140話 Side ビートルバム 逆転送装置
今回登場したビートル人
No.12 ヒイロ チート名【Loveマシーン】:無機物に命を与えることができる。
サッチャンとユタアキラの小競り合いを力技で収めたフマが自分の席に戻る。つかつかと彼が歩く間に2人はすっかり静かになってしまった。
サッチャンは人形を動かしてないので感情が見えないが、ユタアキラはヤマナミのほうを見ておどけた顔をしてみせた。
「さて、先ほどヒイロから連絡があったとおり、ここルビンにユキノのやつが現れた」
声に覇気があるわけでもないのにフマが話始めた瞬間、場の空気が一変する。
この会議に参加しているのはヤマナミを含めて全部で6人。そのうちフマの隣に座る2人はさっきから一言も発していない。
片方は女の人で、まるで洋画に出てくるアジアンビューティの人みたいだ。姫カットの黒髪ロングヘア―で、切れ長の目に紫の口紅。なによりどこで調達してきたのか、黒地に金色の刺繡が入ったチャイナドレスを着ている。
ヤマナミがウララとは違う冷たい妖艶さに目が離せなくなっているのに、彼女のほうはそれに気づくことなく、ぼんやり机に視線を落としている。
「で、それを聞いたカゲロウが怒りに身を任せて弔い合戦に向かっていった。以上が今の状況だ。ヤマナミ、今カゲロウはどこにいる?」
「あっ!えっと……え~……これは、コロッセオの隣のホテル、ホテルです。そこから動きがありません。待機中……?」
「……No.49と闘って敗北したと考えるのが妥当だろう」
フマが腕組をして背もたれにもたれ、天井を見ながら話を続ける。
「コロッセオにいたということは、No,49はサッチャンの能力でチートを奪われていたはずだ。なのにカゲロウが手も足も出なかったとは」
「ま、一対一であるという前提ではあるが」
フマの感想に口をはさんだのは、チャイナドレス美女の向かいに座る白いニットを着た少年だった。白いダルダルの長そでにぼさぼさの髪の毛。分厚いメガネのせいで顔の輪郭がゆがんでいる。
とてもチキンみたな外見なのに言うことは言うタイプなんだ、とヤマナミは恐る恐るフマのほうを見る。
「回収します?」
「いや、いい。No.49が白兎教の指導者と接触したのもとりあえずは静観しておけ。それより、仲間のやつらを探すぞ」
その瞬間、ヤマナミ以外のビートル人たちの表情が変わった。互いを視線でけん制しあっている。
「競争ね。負けないぞっ、ってね」
「けはははは!!ルール違反はあたしが見張ってっからな!!」
「もうスタートってことでいいな」
ヤマナミが競争の意味を理解しかねている一方、ハヤブサはポーカーの手札を置いてとっとと出て行ってしまった。
「え……みんなで、探さないの?」
「各自勝手にやった方がコスパいいから。僕たちの場合は」
ハヤブサが席を立ったことでヒイロの姿がよく見える。彼はポケットからチップをじゃらじゃら机に出していた。カジノでベットするときに使う色とりどりのコインが机に散乱。
目の前に転がってきた一枚をヤマナミが拾ってみると、裏表に目と耳が落書きされている。
「【Loveマシーン】。動くから、置いといて」
「あ……ごめんなさい……動く……?」
その瞬間、コインに描かれた目がぎょろりと動いて、ヤマナミはとっさにコインを落としてしまった。
落ちたコインは縦に着地して、手足が生える。そのままとことこ他のコインと合流。みんなで連れ立って、窓から出ていった。
「とりあえず、ホンロン城とカジノを探すよ。偽名使ってるだろうけど、顔はイタミの写真で割れてるんで」
ヒイロはスマホをいじりながら退室した。
「じゃ僕も行きたいんだけど。ヤマナミさんは……あとなんか仕事あるのかな?ないなら、裏門のとこまで送ってこうか?」
「え……あ……どうなんでしょう」
ユタアキラも立ち上がる。親指でドアのほうを指しつつヤマナミを見て、フマに判断を仰いでいる。
ヤマナミはわけもわからずここに連れてこられている。うかがうようにフマを見ると、
「ヤマナミはこの後俺と地下室だ。ロンドへは俺が帰す」
「了解っす。じゃ、またね。また今度よかったらルビンの街とか案内するよ」
「あ、ぜひぜひ」
「ウララさんも誘ってね」
ヤマナミが2人きりを警戒していると思ったのか、ドアの向こうからユタアキラは最後にそう付け加えた。
ユタアキラがいなくなって視線を元に戻したヤマナミの視界の端に、紙切れがカットインしてきた。
「……え?」
それはおみくじみたいな小さい紙で、差し出してきたのはチャイナドレスの女性だった。
「あんた。今日ツイてるよ」
「……何が、ですか?」
「少なくとも死にはしないってこと」
受け取った紙切れには小吉とだけ書いてあった。意外と丸い手書き字。
唐突なアプローチに上海女マフィアみたいな外見。
「あ……ありがとうございます。えっと……」
「セラセラ、No.16。いいことあったらいいね」
冷ややかで低いトーンの突き放すような物言いのセラセラは最後にちらっと優しいことを言って会議場を後にした。
サッチャンはいつの間にかいなくなっていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
フマの後ろにくっついて地下室への道を行くヤマナミ。
地下へもぐる階段を下りる段階になってはたと気づく。
(……2人きりで地下室って……危なくない?)
どんどん暗くなる視界と静かになる空気でヤマナミはどんどん不安になってきた。
よく考えれば地下室に何があるのかも教えられてないし、そもそもなんで2人きりなのか。
(ラッキースケベ……ラッキースケベだけは気をつけないと)
なによりここまでの道のりは複雑で険しかった。一人で帰るのはきつい。
「ついたぞ」
ヤマナミが身を固めていることなど露知らず、フマは重い扉の前に立つ。
「俺たちの寿命については聞いてるな?」
「ほえ?」
「教えてもらってなかったのか……俺たち異世界人は、この世界の環境に適応するため免疫系が活性化し続けていて寿命が通常の半分もない」
「えっ……」
ヤマナミが放心しているのにも構わずフマは扉を片手で開ける。
中はまるで、あの部屋のようだった。
「我々の延命に必要なのがNo.49の【ヒーリングファクター】。そのために俺たちはNo.49を制圧する必要がある」
正確には部屋の真ん中に置いてあるものに見覚えがあった。
ヤマナミがカゲロウとイタミと一緒に取り組んだ初めての仕事。
「これがプランAだ。もっともNo.47が消えやがったから難航しているが」
「……」
「だがもう1つ、プランBがある。それがこの逆転送装置だ」
フマの説明も話半分の中、それでもそのゲートの前に立つヤマナミ。それは確かにロンドの転移装置によく似ていた。
「カクラが俺たちを送り返すために作ったものの未完成に終わったこいつ。これの起動のカギとなるのが、お前だ」
「……どうしてですか?」
「スマホだ。お前は現代日本とつながっている」
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