144話 燃やしてしまえ②
炎から身を隠すために使った屋台が燃え上がっている。
リヤカーくらいの大きさの飯屋さん。鉄板の上の麺料理が燃えて炭と化した。
「すげえ火力……!」
ヒータンよりすげえんじゃねえのあのぬいぐるみ。
「あの獅子舞、中級ドラゴン並みの火力だ」
隣のナツメも同じことを考えていた。その顔には焦りが浮かんでいる。
「どうするんだ、ユキノ?あんなのが2匹!」
「数ではこっちが勝ってる。心配するな」
「そうは思えないんだが……だって、こっちの2人は子どもだぞ」
ナツメが心配そうに見つめるのは俺たちの反対側。同じく向こうにあった屋台に隠れているアキナとニコだ。
「アキナさ……アキナはカクラの血を引いているし、強いのだろう。だがニコは、見たところ普通の少女だ」
「あー、たしかに」
「聞こえてますよ。そんな広い路地でもないですし」
その瞬間、獅子舞2匹が同時にブレスを放ってきた。俺たちの視界が一瞬で真っ赤に変わる。
だが屋台と魔力障壁のおかげで俺たちにダメージはない。
火が消えて、獅子舞もそのことに気づいたみたいだ。
後ろ足だけで立ち上がって長く伸びたかと思ったら、こんどは姿勢を低くして足で地面を掻いている。まるで闘牛。
「まずい!しびれを切らして突っ込んでくる。このまま全員踏みつぶす気だ!」
「ニコ!」
「もうやりましたよ。大丈夫です。魔力障壁は展開したままでお願いします」
「やったって何を!?」
俺たちの阿吽の呼吸についていけず半ばパニックになるナツメ。
そうこうしているうちに獅子舞が俺たちを屋台ごと吹き飛ばそうと突進してきた。
それはアクセルをべた踏みした自動車並みで、本来なら俺たちなんてひとたまりもないはずだった。
そう本来なら。
ドガッシャーーーン!!!!!
正面衝突みたいな音が路地中に響き渡る。
俺たちは無事。そして屋台も無事。
自己のダメージを受けたのは、獅子舞だけだ。頭を強く打った衝撃で、その場で気絶している。
「嘘……なんで……?」
「この屋台の素材を作り変えてミスリル並みの強度にしました。中級ドラゴン並みといえど、そんな物体に頭から衝突して無事でいられるはずがありません」
「……も、もっかい聞いても意味が分からなそうだ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
獅子舞2匹の後、ヒイロは目立った攻撃をしてこない。怪しいけど、とりあえずはホンロン城に近づいていく。
「そうか!ニコはドワーフ族なのか。それでそんな素晴らしい力を」
「素晴らしい、ですか。そうですか」
素直に褒められてニコの口角が少しだけ上がる。
「それに君も苦労したんだろう。ビートル人のもとで大工なんて、ストレスで顔が歪みそうだ」
「まぁ、我慢強い方なんで」
肩をポンポンされて、ニコはまんざらでもなさそうだ。
ナツメとニコが仲良くなっているのを背中で感じながら、俺とアキナは道を選んでいく。
「選んでいくというか、ほとんど一本道だけどな」
俺たちの両脇を取り囲むレンガ造りの壁。それが途切れなくなった。
それでもホンロン城には近づいているからいいんだけど……。
「違う!!やっぱおかしいよ!」
一緒に走っていたアキナが立ち止まる。
この状況がおかしいことに疑問を持っているのは俺だけじゃなかった。
「これ……ホンロン城を回り込んでいるよな?」
「うん!!もっと短いルートある!」
そういうとアキナはジャンプして塀に飛び乗り、そのまま民家の壁をジャンプして屋根に上った。
「すっごい……猫ちゃんみたいだ」
「あー!!!張りぼて!!!偽物の壁が道をふさいでいる!!!」
「まずい……!」
アキナの大声はヒイロにも聞こえているはずだ。
俺はナツメを抱きかかえる。
「きゅ、急に抱き着くんじゃない!ま、まだ闘いは終わっていないんだぞ!そういうのはもっと落ち着いたロマンチックな夜に……」
「早口で何言ってんだ、お前。ニコも」
俺はニコも抱きかかえる。その瞬間、近くの壁の一部が独立してが動き始めてこちらに迫ってきた。
ヒイロが操っている壁が通路を塞いで、俺たちを誘導していたんだ。
それがバレたら今度は、俺たちをバッタンみたいに押しつぶそうと迫ってきた。
だが一手俺のが早かったな。
俺は魔力障壁を足から射出して一気にアキナのいる屋根まで飛び上がる。
瓦づくりの屋根、そんな家々が集まっているのは現代日本で言うと京都に近い。そしてホンロン城も見やすい。
「最初からこうやって屋根伝いに行けばよかったな」
「っていうわけでもなさそうですよ」
ニコが指さす方向、獅子舞も俺たちと同じく屋根に飛び上がってきた。
青と黒。
「ユキノ!反対側もだ!」
ナツメが指さす方向からは赤と白。
こっちの2匹は頭がひしゃげている。さっきの奴らか。
「もとが物なら、頭がつぶれたくらいじゃ死なねえってか……」
「ど、どうする?」
4匹の獅子舞に囲まれてナツメが不安そうだ。
「大丈夫だ。4匹出現して、ようやく見えた」
「視えたってなにが?」
「糸」
「糸?」
こいつらがヒイロの操り人形なら、絶対に糸でつながっているはずだ。
トランプに首を切られた時からずっと注意して視て、ようやくヒイロと獅子舞たちとが接続されている魔力の流れが見えた。
「GYAOOOOOOOO!!!」
獅子舞4匹が一斉に口に炎を溜める。4方向からのブレスで一気に勝負をかけるつもりか。
俺は手のひらに円盤状の魔力を展開。
回転数をどんどん上げてカッターにして、獅子舞たちの頭上めがけてブーメランみたいに投げた。
赤青白黒。それぞれの頭上を通り過ぎただけに見えた俺の魔力カッター。
だが次の瞬間、獅子舞たちの口から炎が消えて、ふっと力が抜けたように地面に倒れた。
「よっし。成功!」
「も、もしかしてユキノ……魔力のつながりを切ったのか?」
「おう」
「すっごーーーい!!!」
驚くナツメと拍手喝采のアキナ。
……だが、切っただけじゃ不十分だったな。
「ユキノさん。復活しましたよ」
「やっぱな」
もう一回魔力カッターを展開して投げる。今度は2つ作った。
生気がみなぎりかけた獅子舞たちが再びこと切れる。
だけど。
「ジリ貧か……」
こうなったら切りながらホンロン城に近づいていくしかない。
そう考えていたところ。
「……復活しねえな」
3回目に糸を切った獅子舞たちがうんともすんともいわなくなった。
別の戦法かと思って辺りを見回した俺たちが見たものは。
「やばい!!ホンロン城が!!あたしの家が!!!」
「も、燃えてる……」
ホンロン城から火の手が上がっていた。
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