133話 罠
「リーチよ!!リーチがきたわ!!今度こそ!行け!行け!!行け!!7!7!7!」
目を見開いてパチンコ台を凝視するセーレ。ポリゴンが見ても失神するだろうけたたましい色とりどりの閃光が、ロンドのお姫様の顔を照らしている。
「ああもう!!なんでよ!!」
ダメだったらしい。
現代日本でやったら即出禁になるであろうレベルの台パンをして、さっきから俺に見られていることに気づいたセーレは恥ずかしそうに髪の毛をいじくって、ズカズカと歩いてくる。
「ハァッ……健康に、悪いわ」
自覚できてるうちに止めれてよかったな。
カクラ帝国首都ルビン。この世界屈指の大都市に鎮座していたのがホンロン城。
代々カクラ王家が暮らしてきた家であり、つまりリイとアキナの実家だ。
だが現在ホンロン城はビートル人に乗っ取られアジア風カジノへと改造されてしまっていた。ビートル人との戦争で故郷を追われ離ればなれになっていたので、リイもアキナも変わり果てた実家について、ルビンに帰ってきて初めて知った。
だから潜入捜査として、客を装いホンロンカジノに忍び込んだ。
城の門をくぐった俺たちの前は、めっちゃ広い庭園が広がっていた。中央に噴水があって、そこまでの道は広く、脇にはタオユエンで見たような南国のトロピカルな植物が植えられていた。しかもこの広い道、途中からトンネルになっている。骨組みだけのトンネルには色とりどりの花が巻き付いていて、幻想的な美しさだった。しかもこの花は夜になると発光するらしい。
リイたちが暮らしていたころは、こんなテーマパークみたいな豪華な飾り立てはされていなかったそうだ。ついでにいうとフルーツを法外な値段で売っている屋台もなかったとのこと。
それは宮殿の中も同じだった。現代日本の史跡巡りと同じく案内看板に促されるまま、俺たちはまず外朝部分へと足を踏み入れた。ニコが居抜き物件と表現した通り、公務やら外交やらで使われていたっぽい名残はあるけど、もはやただの豪華なカジノだ。
現代日本でいうアジア風な雰囲気にはそぐわないシャンデリアが天井からぶら下げられ、床はワインレッドを基調としたふかふかのカーペット。行き交うスタッフはタキシードの正装。女性スタッフがチャイナドレスでかつ様々な種族がいるところにビートル人どもの欲望が垣間見える。目で追ってたらセーレに耳引っ張られた。
「……ん」
セーレが申し訳なさそうな顔をして手を出してくる。
さては有り金全部使い果たしたか。
「ツキがなかっただけよ。こっから巻き返すから1ゲーム分だけ」
パチンコは異世界人さえものめり込ませてしまう。
俺たちは一応客のフリをするために好きなゲームで遊んでいる。遊びはカモフラージュで本当は潜入経路とかを調べないといけない。
「パチンコって絶対損するシステムなんだぞ、あれ」
「そうなの。さすがビートル人、汚い」
この感じだとリイも心配だな。
俺たちはリイがいるトランプゲームエリアへと向かう。
ちなみにアキナとニコは年齢制限食らってキッズエリアに分けられた。ショッピングモールの2階にありそうなゲームコーナーで、お金をメダルに換金するのでそんな使い切ることもないだろう。
ずらっと並んだテーブルの1つ。リイはいかにも金持ちそうなおっさんやご婦人に交じって、自分に配られた伏せられたトランプをにらんでいる。
ディーラーは山の一番上をめくって、リイたちみせる。
「ペレストロイカ……されますか?」
「ポトフ」
「ポトフ」
「ポトフ」
ワックスでテカテカしたオールバックのディーラーの問いかけに、ドワーフのおっさんや指にごてごて宝石をつけた豪商のおっさん、艶やかなドレスに身を包んだ高級娼婦みたいなお姉さんが異口同音に「ポトフ」と答える。
え、あのゲームって実在してたの?
「……ポトフ」
リイもポトフした。
「……マトリョーシカ」
子が全員ポトフしたのを確認したディーラーがそう宣言し、各自に配ったカードを回収。このターンはお流れ。
「リイってギャンブル強いの?」
「さぁ……?とりあえず、あの子の魔眼に透視はないわ」
ポトフしても賭けたチップは回収されるらしい。いつまでも勝負しないと、ただ金が減っていくだけってことか。
2ターン目が始まった。セーレ曰く、リイはギャンブラーではないらしい。運動神経いいから、コツ掴むのは早そうだけど。
リイたちにカードが配られる。さっきと同じようにディーラーが山の一番上をめくる。
ジョーカーだった。
金持ちどもが息をのむ。
絶対なんか特別な役のやつじゃん。
「……ペレストロイカ……されますか?」
「ポトフ」
「ポトフ」
「ポトフ」
成金どもの投げやりな答えから察するに、ハイリスクハイリターンのパターンか。
「…………ペレストロイカ」
リイがすみれ色の目でディーラーを眼差しながら手持ちのチップ全てをベットする。
成金たちがどよめく。
リイのやつ、一世一代の大勝負に出やがったが、果たして
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「なんで有り金全部つぎ込むかな」
「ほんとよ。節操がないっていうか」
「台パンしてたやつが人のこと言えんよ」
「くっ……」
ホンロンカジノ。ラウンジ。フリードリンクで飲み放題の親切なカフェスペースに俺たちは座っている。
地獄の底みたいな落ち込み方をしているリイに俺たちは容赦ない言葉を浴びせる。
「億万長者になった未来の自分しか、見えていませんでした……」
現実は非情である。
リイは普通に負けた。全てを賭けたカードをめくってみたら、あわれブタ。ソ連は崩壊した。
リイが負けた瞬間、ドワーフのおっさんは失笑し、お姉さんは同情してリイの肩にそっと手を置いた。
「もはや俺の手持ちしか残ってない。ニコとアキナの稼ぎをあてにするのはリスクだし、もう帰ろう。これ以上ここにいたら首が回らなくなる」
「「は~い……」」
待ち合わせ時間には大分早いが、庭園散策でもして時間潰そう。
そう思って出口に向かった俺たちは黒服によって行く手を阻まれた。
ターミネーターとエージェントJのコンビみたいなおっかない2人組だ。彼らは黙ったまま、出口脇の注意書きを指さす。
「退場料!?」
「なにそれ。外出るだけでこんなに金取るなんて」
「無茶苦茶ね。さすがビートル人」
ホンロンカジノは退場料として出ていく客に法外な値段を要求していた。それはカジノで大勝ちしないと払えないような額で、そんな金をハナから持ってるやつはカジノで当てようなんてしない。
一度入ったら脱け出せない。それがビートル人のカジノってことか。
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