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139話 Side ビートルバム カクラの7人

今回登場するビートル人


No.14 ユタアキラ チート名【Magical Mystery Tour】:指定した範囲内で手品を現実にすることができる。

No.25 サッチャン チート名【Dirty Harry】:ルール違反した者から能力や物を没収する。自律型。

 ホンロン城。裏門。

 カクラ帝国の王家がかつて居住していた王城、その裏口に当たる北門に、ワイシャツ姿の青年と私服の女子高生と右腕が義手の少年が突然姿を表した。


「じゃあ俺はこれで。ヤマナミ、宮殿に帰る時は連絡してくれ。スマホはもう使えるんだろ」


 ヤマナミがうなずくのを確認したワイシャツの青年、AWLはすぐさまチートを使って姿を消した。AWLは残業を嫌うのだ。

 残された2人、ヤマナミとフマが門をくぐる。すると数百人のメイドたちが一斉に出迎えた。


「おかえりなさいませ!フマ様!!」


 面食らっているヤマナミをよそにフマは当然のようにメイドたちの間をすたすた歩いていく。

 おろおろフマの後ろをついていくヤマナミのポケットが突如振動する。


「あ、もしもし、ウララさん。元気ですよ。元気元気」

『よかったヨ。だっていきなりスマホがブラックアウトしたから何かあったのかと』


 自室でまったりスマホをいじっていたウララは、突如画面が暗転してただの置物と化してしまったスマホにドキッとした。すぐに元に戻ったからホッとしたものの、ヤマナミの安否が気になって電話したのだった。


「実は今フマさんに挨拶したとき、うっかり触られて……」


 フマのチート【ヒューマン】は触れた相手の能力を無効化する。さっきフマがヤマナミを押し倒しうっかり胸を触ってしまったとき、これのせいでヤマナミのチートが無効化されてビートル人たちが持っているスマホが一時機能停止になったのであった。


『ラッキースケベ!!!!』


 ヤマナミの説明を聞いたウララの怒声が受話器をつんざいて辺りに響き渡った。

 その声の大きさに近くのメイドたちがビクッとなる。

 フマも振り向く。目つきが猛禽類みたいにきついわ、襟の大きなロングコート着ているわで、そんな人に見つめられてヤマナミはむしろそっちにビクッとした。


「不可抗力だ。他意はない」

『あんなこと言ってるけど、絶対他意しかないヨ!!気をつけてネ!ヤマナミちゃん!』


 ウララは最後にそう叫んで電話を切った。


「ずいぶんと、気にかけられているじゃないか。あのマドンナの懐に入るとは」

「え、そ……そうですかね……お茶会のおかげ?」


 嫌味なのかそれともただの感想なのか。フマの性格が全然つかめないヤマナミだった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 フマの後をついて広い広いホンロン城を通っていくと、ヤマナミは大きな扉の前に到着した。


(フマさんって……めっちゃせっかち)


 さっきから戸惑ってばかりのヤマナミだった。

 フマは歩くのが早く、頑張って歩かないと置いていかれそうになった。


 フマは協調性がないのだと、ヤマナミは思う。


(それになんか、やたら私たちに敵意のこもった目線を向けてきたメイドいたし)


 扉の向こうは会議室だった。赤を基調とした部屋は天井が高く、入り口そばの壁際には棚が置いてあり、陶磁器の壺が載っている。窓は丸くて、十字に板がはめられている。

 フマはそそくさと自分の椅子に座る。誕生日席の上質で背もたれの長い藤椅子。他の椅にもビートル人が座っている。

 

 その数6人。


(あれ?カゲロウがいない)


「……まあ座れよ」


 カゲロウの不在に気を取られていたら、ダブルのスーツを着てパナマ帽をかぶった青年に席を促される。青年はポーカーに興じたまま、ヤマナミのほうを向くことなく隣の空いている椅子を引いた。


「失礼します……」


 ヤマナミがおずおずと座ってもパナマ帽の青年は表情をピクリとも変えなかった。


 ヤマナミの対面には人形が置いてあった。デフォルメされたカウガールの球体関節人形が机の上に座っていて、トランプを手に持っている。椅子には黒いヴェールがかけられていた。


(え、この人、人形とトランプしてる……?)


 人形とパナマ帽を二回ずつ二度見するヤマナミ。この人は別の方向で怖い人なのか、と思った瞬間。


「どうも。初めましてヤマナミさん」

「あ、初めまして。えっと……」

「僕はユタアキラで、ナンバーは14。で、今君の隣で2ペアの手札持っているのがハヤブサ」


 ヤマナミの斜め向かい、ダブルのスーツの対面に座る青年が愛想よく話しかけてきた。

 黒Tシャツを着ておでこを出す髪型をしていて清潔感がある。口が大きいのが特徴の営業向きな顔だ。


「カクラのビートル人ってコミュ障多いからさ、ちょっと接しづらいかもしれないけど、みんなヤマナミさんには感謝してるからね」

「感、謝?」

「だってスマホ。これあるとやっぱめっちゃ便利。素敵な人には素敵なチートが身に付くってね。タオユエンでもかなり役に立ったって聞いたよ」

「え……いやぁ……そんな……へへへ」


 ヤマナミはにやにや笑って後頭部をポリポリ掻く。お世辞だとわかっていても言われるとつい嬉しくなってしまう。緊張が一気にほぐれた。


「けはははははは!!!お前しれっとチート使ったな!?しれっと使ったな!?罰として没収だ!!」


 ほぐれた緊張を再び張り詰めさせるかのように突如人形が奇天烈な声を上げる。

 次の瞬間、ユタアキラの肩に小さなデフォルメされた馬が出現した。


「没収しま~す」

「え……え、え、あの……ハヤブサさん」

「騒ぐな。毎度のことだ」


 突然の状況におろおろするしかないヤマナミが助けを求めたが、ハヤブサはどこ吹く風。ひっそりと手札の数枚と山札のそれとを交換している。


「さあ、今僕の肩に乗っているのはサッチャンのチートです。僕の能力ではないからもちろん触れません。ですが手をパンと叩くと、はい消えた」


 長い口上の後ユタアキラが手をパンと叩くと、宣言通り、肩の馬が消失した。


「けはははははは!!!さすがマジシャン!あたしの馬もあっけない!!でも、手札のほうは没収したさ!!なんだよブタじゃねえか!!だっせー!!」


 今度はユタアキラの手の上に馬が出現する。そしてむしゃむしゃとトランプを食い始めた。


「ところが僕が指を鳴らした瞬間」


 そう言ってユタアキラが指パッチンすると、カウガール人形が一瞬でぼわっと炎に包まれる。それはフラッシュコットンみたいな燃え方だった。


「あぢぢぢぢぢぢぢぢぢ!!!!!!残虐ショー!!金返せ!!」


 全身を炎に包まれながらごろごろと机の上を転がりまわるカウガール人形。目の前を火柱が行ったり来たりしている状況にヤマナミは、椅子に座ったまま後ずさる。

 顔に熱気を感じるヤマナミははたと気づく。このカウガール人形、声色はしっかりしているしなにより聞こえてくる方向が椅子にかかったヴェールの内側からだ。


「あ……この子、もしかして腹話術……」

「いい加減にしろ」


 いつの間にかユタアキラとサッチャンの後ろにフマが立っていて、それぞれの頭に手を置いた。サッチャンのほうはヴェールのてっぺんだった。

 その瞬間。馬も炎も初めからなかったみたいに消失した。


「とっとと本題に入るぞ。カゲロウがユキノを始末できる可能性は低い」

「……勝ち越せたな」


 圧倒的威圧感を見せたフマと、しれっとフルハウスをそろえているハヤブサ。

 ヤマナミはもう3日間議論し続けたかのように疲れ切っていた。





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