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120話 パリイ、そして合気道

「力づくでクェゼリン投げ飛ばしたの?」


 さかのぼること一日。

 出会ったばかりのアピアたちと海辺でBBQしているときだった。

 俺がクェゼリンを裏投げした話に、セーレが食いついた。


 白いほっぺが真っ赤に染まって、目が充血している。

 まだ果実酒をコップ半分飲んだだけのはずなのに。


「力づくだったけど、それがどうかしたか?」

「異世界人って魔力たくさん持っているからいいけど、燃費悪いよ」


 燃費?


「燃費。腕ないときに魔力で材木運ぶ練習したでしょ。その時に教えとけばよかったんだけど」


 魔力は目に見えないからイメージをしっかりしろってな話だったな。

 その指導のおかげで俺は空を跳ぶことができた。あれは、足から放出した魔力障壁が空気を押し出しているイメージだ。


「空跳ぶのは予想外だったわ。で、もっといい跳び方があるの」


 そういうとセーレは手のひらをこっちに向けてきた。


「殴ってきて、全力で」

「マジでか?」


 自転車に乗れないセーレだが、口を閉じているととても凛々しい顔をしている。

 そんな顔で見つめられたら言うとおりにせざるを得ないだろう。

 目が血走ってるけど。


「ふんっ」


 差し出された柔らかそうな手のひらに向かって思いっきりパンチを打ち込んだ。

 次の瞬間。


 俺の身体は宙を舞っていた。

 きれいな夜空と逆さになったタオユエンの街並みを見ていたら、顔の前に白い手が伸びてきて、途端に喉元にピンポイントで圧力がかかって、すさまじい勢いで砂浜にたたきつけられた。


「お?セクハラした?」

「喧嘩だああああああ!!!!!」


 カクラ姉妹がはやし立てて、ソコルルとニコはおもしろそうに見物しているが、他は真面目に心配してそうだ。

 特にアピアがおろおろしている。

 即刻立ち上がって、誤解を解く。


「あぁ~。魔力流しのレッスンか~。私も教えてもらおっかなあ」

「魔力流し?」


 魔力流し。それは発動する相手の魔力をそっくりそのまま受け流し、自分の魔力を重ねて相手に跳ね返す技のことである。


「つまり俺は自分のパンチの力で投げ飛ばされたってことか」

「そうよ。パンチにこもった魔力を跳ね返したの」

「この技、リイも使えんのか?」


 魔法使える異世界人なら誰でも使えるスキルなのか、という質問にリイは首を横に振る。


「まっさかぁ。パリイなら私もできるけど、魔力流しなんて器用な真似はムリ」


 曰く、相手の攻撃をジャストタイミングでガードして受け流すパリイくらいなら自分もできるが、相手の魔力を完全に保存したままさらに自分の魔力を上乗せするなんて芸当は魔法に長けたセーレにしかできないとのこと。


「喉に魔力刺してきたのは」

「ん~まあ、おまけ?喉元を狙うなんて普通の模擬試合でやったら一発退場」


 ……酔った勢いということで大目に見よう。


「ま、なんにせよ。まるで合気道だな」

「あいきどー……異世界にも似たようなのあるんだ。でも魔力ないんでしょ?」


 気ならあるぞ。

 俺は見たことないけど、合気道してるやつには見えるらしい。


「気を合わせる……?よくわかんないけど、こういうこと?」


 そういってうずくまったセーレが、俺の足首を軽く握った。

 その瞬間、脚が脚気の検査みたいに勝手に動いて、盛大にすっころんだ。


「なんだ今の!?自分の脚じゃなかったみたいだ!」

「魔力流しの応用?相手の体内に魔力を流して操る、みたいな?」


 簡単そうに言うが、もしかしてそれはとてつもないスキルなんじゃないだろうか。


「すっご。いつの間にマスターしたのそれ」


 リイも驚いているし、かなり上級の魔法なようだ。


「私は私で一人自分を鍛えていたのよ。大気に魔力を伝えて操るパパの【フェフェルの火】はさらにその上だから」

「ところで、こんな便利な技、なんで今まで使わなかったんだ?」


 という質問にセーレはきょとんとした顔で答えた。


「だって、敵に触れなきゃいけないじゃない。ケガするリスク取るより、鎖使ったほうが安全」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 意識は現実に戻る。

 俺は今チュラのスリーパーホールドによって締め落とされる寸前だ。

 魚人の力は人間の10倍とチュラが豪語していた通り、その怪力は本物だ。


 俺の首を締め上げるぶっとい腕は、とてもじゃないが力で引きはがせる代物じゃない。

 意識が飛ぶよりも、首の骨が折れるのが先かもしれない。


「ふっふっふ。そろそろ気持ちよくなってきたころかな。女みたいな顔したお前をこうして絞め殺そうとしていると、不思議な興奮で心臓がバクバクしているよ」


 もがくことさえ止めた俺を見てチュラは勝利を確信している。

 しっかし、ヒャクイチといい、モテてなさそうなビートル人はどうしてこうも性癖が曲がっているのか。


 確かにセーレの言う通り、異世界の敵においそれと触るのは危険だ。

 肌から毒がにじみ出てるやつもいるだろうし、普通の人間でも服に何らかの付与魔法を施しているかもしれない。


「例えば、触れた相手を青サバにする魔法とかな」

「幻覚でも見てるのか?」


 だが俺にとっちゃ関係ない。

 全部治せるんだから。


「魔力、合気!」


 どくどくと脈打つチュラの腕を両手でつかんで、そのリズムに同調するように魔力を流し込む。

 瞬間、チュラの腕は糸に引っ張られたみたいに明後日の方向に動く。

 解放された俺はその隙に脱出。


「…………………………は?」


 こちらをご覧くださいってな具合に振り上げられた自分の腕と脱出した俺を、チュラは不思議そうな顔して交互に見つめていた。


「ビタミンB1をきちんと摂ってるようだね、チュラさん」

「……ほざけ!!」


 憤怒に燃えたチュラが猛スピードで接近。

 そのデカい足で繰り出すビッグブーツだ。


 俺の顔より大きい足の裏から、俺は目を離さなかった。

 集中しろ。

 叩き払おうとするのではなく、捕まえるようにゆっくりと手でつかみに行く。

 そして受け取った力を別方向へと誘導する。


「なにい!?」


 ビッグブーツが空ぶったチュラは、そのまま足を突くことなく、むしろ俺の力が上乗せされたせいで、宙を舞う。

 まるでチュラの脚を掴んで俺が一本背負いをかけたような格好だ。


 なすすべもなく、チュラは顔面から湯殿の床に勢いよく激突。


 埋没していた鼻がさらに潰れ、鼻血がだぼだぼと流れ落ちている。


「貴様、俺にいったいなにをした!?」

「仲間に教えてもらった技さ。お前も、付与魔法ぐらい学んでおくんだったな」





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