141話 カジノ破壊
「以上がこのルビンにいるビートル人全員だ」
「フマとハヤブサとユタアキラとヒイロとセラセラとサッチャン、でカゲロウ。ま、確かに現代日本人的な名前だな」
俺とナツメはいったん選手控室に引っ込んだ。
観客は俺がナツメに勝ったのを見てとっとと不満そうな顔で帰った。一応、彼らも白兎教の信者のはずなのに。
「そもそも信仰心があれば、私を闘わせたりしないさ。彼らは信仰が薄い」
それにさっきから裏方のスタッフが一切近づいてこない。
「そら離れたいさ。もうすでに君は狙われている。今言った6人の誰かか、あるいは全員から」
「なるほど。手っ取り早くて助かる」
「こ、好戦的だな」
ちょっと引いた顔をしているナツメ。
心なしか、リアクションが現代日本の女子高生っぽい。
「お前は離れなくていいのか?」
「離れたって同じ事だからな。白兎教はビートル人たちに目をつけられているから。むしろ、君のそばにいたほうが安全だ」
それを直接言っちゃうなんてなかなか肝の据わった少女だ。
そう思いながらナツメを見る。
するととぼけた顔で見つめ返してきた。素で言ってるな。
「俺のそばも結構危険だと思うけど」
「でもほら、私通訳として必要じゃない?」
「確かに必要だけど……お前ビートル人のこと嫌いなんじゃなかったのか?」
「君は例外だ。私の直感がそう言ってる」
真っすぐな目でそういうナツメからは何の迷いも感じられなかった。
計算しないタイプだな。
「むっ。今なにか失礼なことを考えていただろう。根拠ならあるぞ。君はさっき、私のために怒ってくれた」
頬を膨らませるナツメ。演技っぽいけど、ほんとに素でやってそうだ。
さっきってカゲロウと闘ったときか
「まあ確かに、カゲロウがイキったこと言うからムカついてはいたけど」
「そうやって人のために怒れるということは、君がいいやつという証だ」
キメ顔のナツメ。非常に整った顔もあってきまっている。
「それに私を相棒にすれば、こんなメリットもあるぞ」
そういうとナツメはおもむろに屈んで俺の足の甲に手をかざした。
そこにはカゲロウの酸でつけられた傷がある。
「白兎教の聖女にエントリーする条件。それはなによりもまず回復魔法に秀でていること」
見慣れた緑色の光が俺の足を包み込む。それはセーレのものよりも触感が柔らかで、まるで暖かいシルクの包帯で優しく押さえられているようだ。
「これは自慢だが、私の回復魔法は世界一だ」
その自負にふさわしく、俺の足はあっという間に治癒した。
「すごいじゃないか。セーレよりすごい」
「ふっふっふ。そうだろうそうだろう」
治療し終えたナツメはドヤ顔の上目遣いという器用な顔をしながら立ち上がる。
「きっと君こそが、わが白兎教の待っていた救世主にちがいない。そう信じてるんだ」
腰に手を当てて堂々とそう宣言するナツメ。
リング外に運ぶときにもちらっと感じたが、こいつ思い込みの激しいタイプだな。
「ありがとう。痛くもなんともない」
「な?私は使えるだろう~」
「たしかに。けど、俺が救世主かどうかは保証でんぞ。白兎教をビートルバムから独立させたい、だっけ。お前の夢を手伝う余裕はない。俺は仲間を助け出さないといけないから」
セーレとリイがどこに連れていかれたのかはわからないが、あいつらはきっと大丈夫。問題はあの年少組2人だ。
「救世主はえてしてそういうものさ」
ナツメは基本自分の意見を曲げない。一人で満足そうにうんうんうなずいている。
「2人に電話して大丈夫か?しないほうがいいか……?」
確かあいつらが案内されたのはキッズルームだったな。
なんて思考を巡らせながら、俺はナツメに案内してもらう。
彼女は999人と闘ってきただけあってコロッセオに詳しい。
「ところで、おい馬。お前って増えるのか?」
「知らねーよー。けど、取れる能力は1人1つのはずじゃねえかぁ?」
人の肩の上で横になっていた馬は他人事みたいにそれだけ答えて寝返りを打った。
「待てよ。もう一つ。ルール違反するつもりなくても発動すんのか?」
「強制的にカジノから出されちまった場合ってことかぁ?するよ。当たり前だろお?」
「そうか。じゃ、あいつらを救出するにはこれしかない」
まるで目抜き通りをデートするみたいな自然さで俺とナツメはコロッセオの通路を歩く。
「ここがコロッセオとホンロンカジノをつなぐ通路だ。カジノのどこにつながってるのかはわからない。で、どうやって救出するんだ?」
途中、係員の何人かとすれ違った。表立っては何もしてこなかったけど、絶対にビートル人どもと連絡しているはずだ。
やるなら早くそしてなるべく大きくやらないと。
俺はおもむろにナツメの手を握る。
「ひぁっ!い、いきなりだなあ!きれいな街並みを見てロマンチックな気分になったのかぁ!?今はそんなことしている場合じゃないが、しょ、しょうがない……エスコートしてくれるなら……い、いいよ……」
「何を目つぶってんだよ。変な妄想に走るな」
しかもスキャットマンジョン並みの早口で。
バツ悪そうに眼を開けたナツメ。徐々にブラウン色の瞳が現れてきて口をとがらせている表情は、確かに可愛い。
「君は思わせぶりなやつだ。聖女にとっては刺激が強すぎる」
「徐々に慣れてくれ。ああそれと」
俺は空いている方の手でポケットから携帯を取り出す。この数日間誰にも携帯がバレなかったのは、ルビンに来るまでの長い船旅でニコが携帯の小型化に成功したからだ。我がチームのエンジニアは探求心と知性が末恐ろしい。
「もしもし」
「もしもし……ってなんだ?ビートル人の誘い文句か?それにそんな細い板を耳に当てて、これがかっこいいのか?」
「はいもしもし。すいません、身を隠してたので出るのに時間がかかりました」
「いいよ別に、そんな」
そんな実直な技術職みたいな挨拶しなくても。
「うおおっ!ビートルバムの利器だ!」
「ユキノさん、隣に誰かいるんですか?」
案内音声みたいな話し方なのがニコなのにこの時はやけにトゲがあった。
それは初対面でさえ察知できる程でナツメは口に指をあててニヤニヤしている。
「詳しい説明は後で。トイレにいるなら話が早い。アキナも連れてきてくれ」
「外にいますよ。アキナさんアキナさ……「やっほーーー!!私めっちゃ稼いだあ!!」」
2人とも元気そうだ。
「じゃあ2人とも。聞きたいことはあるだろうけど、とにかく個室から出ないで、姿勢を低くしておいてくれ」
「わかりました」「わかったー!!」
ニコとアキナに事前連絡を入れたら、今度はナツメだ。
「……ビートル人の男は、女性の手を握りながら別の女性と会話する性癖があるのか?」
「…………確かに今までは手をつなぐ必要はなかった」
だけど、長い間手をつないでいたからこいつの魔力の流れが大体つかめた。
「今から俺が魔力をお前に流すから、さっきの試合で俺に放った魔力の壁をカジノに向かって放ってほしい」
「いいけど……建物に穴をあけるほどではないと思……うぅぅっ!!!」
喋ってる途中で魔力を流し込んだら、かなりびっくりしている。
「す、すごい魔力だな……さすがビートル人。こんなおっきい魔力は初めてだ……!」
顔が紅潮しているナツメだったが姿勢を崩すことなく手をかざす。
さっきの比じゃない魔力が手に溜まっていく。ナツメの魔力のきめ細かさはそのまま、目の前に巨大な壁が出来上がっていく。
「いっけええええ!」
高密度の壁がナツメの号令で一気に射出される。
すさまじい速度でホンロンカジノの壁に衝突したそれは、壁を破壊して止まるどころかそのまま押し進んで、カジノ会場を建物ごと吹き飛ばした。
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