146話 城を燃やしたのは②
ホンロン城。地下室。
現代日本への逆転送装置がある地下室の前の、そう広くはない空間。
膝ぐらいの高さしかないカウガールの人形とセーレとリイが対峙していた。
「あ、やばい。あの人形、目が緑!!」
「おっせえんだよお姫様!!!」
リイが気付いて叫んだものの、時すでに遅し。
サッチャンが使ったのはさっき自分のものにしたリイの能力、魔眼。
それも、幻覚の魔眼。
「ひゃっはははは!!能力まで取られて先手まで取られてやんの!これ以上モタモタしてたら、もっと没収してやるぜ!!」
「な、なにこれ……?景色がふわふわして……」
「セーレも?やばいよ。人形の後ろにいたヴェールが見えなくなった」
リイとセーレが見えているのはカウガールだけ。
カウガールがひとりでに宙に浮かんでいる。
それだけじゃない。まるでリゾート地の暖かくてきれいな海の中みたいなキラキラした光の幕がセーレとリイの視界を覆っていた。
「ひゃーはははははは!!追いかけっこだ!ルールは私が決める。時間内に私を見つけられなかったら、お前らから一つずつ没収していくからな!最初は何がいいかなあ……けへへへへへへ!!!」
カクカクと口を動かして耳障りに絶叫したサッチャンは飛ぶようにして地下室から出ていった。
「待て!」
追いかけて、地上への階段を駆け上がるセーレ。後ろからそれを追いかけるリイ。
さっき来たときは薄暗かった階段も、サッチャンにかけられた幻覚のせいで幻想的な明るさに照らされていた。
「うっそ。なにこれ」
「ほんとにリイの幻覚みたい……」
地上への扉を開けたセーレたちの目に飛び込んできたのは巨大な迷路だった。
本当なら一階ホールの開けた景色が見えるはずなのに、2人に見えているのは入り組んだ道だ。
「これ……こんなかにいるっていうの?」
「上から見よっか」
迷路の壁はセーレたちの背丈より少し高いくらいだ。これくらいならリイのジャンプで上に乗れる。
見立て通り、リイが軽くジャンプして上に飛び乗った。
「あ~、めっちゃ広い。けど、これ城の一階より広いんじゃ……」
「ルール違反だなあ!!没収させてもらうぜ!!!」
瞬間、またしてもセーレとリイの右肩に馬が出現した。
ただ声はサッチャンだ。サッチャンが意識を向けていると声も目も馬とリンクするみたいだ。
「下りて!リイ!」
「おっせえんだよ!!没収物は、左肺だ!」
慌てて壁から下りたリイだったが、ルールはルール。サッチャンに容赦などない。
「ぐっ……!」
馬がはっきりした形になるにつれリイは呼吸がしづらくなる。
いきなり肺の半分を奪われたのだ。思わずその場に膝をつく。
ぜえぜえと肩で息をしているのに、空気を吸えている気がしない。
「ひゃははははは!!!違反者にはペナルティだ!私だってルール守ってんだぜ!!平等だ平等!!」
「リイ!」
「……はぁっ!……はぁっ!」
片膝をついたまま苦しそうなリイ。
だが徐々に呼吸が整ってきた。
「息切れなんて……昔アキナと本気で追いかけっこしたとき以来……!」
気丈に振舞っているが片肺を奪われてしまっては、リイの身体能力も使えない。
それに気づいて迷路のどこかでほくそ笑むサッチャンだった。
「ノったノった!ひひひ!!さすがに肺を奪われちゃ取り返すしかねえもんな!」
一方、覚悟を決めたリイとセーレは迷路に突入する。
「あいつ……さっき『私もルールを守っている』って言ってた。だから、絶対この迷路のどこかにいる。それがあいつのチートの条件でもあるんだ」
「どういうこと?」
「カジノの時はサッチャンが近くにいないから馬も単純なことしかできなかった。けど今は違う。ルール判定も厳しいし、声も目もサッチャンとリンクしてる」
「それがわかったからなんだってんだよ!この迷路に入ったが最後、3日は出てこれねえぜ!!」
リイの分析は当たっていた。それにサッチャンが反論する、2人には聞こえないように。
カジノがなぜか爆発してルールが無効になったこともサッチャンは察知していた。だが今はリイとセーレに集中している。おそらくヒイロが何かしているから。
「行き止まり……!」
右左と曲がって選んでいった道が結局はずれだった。
また戻る。リイとセーレはそれを何回か繰り返して、ついに入り口まで戻ってきてしまった。
「ちょ、ちょっとタンマ。はぁ……はぁ……」
徒労感もあいまって、リイは心臓を押さえながら壁に手をついた。
いつもの体力はどこへやら。紫色の髪を乱して、額には汗が浮かんでいる。
セーレは呼吸が乱れていない。しばらく心配そうにリイを見つめた後、急に微笑んだ。
「ふふっ」
「な、なに笑ってんの……ぜえ、ぜえ」
「いや、こんなの初めてだなって」
「はぁ……はぁ……た、たしかに……アキナより走るの遅かったあんたより、先にバテるなんて」
小さい頃は追いかけっこして遊んだりもしたセーレとカクラ姉妹。追いかけっこでセーレが鬼になったときはいつまでも終わらなかった。リイもアキナも余裕で逃げ切れるから。
「で、キレた私が魔法で捕まえるのがいつものパターン」
そう言ってセーレはリイの背中におぶさった。
「あん?ふつう逆だろ。イかれたのか?」
突然の出来事に混乱するサッチャン。しかし当の本人たちは不敵な笑みを浮かべていた。
「なっつかしいことするねえ」
「アキナが私たちを捕まえられなくて、泣きながらそこら中のもの投げまくったときにとっさでやったこれを、まさか今使うなんて」
セーレを担いでリイが立ち上がる。その顔にはもう疲れがなかった。
「私の脚力とあんたの魔力。鎖があればいうことないんだけどねぇ」
「大丈夫よ。ちょうど入り口まで戻ってきたことだし、仕切り直しよ」
さっきとは打って変わって力強い足取りで、迷路内を駆け巡るリイ。セーレからの魔力供給が心肺機能をカバーしているのだ。
行き止まりについても、そのまま壁を蹴って一気に戻り、また別の道を走り抜ける。
そうやってどんどんサッチャンに近づいていった。
「はあああああああああああ!!?!??!?総当たりだと!?AIじゃねえんだぞお前ら!!」
「「見つけた!!」」
サッチャンの見立てを大きく外れて、リイとセーレはほんの数分でサッチャンを見つけ出した。
カウガールの顎がカタカタ震えて、乾いた音を小刻みに鳴らしていた。
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