123話 人質の人魚姫
「大きな鉄球だろ。会心の出来だとニコも言っていた。セーレ、リイ。僕につかまってミリゥ様のところまで避難するぞ」
いつの間にか到着してきたソコルルに俺たちは驚いた。
「ところでユキノ。僕の上着をどこへ?」
「あ………………燃やした……」
「燃えたでは、なく……?」
今度はソコルルから非難の目を向けられる。
「おめおめと見逃すわけがないだろう!【新宝島】!!!」
俺達には感知できないが、チュラがチートを発動した。
途端に人魚たちの動きが鈍くなり、中には苦しそうな声を上げる人もいる。
「こっちじゃ民たちよ!!惑わされるな!!」
新宝島の沖からパリキール王の力強い声が聞こえる。
その手に握られているのはトライデント。煌々と光を放っている。
だが間に挟まれた人魚たちは苦しそうだ。
「往生際が悪い」
俺はその場でストンピングをする。魔力が地面のイカダを伝わって、水から上半身を出しているチュラに向かっていく。
「ぐはぁ!」
到達した衝撃を食らってチュラはのけ反り水面に消えた。
その瞬間、人魚たちは解放されたように泳ぎ始める。
「……セーレの魔力流しを、もうものにしたのか。すごいな」
「それどころか、ちょっと追い抜かされてる気がするんだけど」
ソコルルが称賛して、セーレが悔しそうにしているが、今は応える余裕がない。
「ちょっと浅かった。あれじゃあチュラはまだ動ける」
おそらく水中に隠れたのも戦略の一つ。
俺はイカダから水面にジャンプ。
着水する瞬間、足の裏に魔力を流す。
俺は水没することなく、海面に立っていた。
おそらくあいつはか弱い女を狙うだろうと、人魚の集団の方、そしてパリキールとアピアがいる方角に向かって走り出す。
「だいぶ追い抜かされた気がする……」
そんなセーレのつぶやきが聞こえてきた。
「……物心ついてから、泣いたことなどなかった」
「あん?」
「どんなにつらくても我慢したさ。男だったからな」
走ってる俺の前に、チュラのほうから姿を見せてきた。
なんか悲しげな顔をしている。
「いつだったか。溺れている女の子を助けたことがあった。昔からガタイがよくてね。周りに期待に応えたんだ。先生にも市長にも表彰されたっけな。でも次の日には、相変わらずクラスの隅で一人で飯を食っていた。防犯があるから助けた女の子のフルネームも知らない。俺を好いてくれたのは、事務手続きだけだった」
「そりゃあ、気の毒なことで」
「いま思えば、あいつらの称賛も今のお前と同じテンションだった」
「助けた女の子からのお礼は?」
「水を飲んでて気絶しっぱなしだよ。親に言われて感謝させられていた」
チュラが消える。
次の瞬間、足首を掴もうと手だけが出てきた。
だから足首に魔力を流すと、チュラの手は電気に触ったみたいにはじかれた。
「……やはり厄介だ、その魔法」
「異世界合気道と呼んでくれ」
どこからか聞こえるチュラの声に俺はそう返した。
これから人魚たちが泳いでいる上を通る。
そこで何かされたら、うかつに反撃できない。
「ちょっと失礼しますよ」
「きゃーーー!!!さっきのビートル人!!助けて!」
俺に気づいた数人の人魚が悲鳴を上げる。
それはすぐさま集団全体に伝わり、数百人全員がざわめきだす。
集団で移動している真ん中にいきなり顔出したっていうさっきのことがあるから印象が悪い。
パニックを起こされるとまずいんだが。
「だ、大丈夫、です!ユキノさんは、悪い人じゃ、ありません!」
パリキール王の代わりに誤解を解いてくれたのは、アピアだった。
しかも、小屋から外に出ている。
「ユキノさんのおかげで、トライデントが返ってきました。私もこうして外に出られます。だから彼を、信じて」
鶴の一声。
元気そうな王女の姿と輝くトライデントを見て、人魚たちも安心したらしい。
「アピア様が小屋の外に!」
「チュラからトライデントを取り返したのが、この子?」
「よく見たらチュラとは違ってイケメンじゃん」
なんか不真面目なやつもいるけど、とりあえず、人魚たちがパニックになることはなさそうだ。
「彼は私の友達だ。皆の者、早くこちらに!!」
パリキール王の呼びかけがダメ押しとなって、人魚たちはまた泳ぎ始めた。
【新宝島】を退けるためにはよかったけど、いつまでもアピアが外に出ているのはまずい。
「アピア!早く戻るんだ!」
飛んで来てくれたソコルルに人魚たちを任せて俺はアピアのもとに急ぐ。
だが一歩遅かった。
トライデントを掲げるパリキール王に水弾が向かう。
王もとっさに身を避けようとしたが、そうすればアピアに当たることに気づいて被弾した。
「最悪だ……」
チュラの次なる標的はアピアだ。
今からダッシュして間に合うか……!
「お、お父さん……」
「アピア……トライデントを守るんだ……」
「一手、遅かったな」
浮かんでいるアピアの小屋が上空に吹き飛ぶ。
ニコが中に詰めたクッションが粉々になって宙に舞う。
そのがれきの中からチュラが飛び出してきて、アピアの首を掴む。
「うっ……うう……」
「トライデントを渡すんだ。女を苦しませるのは趣味じゃない」
あくまで紳士的な口調のチュラだが、腕に込められた力には殺意がこもっている。
「近づくな、ユキノ。それ以上近づいたらこいつを殺す」
あくまで静かなトーンをしているが、目は座っている。
追い詰められて覚悟を決めたか。
「人魚たちの避難は完了した!セーレたちもボートに乗った。あとはチュラを倒すだけだ!」
「そこのドラゴニュートもだ。そして上のふざけた鉄球を止めろ」
鋭利なエラをアピアに突き立てて、チュラはソコルルを制止する。
飛んで報告に来たソコルルもその状況を見て俺のそばに降り立った。
「どうする?」
「水に魔力を伝わせて遠隔攻撃する……か」
ソコルルと策を練っていたら、チュラが自分のウロコを弾き飛ばしてきた。
「「いってぇ!」」
読まれてた。
足と羽にウロコが突き刺さって、俺たちは動きを封じられた。
「中で砕けやがったぞこのウロコ!【ヒーリングファクター】が効かねえ」
完全に異物を取れないことには、俺のチートはいまいち働かない。
「トライデントを渡す気がないなら仕方ない。【新宝島】」
「あっ……」
チートによって意識が飛びかけるのに必死で抵抗するアピア。
万が一チュラの支配下に置かれてしまえば、下手をしたら付近一帯のお魚さんたちが俺たちに向かってくる。
「うぅ……うぅぅ……」
「やけに抵抗するじゃないか。こんなに強く拒絶されるのは初めてだ」
「だ、だって……私が、負けたら、みんな……」
「ソコルル」
「わかった。お返しを期待しているぞ」
ソコルルが羽ばたき、砂嵐を起こす。
【新宝島】を発動している間、チュラはほかの行動ができない。
チャンスは一度きりだ。絶対に成功させる。
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