134話 ドナドナとグラディエーター
敵地であるホンロンカジノに潜入した俺たち。いったん出直そうとしたら、退場料なる法外な金を請求されてしまった。ビートル人の策略にまんまと嵌まってしまった。このままだと俺たちは一生外に出られない。
何も言わないままの俺たちに、出口を陣取っているバウンサーがある場所を指し示す。
安心安全♡借入相談所♡
なるほど。そういうやり口か。
一度入った奴らは二度と出さない。一生カジノ漬けにして借金を膨らませて……それで、どうなるんだ?出さないだけじゃギャンブラーが増えるだけだ。
もしかして、破産したら奴隷として売られるのだろうか。
「どうする?」
「どうもこうも、ユキ……オの残りのお金で3人分稼げるわけないわ。きっとゲームにも細工がしてあるのね」
「……そういうことにしておこう」
「ホンロン城での追いかけっこなら私に任せてよ。パパ以外で私を捕まえられる人なんていないから」
バウンサーを無視して円陣を組み作戦会議をする俺たち。
結論は秒で決まった。
逃げる一択。
「じゃ、いくぞ……せーの」
「「GO!!」」
円陣を解いた瞬間、俺たちは三方向に飛び出す。2mはあろうかというターミネーターの頭上を飛び越えるリイ。鎖を柱に突き立て高速で巻き取り素早く移動、エージェントJの股の間を通り抜けたセーレ。
俺はというと、セーレを捕まえようと屈んだエージェントJの背中を馬飛びした。
「楽勝!」
俺たちは用心棒をやり過ごした。この2人もあまり強くなかった。魔力の流れを見ればわかる。結局ロウセエネが引き取ったあの身元不明の少年のほうがまだ強い。
出口といっても角を一度曲がる。そこを曲がると長い廊下が続いていて、その先に出口が見える。押したら開く軽い扉。その窓の向こうにホンロン城の朱色の屋根が見える。
「悪人発見。没収しま~す」
あとちょっとで出口の扉に手が触れようかというその瞬間、ねっとりした厭味ったらしい女の声が耳のそばで響いた。
見ると俺の肩にちっさいデフォルメ人形がのっかっていた。
それは馬だった。馬っていうか、ロバ?ポニー?貧相なマイリトルポニーとでもいうべき、毛並みのぼさぼさした灰色の小さい馬だ。
「悪人?退場料踏み倒したことがか?」
「なにこいつ!?処罰って何!?」
「あ、こいつ触れない。多分、自律した能力」
セーレとリイの肩にも同じ馬がのっかっている。リイが掴もうとしているが手が通り抜けてしまう。
この能力の主は黒服じゃない。ビートル人の誰かによって、罠が仕掛けられていたのか。
「没収~しま~す」
さっき聞いたのと同じ厭味ったらしい声で馬が宣告する。なんというかこの声、女の肉声を加工したような印象がする。
「声の主がお前の飼い主かよ?」
「問答無用~。悪人は黙って罰せられていれば~?」
「そうかい」
「没収しま~す」
おそらく自動音声と同じで、あらかじめ決められたパターンしか話すことができないのだろう。
さっきからずっと没収没収って言ってるが、出口はもう目と鼻の先。
「話が通じねえな。セーレ、リイ!走り抜けるぞ!!」
「kj&j$>;lj」
「jkdf<OH?」
耳がおかしくなったのかと思って、もう一回同じことを言ってみた。
だけど同じだった。2人もいったい何が起きたか理解できていないようだ。
ようだ、としかわからない。リイもセーレも一生懸命俺に語りかけてくれているが、それを俺は何も理解できないのだから。
「黒服!!」
叫びながらリイたちの背後を指さしたので、2人にも伝わった。
ターミネーターとエージェントJが追いかけてきた。二人とも元ネタに準拠して絶対に走らない。
いや、この没収を知ってるのか。
「xgjs:j%&“!!!」
リイが俺たちの前に飛び出す。これは魔眼を放つ合図だ。
だがいつまで経っても、黒服の顔が何かの色に照らされることはなかった。
「……ほgwu、ghwr4くぉy……」
「没収って……」
「;afjir!39うqhん;あ!!」
「どいて!私がやるわ!!」的なことを叫んで今度はセーレが前に立つ。
同じだった。どれだけセーレが敵を鎖で捕縛したいと願っても、鎖が出現することはなかった。
「没収完了。己の罪をしっかり反省してくれよな」
馬の声に張りがあるなと思って肩を見たら、さっきと比べて明らかに大きくなっている。
「しかしお前ら度を越えてるな~。特にお前。胃袋が破裂するかと思ったぜ」
しかも喋り方も変わって、ふてぶてしくなっている。
毛並みはきれいになって、歯茎もきれいなピンク色。ぶるぶると鼻を鳴らして俺を煽ってきている。
「だけど2つも食えたおかげか、あたいも例外的に成長できたな。【全言語理解】のほうはどうでもいいが、【ヒーリングファクター】はあたいのご主人たちが喉から手が出るほど欲しいチートだな。ま、あたいは没収するしかできないんだけど」
「てめえやっぱビートル人の手先か」
「あ、やっべ口滑らせちまった!」
セーレとリイに取り憑いている馬は俺のよりも知性がなさそうだ。馬も世界語だからそれぞれのが何を喋っているのかはわからない。けれど2人のイラつきから見て低レベルな煽りを受けているのはわかる。
「それよりいいのか?早く逃げなくて。もっとも、どこまで逃げようとあたいはお前のそばを離れないけどな」
俺の馬が煽ってくるとおり、セーレとリイの向こうに黒服たちが迫りくるのが見える。いつの間にか人数が増えていて、まるでいつかのシスウのときみたいだ。
癪だが、この馬の言う通りだ。そう思ってドアに手を伸ばした途端、ひとりでにドアが開いて黒服がなだれ込んできた。
「ざんね~ん。手遅れだったなあ。お前ら3人とも労役に従事してもらうぜ~」
取り押さえられる騒ぎのなか聞こえたのは馬のイラつく声。そして視界の端に俺とは別のところに連れていかれるセーレたちが見えた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
翌日。
あの後地下の監獄にぶち込まれた俺は、一晩そこに放置された。朝になったら看守みたいなやつが来て、俺は檻の外に出された。肩に乗ってる馬を見て嘲笑いながら、何か説明をしている。
世界語なのでわからないが、どうやら俺は何かと闘わされるらしい。
「カジノの次はサーカスか。ルビンは娯楽が充実してんな」
「あたいに頼ろうったって無理だぜ。あたいも世界語がわかんねえんだ」
「駄馬が」
入ってきたのとは違う地下通路を連れられる。すると目の前に開けた場所が見えてきた。
あれは、出口じゃねえな。
闘技場だ。
セーレたちは無事なのかとかアキナとニコがちゃんと飯食ってるか心配だけど、今はどうしようもない。
とにかく、俺はこれから何かと闘わされる。
今年ももうすぐ終わりですね。一年間ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
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