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126話 幕間① sideビートルバム アキヅキの疑問

今回登場したビートル人


アオミ(No.3) チート名【Bad and Boujee】:天候を操る

アン(No.8) チート名【Dani California】:能力不明。

カゲロウ(No.41) チート名【グッチギャング】:強酸性の体液。

「う~ん……」


 ここ数日、ヤマナミはアキヅキから視線を向けられている

 理由はわからない。

 例えばウララとアフタヌーンティーを楽しんでいるときに、ふっと視線を感じてそこを見ると、アキヅキと目があう。

 見返した瞬間、アキヅキは視線を逸らしそれまでの作業に戻ってしまう。

 気のせいかと思ったけどやはり気になるし、それにウララがしきりに声をかけるよう勧めてくるので、ついに行動に移すことにした。


「ねえ……そんなに私のこと気になる?」

「うん。最近なんか、妙にね」


 アキヅキの魅力的なさわやかスマイルに乗せた直球ど真ん中の返事。

 優位に立つつもりが一気に逆転されてしまうヤマナミであった。

 自分の顔が耳まで真っ赤になるのが見なくてもわかり、鼓動が一気に早くなる。


「き、ききき気になるって、ど、どこが?」

「うん?なんていうか、その、おばあちゃんが」


 アキヅキの口からおばあちゃんという単語が飛び出し、途端にヤマナミはゾッとする。

 今度は顔が真っ青になり、息が詰まる。

 どうして?アキヅキくんにはおばあちゃんの話してないのに。


「おばあちゃん、が……?」

「おばあちゃんが見える」

「……もう~、や、やめてよ~。そんな怖いこといわないで」


 ひょっとしてあの後以降もちょこちょこウララの部屋で寝ていることがバレてるのかと思い冷や冷やしたヤマナミだった。

 おばあちゃんの悪夢にうなされているなんてかっこ悪い姿を男子に知られるのは恥ずかしい。。

 ほっとして大げさに返事をして、次は別種の怖さに襲われた。


「……ってお、おおお、おばあちゃんが、見える?それって、お、おお、お化けってこと?」


 アキヅキくんは霊感があるのだろうか。

 そして私は異世界に来てまで幽霊に取りつかれたのだろうか?


「いや、幽霊じゃないよ」

「ほっ。よかったぁ~」


「……じゃあいったいナンノ話?」

「なんか、おもしろい2人~~」


 ヤマナミとアキヅキの会話に首をかしげるウララと、それを面白がるカリン。

 彼らは今、お茶会をしていた。

 よく晴れたお空の下、広く温かい宮殿の中庭にシートを敷いて、午後を優雅に過ごしていた。


「えーっと。初めましてカリンさん。トラック乗りの人」

「はーい。カリンでーす。アキヅキちゃんもよろしく~」


 目の横でダブルピースして首をかしげるカリン。相変わらず底抜けに元気だ。

 このお茶会の裏目標は、ヤマナミがビートル人たちの顔と名前を一致させることである。

 なので、このお茶会にはラクとゴトウも来ている。ラクは女子たちとは距離を置いて、ゴトウに一方的に話をしている。

 心なしかゴトウは退屈そうで、カリンたちがわーきゃーしているのをチラチラと見ている。


「あとね。アンちゃん」

「……よ、よろしくお願いします」


 ウララ特製のチャイを両手で抱える女の子が、呼びかけに答えてお辞儀をする。

 アンと紹介された彼女は、大きなメガネをかけた気弱そうな少女だ。

 重たい黒髪の奥にある目はおどおど動いていて、ヤマナミはさっきからあまり目を合わせてもらってない。


「アンちゃんは、No.9。ワタシの一個上。強いヨ」

「い……いえいえいえ。そんなもう私なんて、ただ先に召喚されただけでもう、スイマセン……」


 アンはみんなに注目されながら喋ることが耐えられなかったようで、声がデクレッシェンドしていき、さいごの「スイマセン」に至っては消え入るようだった。


「能力名は【Dani California】。内容は……嘘ぉ……えげつな」

「あああ……また嫌われてしまった……現代日本にいた頃も学校じゃ一言もしゃべることなく……どうしてこうなった……」

「え、いや。そんなつもりじゃ」

「気にしなくていいヨ。アンちゃんはいつもこんな感じ」


 一人ネガティブ思考に陥っているアンを放置して、集まったメンバーの顔と名前を一致させていく。

 ゴトウさんはレプリカを作る人、急用が入って遅刻しているユイコさんはネクロマンサー。


「よう新入り。お前の能力って透過だけなのか?」

「うん」


 チャイにアルコールを混ぜた胃に悪いドリンクを飲みながら、カゲロウがアキヅキに絡んでいく。

 その逆立てた髪と強面の顔のせいで、傍から見ると質の悪い不良が優等生に絡んでいるようにしか見えない。


「ジブラルタを一人で潰したお前が、タオユエンじゃ目立たなかったな」

「ははは。お恥ずかしい」

「イタミがやられたときはどこにいた?」


 怒気を含んだ声は遠くでくだらない話をしていたラクさえ黙らせた。

 和気あいあいとしていたティータイムが水を打ったように静かになる。

 だがそんな重い空気の中でもアキヅキは微笑みを崩さなかった。


「僕が行ったときは手遅れだったよ」


 アキヅキの返答を聞いて、カゲロウは唇を噛み、拳を強く握る。


「友達だもんね」

「ああ……ユキノの野郎は俺がこの手でぶっ殺してやる!!」


 震える声でそう叫んだカゲロウの拳に水滴がぽたぽたと落ちる。

 カゲロウは悔し涙を流していた。


「俺があの時ちゃんと殺しておかなかったから、畜生!!」

「カゲロウ君。一人で抱え込まないで」


 肩を震わせて号泣するカゲロウにヤマナミは思わず慰めの声をかける。

 あの時の異世界召喚には自分もいて、責任の一端は私にだってあるんだから。とカゲロウの肩に手を乗せようとした瞬間。


「あ、ヤマナミさん。触っちゃだめです!」


 そう叫んで、ヤマナミの手をアンが掴んだ。

 同時に、アキヅキがヤマナミの腕を引いて、カゲロウから距離を取る。


「カゲロウのチートは劇薬だ。【グッチギャング】、身体から強酸性の体液を分泌する」


 ぽたぽたと落ちる涙が地面を溶かしている。

 一滴でこれほど物を溶かすなんて王水以上だ。


「畜生……ぜってえ殺す……ユキノおおおお!!!」

「カゲロウって怒ると見境がなくなるんだ。厄介だね」


 ウララやカリンたちはすでに避難している。

 カゲロウの汗が身体についただけでも致命的なので誰も近づけない。


 ポツ……ポツ……ポツ……。


「雨降ってきた。トラウマ」

「そんなはずは、天気予報では今日は晴れのはず」


 朝ヤマナミがスマホのアプリで確認したとおり、ビートルバムの今日の天気は晴れだった。


「違うやんこれ~。ここだけ雨降ってる~」


 雨雲がカゲロウの頭上にしかないことにカリンが気付いた。

 その小さな雨雲から豪雨が降り注ぎ、カゲロウの産を洗い流す。

 こんなことができるのは一人だけだ。


「アオミちゃん、いつからいたノ?」

「……」


 黄色のレインコートを目深にかぶったアオミは全く喋らない。

 ただし仲のいい相手になら小声で話してくれる。

 アオミはウララの耳に顔を近づけ、ぼそぼそと答える。


「始まったすぐ後くらいに来たけど盛り上がってて入りづらかった……?」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


ビートルバム、宮殿、夜。


「カゲロウ、結構怒ってたな。こりゃ僕が殺したってバレるのはまずいな」


 部屋のベッドに横になったアキヅキはなんてことないようにそう呟く。


「それにしても、ビートル人は個性的な人だらけだなあ」


 自分の部屋でアキヅキは楽しそうにつぶやく。

 今日のお茶会には初対面の人がたくさん来ていた。そっちのほうがアキヅキにとってはカゲロウの怒りよりも重要だ。


「次は、ヤマナミのつもりだったんだけどな」


 そう考えるアキヅキの腕がイタミのチートのように伸び縮みする。

 あの時の人格書き換えのとき、アキヅキはイタミの能力を取り込んでいたのだ。

 次の狙いはヤマナミだった。だが計算外のことが起きた。


「ヤマナミの記憶が封印されている。いや、そんなレベルじゃないか。あれはもうファイアウォールだ。どういうつもりだ、アシハラ」


 ずーっとヤマナミを見ていたのはそれを突破しようとしていたからだ。だけど、ようやく見えたのがおばあちゃん。

 一体それが誰で、なぜその記憶をアシハラが封印したのか。

 今日どれだけ悩んでも答えは出なさそうなのでアキヅキはとっとと眠ることにした。

 楽しいことが長く続くに越したことはない。






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