135話 最後の最後で散った願い
柵が上がって、俺の足についていた枷が外されると、強い力でコロシアムに押し出された。
カジノで暴れた罪でグラディエーターとなった俺は、見世物として、今から何かと闘わされる。
「ふぅうううううううううう!!今度の挑戦者は女みてえなやつだぜえ!!」
「見ろよあの肩!!でっけえ馬が乗ってやがる。あいつ生意気にもサッチャン支配人に反抗したらしいぞ!!!」
「「「「ぎゃはははははははははははは」」」」
柵を一歩出た瞬間、多分こんな感じの嘲笑、見下したような声がコロシアム中に響き渡った。
コロシアムを埋め尽くす観客は一般人のようで、その数およそ1万人は下らない。
その全員が俺をバカにしている様はさすが見世物。日頃の不満のはけ口としてしっかり役目を果たしている。
「よっぽど搾取されてんのか、この都市の住人は」
「お前、メンタル強えんだな。言葉がわかんなくてもここまでバカにされたらあたいなら泣いちゃうぜ」
「ま、対戦相手の方が重要だしな」
リングは四角で、テニスコートくらいか。リングロープの類は張られていない。魔法の影響を考えてか場外が広めに作ってある。
俺の向かい側の壁にも柵があって、今上昇中だ。
今から対戦相手が出てくる。
「jふぁ;wいじゃ」‘##&U*N!!!LKhmなlhか!!:ぺthじゃ:べtjじゃ29う5んb・dmbb、j:y4mlm@4いt23-pどjが」pちあp4yまm!z・おls・ぅsん:p5j0――-!!!」
(「さあ現チャンピオンの登場だ!!!現在999連勝中!!約束された地のために聖女様が最後に闘うのは、ワルシャノ街の大虐殺の犯人にしてタオユエン大反乱の指導者!そしてなんと、ビートル人だー――!!!」)
実況が何かまくし立てているが何を言っているかはわからないが、観客の俺への声が怒声へと変わりついに物まで投げ込まれるまでに発展している。
なによりこの実況を聞いた途端、対戦相手の女子からとんでもない敵意が発せられはじめた。
「なんか俺神に背くことした?」
目の前に来た対戦相手に俺がそう聞きたくなったのも無理はない。
彼女は巫女服に身を包んでいた。白と赤のお馴染みのあれだ。
ブラウンの髪が艶やかだ。顔はまるで現代日本でいうコーカソイドとのハーフのような顔立ちでとても美しく、多分だけど聖女ってよばれてそう。ただし頭巾から覗くブラウンの瞳が燃えるように怒っている
「ビートル人風情がなぜこのような場所にいるのか事情は知らないが、むしろ私にとって行幸。その穢れた魂を浄化しつくしてさしあげよう!」
「いや、俺ビートル人じゃない……」
「言い訳無用!!ビートル人の言葉など聞くに堪えない!」
初めて会った時のセーレよりひどい憎悪の目を俺に向ける。
ビートル人というだけでこの言われよう。よほどひどい仕打ちを受けてきたのだろう。
肩に馬は乗っていないから借金とは別の深いわけがあるとして……。
「だったらなんで、俺たちの言葉を話せるんだ?」
「わざわざ聞くなんて意地悪な……!」
「mbxlp93うm:あw@jpg!!lbsも28!!」
(「さあ!!まさに両者一触即発の状況!!試合開始!!」)
場外に席を構える実況が何らかの文言を叫んで、隣に吊るされた銅鑼を叩いた。
神楽鈴みたいな短い棒を握って臨戦態勢の聖女様が、おもむろに空いてる拳をこちらに向けてきたので、とっさにこちらも拳を差し出す。
グータッチ。
試合開始か。
「おいおいお前、ルールも知らねえのにどうやって勝つんだよ?」
「今のでわかったよ。カクラ流だ」
ドラゴンの里にいた頃、俺を鍛える目的でリイがやってくれたスパーリング。
あれとルールが一緒だと、最初の挨拶のグータッチでわかった。
「まるでカクラの民と交流したような口ぶり……でたらめを言うな!お前らビートル人が私たちに歩み寄ってくれたことなど一度だって無かった!!くらえ!私たちの怒り!!」
神楽鈴を中心に魔力が凝集して、その震えで鈴が騒々しい。魔力はやがて四角の形を成して透明な光の壁となった。
「聖女である私は人々を癒すのが仕事!それをこのように傷つけるために使うなど本来なら言語道断……!だが今回は相手がビートル人。ゆえにこの禁は無効……!」
口軽いな、この聖女様。でもわかった。なるほど、本来なら防御壁として使うこれをリングの幅いっぱいに展開して、相手を押し出すのに使うって戦法か。
密度もムラがないし、魔力もきれいに流れてるし。
なによりクリーンファイト精神が気に入った。
「押されて飛んでけ!」
聖女様の叫びを合図に巨大な黄金色の壁がこちらに迫ってくる。
「やっば。聖女様、まあまあ強いな」
「ど―すんだよ!【ヒーリングファクター】は返してやれないぜ!お前が死んだらあたいも死ぬんだよ!なまじ上等な頭を持っちまったから嫌なんだよ!お前のせいだぞ!!」
「うるせえ駄馬」
俺は幻想的な半透明の壁に向かって走り出す。
途端に客席から笑いが起こる。自殺行為だとでもバカにしてるんだろうな。
「やめろ!死ぬ気か、お前!!」
「お前じゃねえよ。ユキノだ」
俺は目の前に迫る壁に向かって両腕同時にパンチを繰り出す。
普通なら押し負けて弾き飛ばされるのがオチの、魔力で比べれば微々たる量のパンチ。
だが、そのひと突きで。
ぼごおっ!
「嘘……!」
「うまく、くりぬけた!」
めちゃくちゃきれいに流れるで高密度の魔力障壁は、例えるならナイアガラの滝。そんなもんになんとなく腕突っ込んだって、本来なら千切れるだけだ。
だけど巨大な瀧も細かく見れば水滴の集まり。わずかなズレやよどみ……そんな隙を正確に攻撃して、できた亀裂を一気に広げるイメージ。
一瞬だけなら人一人通るくらいの隙間はできる。
俺じゃなきゃこんな突破方法できなかっただろうな。
いや、セーレならできるか……?できるって言い張るだろうなぁ……。
「よっと……」
「やめろ!!何をする!触るな!私を抱えてどこへいくつもりだ!卑劣漢!……そうか、人目のつかないところで慰み者にするつもりだな!さすがビートル人汚い!その悪知恵には恐れ入る!!ま、イ、イケメンなのがせめてもの救いだが……」
聖女様は、抱きかかえられた俺の肩の上で、頬と耳を真っ赤に染め上げながら意味不明な供述を繰り広げる。
下手に返事したら余計に錯乱されそうなので無視して、俺は彼女をリング外の地面にそっと立たせる。
「あっ……」
まるで小型犬みたいにわきの下に腕を入れられて支えられた聖女様は、足に地面の感触を感じた瞬間、全てに合点がいった。
そして銅鑼が鳴らされる。
「bぇpうぃあ:!!!おあいhb2ぽj@w、03ima3l2pあgpj――――――――!!!」
何言ってるかは相変わらずわからないが、内容ぐらいさすがにわかる。
俺の勝ちだ。
今年もよろしくお願いします。
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