148話 敗北
「火か」
「か、火事じゃないですか!」
ホンロン城の大きな庭園。その片隅に風流に佇む東屋。
そこでずっと2人でスマホをいじっていたフマとヤマナミも城の異変に気付いた。
「サッチャンが追いかけていた2人の女の仕業だろう」
「そ、そうなんですか」
「そう考えるのが妥当だろう」
フマが立ち上がると、右腕の義手がガシャンと鳴った。
いまだにどうして腕を失うことになったのか聞けていないヤマナミ。言葉を選ばないとキレられる気がしているからだ。
「消化してくる。お前は逃げた2人の女を【ロック】しておいてくれ」
「え、あ、はい」
そう言ってフマが義手を城の方に向けると手のひらからワイヤーが射出される。
ここから城まで1キロはあろうかというのに届いた。
驚くヤマナミに気づいているのかいないのか、フマは一瞥もせず巻き取られるワイヤーに引っ張られて消えていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「なに!?」
「か、体が……!」
ホンロン城、王妃の寝室。
炎に包まれるこの部屋から窓を蹴破って脱出したセーレとリイ。
赤色の瓦屋根に足を下ろした瞬間、全身が痺れたみたいに動かなくなった。
「これ……もしかして、タオユエンの時の?」
「さすがにこれだけ騒げばバレるよね……!」
次の瞬間、2人の近くの壁にワイヤーが突き刺さった。
その線が来た先を見ると、空を切り裂いてやってくるフマ。
それを見たセーレとリイはゾッとする。
よりにもよって一番強い敵が来やがった。
セーレたちがはいつくばっているすぐ近くに着地するフマ。銀色の義手に炎が反射してオレンジ色に輝いている。
「ヤマナミのツキのおかげか。必要な人間が、向こうからやってきてくれた」
セーレたちを冷たい目で見下ろすと、フマはそれだけ呟いて燃える部屋に入っていく。
しばらくすると大きな魔力が爆発する感覚をセーレは感じた。
この魔力の量はもしかするとパパより多いかもしれない……見る見るうちに火が消えていくそばで、セーレは冷や汗が出た。
「くっ……!こんの……!ああっ!」
リイが気合いでヤマナミの【ロック】を弾き飛ばしたのと、サッチャンを抱えたフマが窓から出てきたのは同時。
立ち上がったリイの靴にスパイクが生える。
そして目も光る。
色は黒。相手に恐怖を与える魔眼だ。
(下手すれば相手が発狂するからって禁じ手にしてた魔眼でしょ……!)
目をそらしながらそう思うセーレ。
リイは、本気だ。
「ハァッ!!」
踏み込んだ瓦が砕けて舞って落ちるのより早くリイはフマに接近する。
フマはサッチャンを片手で抱いているししかも魔眼の光を直視した。
しかもこのスピード。
この喉を狙った前蹴りは当たる!
そう確信したリイだったが。
「ふむ。ヒキガネが避けれなかっただけはある」
「なっ……!」
フマの耳のすぐ近くをリイの脚が通り過ぎていく。
フマは眉一つ動かしていない。
その目に恐怖の感情も見えない。
「なんで!?」
魔眼が効いた様子がないのも、ぎりぎりで躱した足を冷静に捕まえることもリイは理解できなかった。
今度は幻覚の魔眼を発動しようとして、自分の目がうんともすんとも言わないことに焦る。
「お前が弱いからだろ」
そう呟いた瞬間、フマはセーレに向かって右手の義手からビームを発射する。
「いっ……!!」
それは正確にセーレの膝を貫いて動きを封じた。
セーレはちょうど鎖を飛ばして背後からフマの心臓を貫こうとしていたのだった。
「ロンドの姫に用はない。今はお前だ、カクラ」
今度は義手でリイの腹を殴打。当然両腕で防御したリイだったが、魔力の乗ったパンチは防御を貫通して内臓にまでダメージを与えた。
「ッ……!」
悲鳴を上げることもできずただうずくまることしかできないリイ。とにかく背中が痛かった。
「俺の城から出ていけ。ロンドの姫」
「ふざけんな!!ここはリイの城よ!」
片膝をついた状態でセーレが鎖を射出する。
だがフマのワイヤーの方が早かった。
フマはセーレにワイヤーを巻き付けると、雷属性の魔力を伝達。
セーレが悲鳴を上げるのも構わず、今度は空中に投げる。
「やめろ……!やめろ!フマ!」
リイが声を振り絞ってもフマは止まらない。
空中に投げ出されたセーレに向かってフマの義手から爆撃が放たれる。
「セーレ!!!」
空中で起きた爆発がリイの顔を照らしていた。
黒い煙が晴れてもセーレの姿は見えない。
吹き飛ばされたか、それとも。
「この野郎があああああああああ!!!!!」
聞いたこともないような絶叫をあげてリイが躍動する。
いつもの洗練された動きからは程遠い、感情に身を任せた蹴り。
だがそれは今までのどんな蹴りよりも迫力があった。
ガギイイイイイン!
金属同士がすさまじいエネルギーで衝突する音が城を揺らす。
リイの蹴りを義手で防御したフマ。
少しだけ眉がぴくっと動く。
「フマあああ!!!てめえは、あたしが殺す!!!」
七色に瞬く目でリイがそう絶叫する。
リイは義手を弾いて、がら空きになったフマの心臓めがけ2発目の蹴りを放つ。
理想的な角度に理想的なスピード。みぞおちにスパイクを突き刺してそのまま心臓まで蹴り抜くつもりだった。
だが、フマは落ち着いて義手の小指をカチッと動かす。
ガシャン!
スプリングが伸びる音が小さく響いて、リイの死角からフマの拳が飛んできた。
人間の腕なら有り得ない動きだ。
「かはッ……」
フマの指がリイの喉に突き刺さる。
リイはそのまま胸倉をつかまれて、身体を宙に浮かされた。
もはや抵抗する力も残っていない。
(ありえない……どうやってパンチを?)
脚と腕。私の蹴りの方が先に届くのは当然のはず。
飛びそうになる意識の中リイはフマの攻撃を見る。
簡単な話だった。腕が伸びたのだ。
バネの力を使ったロケットパンチ。ロボットなんて知らないリイには想像もできない攻撃だった。
「オリハルコンの義手にヒビが入った。なかなかすごいじゃないか」
「……放せ」
「殺せと言わないのか。気持ちが折れていないな。自分より大切な人間でもいるのか?」
その言葉がなぜかリイは一番怒りを覚えた。
フマの顔に向かって唾を吐きかける。
「力とは、人を思い通りにすることだ。お前に、ケンリウ花園を開けさせよう」
その言葉を聞いてリイは必死に抵抗しようとしたが、その前にフマの電撃で気絶させられてしまった。
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