127話 ロックスター、自分をイジメていたビートル人の依頼を受ける
―――ビートルバム、とある森林―――
「気をつけろ。ラハル」
「はーーーーーい!!!」
トレントが地中から出した根っこをラハルはジャンプして避ける。
空中で身を立て直し、返す刀で根っこを切断。
トロントは根っこから魔力を吸収しダメージを回復する性質があるので、根っこを切断する。
ラハルも戦闘に慣れてきている。
「GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
トレントの木目みたいな顔面が痛みで絶叫。その大声は敵をひるませる効果がある
「【ロックスター】。お前から声を奪った」
ブラックジャックみたいな黒いマントをつけた少年が手に木の塊を乗せている。彼のチート【ロックスター】は触れた相手の何かを奪うというもの。
今トレントから奪ったのは喉。トレントがどれだけ苦しそうな顔をしても、耳をつんざくような絶叫が聞こえることはない。
その実年齢より大人びた雰囲気の目つきの悪い少年こそ、元ビートルバムのNo,47、フジオウである。
彼は自分をイジメていた同じくビートル人のトールを殺害し、ビートルバムから逃亡。
現在ゴオマと名前を変え、Bランク冒険者として活動中だ。
「ぎにににににに!!」
反撃しようとしたトレントの木の腕にラハルが噛みついている。
「ナイス。【吸収】ももらっていくぜ」
フジオウは悠々とトレントの恐怖にひきつった顔に触れる。
「燃えろ」
トレントが火に包まれる。
周りの木々より大きなトレントが一気に燃やし尽くされ、森に大きな火柱が立ち上る。
本来なら森中に絶叫が響くはずだが、とても静かだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おめでとうございます。ゴオマさん、大活躍ですね!!」
「あぁ……」
朗々とした受付女性の称賛にゴオマ(フジオウ)は塩対応する。
フジオウはラハル以外には誰に対してもこんな感じだ。
トレント討伐の報酬にも無関心。
「ん~。やっぱゴオマさんって紳士……!」
「今気づいたの?他の冒険者と違って野蛮じゃなくて素敵って、受付職員の間じゃ前から話題だったんだから」
ギルドの女性職員の間でじわじわ人気が高まっていっているのをフジオウ本人は知らない。
有名になるとビートル人たちに目をつけられる可能性があるのでフジオウは目立ちたくない。かといってクエストを受注しないでいると冒険者資格が失効してしまう。
そこでフジオウは地味で実入りの少ないクエストをちまちますることにした。
これが功を奏し(?)、みんなが敬遠する仕事を率先してやってくれる冒険者と評価されている。さらに、報酬についてあれこれ言わないこともギルド職員たちから好評な理由。
「がるるるるるる!!」
「怖い番犬がついてるのが難点だけど」
「なにやってんだ、ラハル?」
「ゴオマさんには関係ないことです。それより、はい、新聞」
ラハルが持ってきた素人新聞にフジオウは釘付けになったことがあった。そこに書かれていたのは、「タオユエンでビートル人とカクラとロンドの姫が同盟」。
ラクのクジラの腹の中で会ったあいつらのことだ。ってことは、ビートル人っていうのはユキノだ。
「信頼できないですよ~誰が書いたかわかんないですし」
「……だけど、タオユエンが陥落したそうだぞ」
驚いたラハルが紙面をのぞき込む。確かにそう書いてあって、また驚く。
絶対無敵だと思っていたビートル人の敗北。それも同じビートル人同士の内ゲバだ。
「ビートル人同士が、なんで喧嘩してるんですかね?」
「……知らん。性格が悪いからじゃないか」
「辛辣~。でもビートル人ってどんな人なんですかね。異世界人らしいですけど、パンとか食べるんですかね?」
そのビートル人がパン食っているところを何回も目の前で見ているのだが、ラハルはそんなことなど露知らず。
興味深そうに新聞が隠し撮りしたユキノの写真を見つめている。
「気になるか?」
「はっ、私としたことが!うーん、でもどうしてでしょう?」
「ユキノがイケメンだからじゃないか?」
「まっさか~」
ヘラヘラしているけど、なぜこんなにも自分がビートル人に惹かれるのか不思議なようだ。
その理由をフジオウは知っている。
彼女はビートル人から転生しているのだ。
そのことを本人は知らない。モンスターと闘えば記憶が蘇るんじゃないかと思ってフジオウはラハルとクエストをこなしているが、まだ何も変化はない。
ただラハルが強くなっただけである。
このままモンスターを狩っていてもらちが明かない。他のビートル人に会わせてみるか……。
「ま、このまま冒険者するなら会うことはなさそうですねえ」
フジオウの心積もりはラハルの何気ない一言によって破壊される。
このままそこそこの冒険者として生きるのも、ラハルにとってはいいのかもしれない。
「すみません、ゴオマさん」
「あん?」
自分の偽名を呼ぶ声にふりかえってみれば、受付嬢が用紙を持って立っている。
「あ、えっとその、集団クエストのご依頼です」
「集団クエスト?」
集団クエストとは普通の規模の冒険者パーティーでは討伐できない対象が現れた際にギルドが出す特別クエストである。
未熟な冒険者に声がかかることはないので、この依頼を渡されるということはその冒険者はかなりの実力者である。
「で、依頼内容は」
「スタンピードです」
「スタンピード!?なんでまた!」
ラハルが大きく驚いた。
スタンピード。それはモンスターの大量発生と大移動。環境の変化や古龍の大暴れなどが原因で発生する自然災害だ。今回のスタンピードは規模が大きく、巻き込まれれば街や都市などひとたまりもないという。
「……古龍の討伐依頼なんて出ていないようだが、原因は?」
「ビートル人同士の喧嘩ですっ!噂によれば、タオユエンではビートル人数人とリヴァイアサンとドラゴンが大激戦を繰り広げたとか」
「ふうん」
「それだけじゃなくロンドやカクラの最高戦力も参加してもはや大戦争。これが原因となってタオユエン周辺のモンスターが活性化して、ここまで逃げてくるようです」
事情を説明する受付嬢の顔は怒っていた。
「大怪獣映画も見る分には楽しいが、住民には災難でしかない……ってとこか」
「どうします、ゴオマさん?」
「あんまり、派手な依頼はなあ……」
万が一活躍してしまえば目立ってしまう。それにこのスタンピードについて、誰の立場に立てばいいか決めかねていた。
考えるのもめんどくさいし断ることにするか、とほぼほぼ決心した段階で依頼主の欄を見て覆す。
「受けるよ」
「ありがとうございます!!ゴオマさんがいれば百人力です」
「大げさな」
何度も頭を下げる受付嬢を前にフジオウは控えめだ。
この腰の低さがまた女性職員の間で好印象になるのだがそれはまた別の話。
「……どうして依頼受けるんですか?まさか、あの子が可愛かったから?」
「何言ってんだお前」
むくれ顔のラハルのほっぺたをつっつきながら、フジオウは不敵に笑う。
フジオウのそんな顔を見たことがなかったのでラハルは少しビクッとする。
依頼主はサマルカン一帯のビートルバム南部を治める諸侯。
カクラでもロンドにも属さない小国が連合していた世界島の南部地域を現在支配しているそいつは、もちろんビートル人。
名をロウト。
フジオウをイジメていたやつらの一人である。
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