121話 復活のムシマル、水平線の彼方に消える
「すごいですねえ。手つかずの資源にあふれています」
ミリゥの力で海を割ってもらい、海底に触れたニコがしみじみと感動している。
ニコの能力であるクラフトは触れたものを作り変えるものだ。単に既製品の形を変えるだけではなく、地面に触れて地形を変形させたり、あるいは地下鉱物を抽出こともできる。
アキナの鉄球を作るためにニコが地面に触れる必要があったので、ミリゥに頼んで海を割ってもらったのだった。
「う~む、ミリゥ殿も先代に肩を並べるようになってきましたな」
「ミリゥ様、すごいです。それに、ユキノさんも」
パリキールとアピアも、初めて見るその光景に驚きを隠せない。浅瀬とはいってもパリキールの体躯を超える深さはある。その海が彼らのいる範囲だけぽっかり穴が開いたようになっているのだ。
「アッキー、遊んでる暇ないっすよ~。こんな天変地異をミリゥ様にお願いするなんて前代未聞っす。とっとと終わらせるべきっすよ」
「ゆっくりで大丈夫ですわ。きっとこれくらいならベヒモスさんも許してくれるでしょうし」
「よくわかんないけど、ガウッ!!」
ミリゥとヒータンの注意をフィーリングで理解したアキナが、ニコの様子をうかがう。
「大丈夫です。もうほとんどできてます。最高品質の一球が作れそうですよお」
「うおっと、なんだこれは。すごいな」
「ソコルル!!!」
見知った声が聞こえたので見上げると、ソコルルが飛来していた。
「む、ソコルル殿!その手に持つのはもしや!?」
「あぁそうだ。取り返してきたぞ!」
手に持ったトライデントを下にいるパリキールたちに振ってみせるソコルル。
パリキールやアピア、ミリゥも喜んでいる。
だから。
「うひひひひ、油断してる!!」
背後から急接近するムシマルに気が付かなかった。
「うぁっ!!!」
ハイスピードのムシマルがソコルルの脇を通り過ぎた瞬間、ソコルルは体勢を崩し落下し始める。
見ると、片方の羽の一部が食いちぎられ、欠けていた。
「これが、オニヤンマだ……!」
大きな複眼と大きな4枚の羽をもったムシマルが、ソコルルの羽を咥えて不敵な笑みを浮かべている。
ユキノのドロップキックを食らって一時は戦闘不能になったムシマルだったが、実は意識を取り戻していた。夜空に飛んでいくソコルルを見かけ、その手にトライデントを手にしていることに気づき、とっさに尾行することにしたのだった。
だがトライデントを奪うことには失敗した。
「ソコルル!!」
「不覚……だがまだ飛べるさ」
アピアの絶叫に対し気丈に振舞うソコルルだが、滞空が安定しない。
と、その時である。
「ここで会ったが百年目ですわ!!海を荒らす不届き者め!!!」
周囲に津波を起こしながらミリゥが海上からジャンプ。
「うわああああああ!!!リヴァイアサン!!?」
そのまま大きな口でムシマルを丸飲みにした。
「やりましたわ。私、海を統べるリヴァイアサンとして久しぶりに仕事しましたの。やはりいいことをすると気持ちがいいで……」
ムシマルを口の中に入れたまま喋っていたミリゥだったが、途端にその表情が厳しくなる。
「うげぇぇぇぇっ!!!」
ミリゥがとても苦しそうな顔で、何かを吐き出した。
よりにもよってアキナたちがいる穴のところにである。
吐き出されたのはムシマル。
その姿はまるで。
「毛虫ぃ!!!」
「一瞬の隙を突いた……危なかった……」
ミリゥの口の中に囚われたムシマルはとにかく牙を避けながら、とっさに毛虫に変態。
ミリゥのほっぺに毒針を突き刺して脱出できたのだった。
「う~~~、くひがしびりぇてしゃべりぇにゃい」
「いひひひひひひ、お前らの最強戦力を削いでやったぞ。リヴァイアサン以外で僕に勝てるやつはここにはいない!!」
ミリゥが毛虫の毒で麻痺しているのを見て、ムシマルが勝ち誇ったように笑う。
だが。
「ははは。面白い勘違いだ。さすがビートル人だな」
「なにい……!?トカゲ人間が偉そうに。いいだろうお前からぶっ殺してぎゃ……!!!」
調子に乗ったムシマルの殺害予告は、途中で強制終了となった。
横からの大きな衝撃によって吹き飛ばされたのだ。
その勢いは穴から海中に飛び込んでも衰えることなく、水の抵抗なんてものともせずあっという間に水平線の向こうに消えていった。
「すごいな。鉄球も大きかったし、それを投げるアキナも」
ムシマルを地の果てに吹き飛ばしたのは、アキナが投げた鉄球だった。
ソコルルが突如空からムシマルを挑発したのは、アキナの投球モーションに気づかれないようにするためだった。
「いえーい!!!ソコルルもありがとう!あんなでっかいボール投げるの初めてだったからさあ!!」
「次投げるのはもっと大きいですよ」
降りてきたソコルルとハイタッチするアキナとニコ。
ソコルルの手にはトライデントが握られている。
「なんと感謝すればよいか……」
「礼には及びませんよ」
ソコルルがトライデントをパリキール王に手渡そうとする。
その時であった。
「あ……あの、父上!」
檻に手をかけて、アピアがパリキールを呼び止めた。
「どうした?」
「わ、私に、させてください……」
最後のほうは声が小さくなって聞き取りづらかったが、それはとても大胆な申し出だった。
傷つきながらもトライデントを奪還してきたソコルルを目の当たりにして、ずっと檻の中で「囚われのお姫様」でいる自分に我慢がならなくなったのだ。
「アピアよ。それは自分も役に立ちたいということか?」
「そ、そうです……。私でも、大丈夫なはず……です」
「その心意気やよし。出来るやもしれぬが、今はリスクを回避すべきだ。お前が活躍するのは今ではない」
「そ……そうですよね」
パリキールはアピアを見くびっているのではないし、彼女の気持ちを尊重したいとも思っている。
だが今は一刻の猶予もない事態。
まだ練習中のアピアに任せるよりは自分がトライデントを使うほうが理にかなっている、というまっとうな判断だ。
「……アキナ。行って言葉をかけてあげるんだ」
「ん~……ま、アピアもすぐ大活躍できるよ!!!!!!」
ソコルルに従い檻まで行って、アピアの顔近くでサムズアップを作りながら、彼女なりの温かい言葉をかけるアキナ。
その言葉が実現するのに時間はかからなかった。
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