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143話 燃やしてしまえ①

 カクラ首都ルビン。その名の通り中華風の国の中華風の街。

 メインストリートから一本裏に入ると背の低い建物や空き地が目立つようになって、空が広くなる。

 この状況で俺たちは今から正体不明の敵と戦う。


 俺とナツメとニコとアキナは互いに背中合わせで四角の陣形を取った。

 誰が言いだしたわけでもなく自然とそうなった。


 さっき襲ってきたのはトランプだった。そいつはまるで意思があるみたいに動いて俺の首を掻っ切ってどっかに消えちまった。


「敵はトランプを操る能力者ってことでいいのか?」

「いや違う。ヒイロは、トランプ以外も操れる」


 隣にいるナツメはそう答える。その顔には本当に嫌そうな表情が浮かんでいる。


「あいつは、物を生き物みたいに動かせる能力があるんだ。それでこの街を監視している」

「もしかして!さっき私の襟にくっついてたコインも!?」

「今考えるとな。すでにわたしたちはマークされていた……」


 なるほど。カゲロウがコロッセオに来た段階で、すでにあいつらも動き始めていたってことか。


「この街を監視しているって言ってましたけど、ということはこの付近に本体はいないと?」

「そうだな……やつ自身はホンロン城のどこかにいる」


 ナツメの返事を聞いたニコは警戒心をより一層強くして、手を地面に置いている。

 

「だとしたら意味が分かりません。1人、こちらに近づいてきています。そういう振動が、地面から伝わってきています」


 ニコが向いている方角に、俺たち3人も一斉に顔を向ける。

 俺たちが中心に陣取っている空き地。その柵を、独りのおじさんが越えようとしていた。

 恰幅のいい体格で、背中にはリュックを背負っている。商人だ。


「おじさん!!こっち来ないでよ!!私たち今取り込み中だから!」


 アキナの叫びにおじさんは耳を貸さない。それどころかその歩くスピードを上げた。


「おじさんのためを思って言ってるんだよ!!帰って!」

「あれがヒイロ、ではないな」

「違うさ。中年は転移してこない」


 ただでさえ寿命が短い異世界人からわざわざ中年を召喚しはしないだろ。

 だったらあのおっさんはなんだ?子分か?


「それも違うと思いますよ。地面から伝わるこの歩調、あのおじさんはこっちに来たがってないです」

「強制的に歩かされてるのか?」

「ええ。いったいどうやってかはわかりません」


 もうおっさんは俺たちから表情がわかるくらいの距離まで近寄ってきている。

 歩くスピードは小走りくらいなのに、その顔には油汗が浮いていて目は怯えている。

 どう見ても凡庸な小市民で、これで敵だったらとんでもない演技力だ。


「おい君たち!いったい何が起こっているんだ!?私はこんな汚い路地に用なんかないんだぞ!それなのに、足が、足が止まらない!誰かに押されているのか!?首も回せないんだ!」


 歯をガチガチ鳴らしながら俺たちに助けを求めるおじさん。

 自分でもわけがわからず歩かされているらしい。


「止めてあげます。後で文句言わないでくださいよ」

 

 ニコがそう呟いた瞬間、おっさんの足元の土が盛り上がる。見事つまづいたおっさんが何の受け身も取らず前のめりにこける。

 足を伸ばせば届くくらいの距離。ひとまず安心……。


 いや!背中にトランプ!

 

「魔法障壁!」


 俺は魔法障壁を展開して飛ばす。花びらみたいに舞ってこっちに飛んできているトランプを撃ち落とした。

 俺たちは無事だったが、おじさんはトランプに切り裂かれて重傷だった。


「おじさん!」

「行くな!おそらく罠だ」


 苦しそうに呻くおじさんのもとにナツメが駆け寄ろうとしたのを制する。

 ナツメは悔しそうに歯を食いしばった。


 すると、助けの手が来ないのに気づいたおじさんがこちらに這いよってきた。


「た……助けてくれぇぇぇ。俺は商人だから回復魔法は下手なんだ……これから商談に行かなくちゃいけないんだ……!!」


 手をこちらに伸ばして救いを求める。その顔は血と泥で汚れていた。

 俺が握ったナツメの腕に一層力が入る。手を離せばすぐにでもダッシュで駆け寄っていきそうだ。


「……これ以上の悪意なんてあるのか!?」

「あるさ。ビートル人だぞ」


 さすがにこれ以上、距離を詰められるのはまずい。アキナもニコも悲しい表情を浮かべておじさんに釘付けになっている中、俺は遠ざかろうと促す。

 その瞬間、おじさんの持っていたバッグからごろごろと何かが転げ落ちてきた。


 それは白い球と赤い帯のようなものだった。よく見ると、球には糸がついていて、帯みたいなほうは帯ではなく小さい赤いストローみたいなものが連なって蛇腹みたいになっていた。

 白い球は何個か転がってきて、赤い蛇腹は結構長い。

 そいつらに手足が生えてこっちに向かってきたのと、アキナが絶叫したのは同時。


「爆竹と花火!!!!」


 次の瞬間、まるで春節の中国みたいな煙と音と火花の集中砲火が俺たちを襲った。


「魔力障壁!!!」


 俺とナツメで魔力障壁を展開。何百層にも重ねたそれを越えて音と熱と煙の臭いがしてきた。


「何とか防げたけど……まずい」


 煙が晴れた後辺りを見回してみた。ニコが爆発の寸前に地形を変えてくれたのもあって俺たちに被害はなかった。

 だけど、建物の間から見えるメインストリートがざわついてる。路地裏でこんな騒音が起きれば当然だろう。


「おじさん……おじさん!」


 ナツメが飛び出し、焦げたおじさんに回復魔法をかける。どう見ても手遅れなのに、その手を止めない。


「もう行くぞ。可哀想だけど」

「うぅっ……ちくしょう……ちくしょう!」


 俺が手を引いたら素直に従った。頬を涙が伝っているが、その顔には怒りが浮かんでいた。

 ナツメは単に感傷的なだけじゃない。


 俺たちは空き地から移動する。

 監視されているから、より細い目立たない道を選んで、ホンロン城から遠ざからないようにしたい。

 だが。


 パァンッ!!


 ホンロン城に近づく道には必ず花火と爆竹が先回りしている。


「向こうも想定済みってか……!」


 だがこんなこけおどしで止まるような俺たちじゃない。


「むしろこっち行けばホンロン城に近づけるって教えてくれているようなもんだ」

「強気だな、君は」


 煙が晴れた道を突き進む。

 屋根と屋根の隙間から見えるホンロン城が徐々に大きくなる。

 次の分かれ道で爆発したほうを進んだ次の瞬間。


 俺たちの眼前に大きくて派手な生き物が立ちはだかった。


「なんだ!?」


 そいつはまるでカラフルな獅子舞だった。まるで中華街のお祭りで出てくるようなデフォルメされたモコモコの幻獣。軽自動車くらいの大きさだ。

 しかも2匹。白と赤。


「お祭り用の獅子舞!!懐かしい!!ってそんな場合じゃない!」


 この世界でもお祭り用らしい。

 だが重要なのはその後だ。


「やばいよ!この獅子舞、設定では火を吐いて邪気を払うって……」


 アキナが言った通り、目の前の獅子舞2匹が俺たちに向かって炎のブレスを吐いてきたやがった。

 とっさに物影に隠れながら思う。

 神話の伝承を設定とかいうんじゃない。





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