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137話 メイドとギャンブラー

ヒロインサイドの話です。

 謎のビートル人のチートによって能力を奪われたセーレとリイ。

 2人もユキノ同様、黒服に捕らえられてしまったが、別のところに連行された。

 ユキノと離れ離れになった彼女たちが何をしているのかというと。


「おはようございます!!ご主人様♪!」

「「……」」

「ん゛っん゛!」


 徹夜明けみたいな覇気のない仏頂面のセーレとリイにメイド長が咳払いする。

 早朝。

セーレとリイは大勢の女性たちに紛れて大きな屋敷の前に整列させられている。

 彼女たちはみな白と黒のメイド服を着て、地声より半音高い声で今到着した男たちに向けて朝の挨拶をしている。

 

「あなたたち……!馬を早く消したいなら、むやみに反抗しないほうが得策よ」

「はーい……」


 後ろからメイド長に小突かれて従ってお辞儀をするセーレとリイ。

 メイドたちの前を通り過ぎるのは、彼女たちとそう年の変わらない男女。

 このカクラを支配しているビートル人たちの顔を目に焼き付けられなかったのがセーレもリイも歯がゆかった。


「ユキノどこ行ったんだろう……」

「心配してんねえ」

「いや、別に……。にしてもなんなのこのひらひらした服。ごわごわする」

「ふふふ。ユキノに見せるんなら気合い入れて服着たでしょ?」


 リイが半笑いで聞いた質問にセーレは、持っていたハタキでその辺の壺をペンペンして答えた。

2人がいるのはさっきビートル人たちが入っていた屋敷だ。


「もっと丁寧に扱え。それおばあちゃんのお気に入り」

「ひゃー、ごめんよ~」


 さっき強めにはたいたところを今度は撫でるセーレ。

 リイの言葉に表れているとおり、この屋敷はもともとリイの祖父母が暮らしていた。

 現在はビートル人たちが暮らしており、さっき庭であいさつしていたメイドたちはこの屋敷で働いている。

 せわしなく廊下を行ったり来たりする彼女たちを視界に入れつつ、掃除道具を持って掃除しているふりをするセーレとリイ。


「しっかし相変わらず。土地だけは広いね、カクラ。この窓から見える家々って全部大臣が暮らしていたんでしょ?」

「そ。ここは人呼んで赤壁離宮。私たちの他にも大臣たちも暮らしている、いわゆる居住区ってやつだね」


 換気のために開けられた窓から見えるのは同じような形の赤い屋根の家々。大きさは現代日本の平屋くらい。かつて大臣や官僚が住んでいたそれらはメイドの住まいとして使われている。


「……でもあいつ、言葉わかんなくなっちゃってたでしょ?」

「そだね。すっごい他人みたいな感じがした」

「でしょ。とにかく一刻も早くここから出ないと……!」

「しっ」


 リイがセーレに人差し指を立てる。

 慌てて掃除しているふりをした2人の後ろを、メイド長が目を光らせて通り過ぎる。

 2人は黙々と作業して、メイド長が角を曲がって背中が見えなくなると、ふぅっと息を吐いた。

 

「この屋敷、私がいた時より人口密度高いし、それに転送装置のことも気になるんだよね」

「……ビートル人たちを送り返すことができるっていう?」

「うん。少なくともそんな装置を城で見た覚えなくてさ。あるんだとしたら離宮じゃないかなーと」


 リイの推論を、セーレはホウキに寄りかかりながら渋い顔して聞いていた。指導が必要なメイドである。

 セーレは一つのことをユキノに聞き損なっている。


 仮に転送装置があったとして、そしてそれがうまく動作するとして。

 ユキノは本当に帰ってしまうのだろうか。


「ユキノ、帰っちゃうのかな……」

「……本人はほかの奴らを返すつもりだけど、帰ってくのをみて気が変わらないとも限らないしね」


 いつも強気な顔しているセーレが金糸雀色の髪の毛をいじってしおらしくしているのを見て、リイのテンションも下がってしまう。


 と、その時。


「ユキノおおおおおお!!!!!」


 さっきメイド長が曲がって消えた角から、髪を逆立てた男が騒々しく飛び出してきた。

 その迫力にメイドたちも思わず壁に張り付いてしまう。


「イタミの敵、絶対にぶっ殺す!!」


 コロッセオにビートル人が現れたという報告を聞いたカゲロウだった。

カゲロウは肩を怒らせて大股で廊下を突き進む。

 その顔は怒りに満ちていた。目は大きく見開かれ、おでこには血管が浮いている。拳はきつく握られていた。


「どけっ!!」


 自分の行く手を塞ぐように立っていたセーレを男は手を振って追い払おうとする。

 一瞬にして反抗的な目つきになったセーレだったが、リイに袖を引っ張られ、大人しく廊下の脇に引っ込んだ。


「ふん」


 セーレにもリイにも目もくれず歩き去っていくカゲロウの背中を、セーレは眉にしわを寄せてにらみつけていた。


「あんまり悠長にしてられなくなってきたね」


 いつもは楽天的な笑みを浮かべているリイもこの時ばかりは真面目な顔になる。


「能力を取られた状態でどこまでできるか」


 そう呟いてリイは自分とセーレの肩の馬を見る。腹が膨れた馬はふてぶてしい顔してぐうすか眠っていて、ずっと見ていると肩が重たくなりそうだった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


ホンロンカジノ。キッズルーム。


「いくぞおおおおお!!!右!左!!真ん中!!!」


 確率には何の影響もしないのにいちいち絶叫してスロットのボタンを押すアキナ。

 出目はなんと、スリーセブン。

 ハッピーな音楽と光に合わせて、台の口からジャラララーっと大量のメダルが吐き出される。


「いよおおおおおおっし!!たーのしいーーー!!」


 吐き出されたメダルを手で掬いカップに入れていくアキナ。その隣にはメダルで満タンになったカップがピラミッド状に積まれていた。

 アキナはその超人的な動体視力で高速で回るスロットの目を捉え、何回も大当たりを引き当てている。

 しかし。キッズルームといえど、ここはイカサマカジノ。

 本来なら大当たりの連発などありえないのだが。


「プッシャーゲーム……規則正しく往復する押し板が当たり口にメダルを落としてくれる仕組みですか」


 ガラスに顔をつけてしげしげといろんな角度からプッシャーゲームを観察し難しい言葉を使うオレンジ髪の少女。

 周囲の少年少女が投入したコインの転がる先に一喜一憂しているそばで、ニコはいまだに一枚もコインを入れようとしない。


 ニコはわかっていた。


「メダルが溜まっているフィールドに少しですけど角度がついています。それにこの押し板の往復距離……これじゃあメダルが落ちるどころか溜まる一方じゃないですか」


 プッシャーゲームの台にそっと手を触れるニコ。

 最初のアキナも全く当てられなかった。絶対に7を捉えているはずなのに、停止するのはバナナばかり。

 これはおかしいぞとニコに相談しチェックしてもらうと、細工されていることが発覚した。

 スロットコーナーから聞こえるアキナの絶叫を耳に、ニコはそっと手を離す。


 そしてメダルを一枚入れる。

 投入口を転がって内部フィールドに落ちる。やがて押し板がやってきて、ニコの一枚をメダルの群れに押し入れる。すると積み上がったメダルの均衡が崩れて、それまで抑え込まれていたストレスを一気に開放するように当たり口に大量のメダルがなだれ込んだ。


 普通の少年少女なら狂喜する状況にもかかわらず、ニコは淡々とカップにメダルを入れていく。


 キッズルームの2人はギャンブルに勝ちまくって、眠るのも忘れていた。




いつもお読みいただきありがとうございます。

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