……!」
「驚いたな。飾りではなかった」
受話器の向こうから飛び込んできたのはリイの声、そして電気の走る音とリイのくぐもった悲鳴。
「リイをどうした?」
電話の向こうの声は低く冷たかった。気の弱いやつなら怒られているように感じるような静かな威圧感がある。
「うげっ!フマの声……」
「とにかく怖いんですよ。なんか、人を寄せ付けない感じで」
アキナとニコが身震いしている。こいつがフマか。
「お前が指導して作らせたのか」
「リイをどうした?」
「この電話は正直言って脅威にな「リイをどうしたって聞いてんだよ」
人の話聞けねえのかこいつ。
凍てつくような声で一方的に自分の話だけしている。
「この時点ですでに携帯が最低2つあることが確定している。それ以上あるとみていいだろう」
「ねえ~フマちゃーん。リイは無事なんですか~」
煽ってみたけど無反応。受話器の向こうから冷気を送られている気分だ。
いや、ちょっと待て。この方向の煽りじゃないな……。
独り言しか喋れないってことは……。
「お前と仲間のも壊した方がよさそうだ」
「俺の話聞けよ。弱虫」
電話の向こうの空気が露骨に変わった。
やっぱりか。
「弱虫って俺がか?」
「強いならスルーしろよ。偽物だけあって余裕ねえな」
偽物と弱虫。
きっとこいつはこの言葉を否定しなくてはたまらなくなる。
これだけ威圧感を振舞う人間はその反面自分の弱さにコンプレックスを抱えているものだから。
「答えろ。誰が弱虫で偽物だって?」
「悪かったよ。訂正してやる。お前は偽物で弱虫で、誰にも愛されたことないヘタレだ」
バキッと音が聞こえた。
たぶんフマが強く握りすぎて受話器にヒビが入ったな。
「……俺たちは競争をしていた。お前らを誰が先に仕留めるかのだ。だがユキノ、お前だけは俺が殺す」
「そもそも正面切って闘い挑んでくればよくねえ?リイも人質にしてビビりな野郎だな」
「噂通り口の減らねえ野郎だ……!」
「ほら。日本語だから何言ってるかはわかんないだろうけど、こいつも感情のある人間なんだ」
受話器を指さしてそう告げるものの、アキナたちは顔をぶるぶる横に振って否定する。
4人とも顔が青ざめている。
「早く切って!めっちゃ怖いよ!」
「ユキノ、君は肝の据わり方がすさまじいな」
「どーすんの、ユキノ」
俺の腕の中にいるセーレが不安そうに俺の顔を見つめる。
どーすんのもなにもこうするしかないだろ。
ここまでヘタレ扱いすればフマは俺を正々堂々殺すしかなくなった。というより、プライドを刺激しないとリイが殺される危険があった。
何よりよかったのはリイを人質だとこっちが先に言えて、しかも煽れたことだ。フマみたいにプライドの高い人間が他人の言う通りにするはずがない。リイは人質じゃなくなった。
「いいよいいよ。いつでも。心の準備が出来たらかかってきな」
電話を踏みつける破壊音が聞こえて、何も聞こえなくなった。
「さて、と。もう立てるか?」
「………あ。うわああっ!?」
自分がどういう状況なのかを理解した途端、セーレはじたばたもがいて俺の腕の中から飛び出た。
顔が耳まで真っ赤だ。
だが慌ててそんな動きをしたものだからどてっと地面に転げ落ちた。
「ほら」
そんなセーレに手を差し伸べるナツメ。
「……ありがと。何回か夢に見たけど、現実のお姫様抱っこは心臓に悪いわ……って誰あんた?」
お礼を言った相手が見知らぬ女性だと気づいた途端、顔が険しくなる。
なんかみなさん、ナツメに厳しくないですか?
「私はナツメという。白兎教の聖女で……・」
俺がカジノで別れてからの経緯をセーレに話そうとしたその時。
「GAOOOOOOOOO!!!」
ヒイロの獅子舞4匹が俺たちのいる屋上に飛び上がってきた。
火事が収まってヒイロも落ち着いたのか。
「え!?なにあれ?」
「ヒイロってやつの使い魔みたいなもん。ちょっと八つ当たりしてくる」
こちとらリイを早く助けに行きたいし、肝心の転送装置のこともまだ全然知れていない。
それに俺は濡れ衣着せられているし。
ここらでストレス解消させてもらう。
俺は獅子舞4体のもとに悠然と歩み寄る。
それをみた獅子舞たちは四方から一斉に火を噴いてきた。
一瞬にして火に包まれる俺。
皮膚がどんどん焦げてきたが、それも構わずダッシュする。
「【ヒーリングファクター】っていいなあ!生きてるって感じがする」
そのまま1匹を蹴り飛ばす。魔力を乗せた蹴りは赤い獅子舞を地平線の彼方まで吹き飛ばした。
続いて2匹目。火が効かないとみるやタックルで吹き飛ばそうとしてきたのを拳が壊れるのも構わず魔力を合わせて合気で跳ね返した。
3匹目は噛みついてこようとしたので、そのまま噛みつかれて口の中で魔力を爆発させる。獅子舞はただの布に戻った。
そして尻尾まいて逃げ出そうとした4匹目を、しっぽを掴んでジャイアントスイングで投げ飛ばした。
うん。ストレス解消。
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